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16.魔術学院へ

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 魔術学院へ行く事はとんとん拍子に決まって行った。

 それにつれて、マリーンは不機嫌になり、特にヴィエルジュ伯爵に対して超塩対応になってきた。

「お母様、私、お義父さまが大嫌いですわ!だってシタンを産んだお母様が亡くなったのは、シタンのせいではありません。私、シタンが可哀そうでしかたがないのです。もし、私がシタンだったらと思うとたまらなくなるのです」

「マリーン、そうね。貴女がいっている事はすごくまともで当たり前の事なのよ。貴女が心を痛めるように、私も心が痛いわ」

「だったら、もっとお義父様にお母様からなんとか言ってもらえないの?」

「ねえ、マリーン。――――人の心は弱いのよ。特に亡くなった奥様の事では旦那様はご自分も許せないのでしょう。そして、それだけではなくどうしても、憎む対象が居なくては自分を保っていられなかったのだと思うわ」

「でも、そのせいでシタンは酷い目に遇っていたのよ!」

「そうね。許せない事よね。でも、心の底では反省されてもいるはずよ。大人の立場で今となっては、もう、ごめんなさいではすまないのよ。時が解決するのを待つしかないわ。だから私達はその間のクッションになってあげないといけないの。これ以上こじれないように」

「でも、このままじゃシタンが、家を追い出されてしまうわ」

「大丈夫。私は逆にこのことでお互いが離れてみたら、別の角度で見る事が出来る様になるのじゃないかと思うわ。近すぎて、今は優しく出来ない関係なのよ」

「・・・難しくて分からないわ。だって、私にとってシタンは本当の妹だもの。ものすごく可愛いの」

「そうね。私もそうよ。これは神様が下さったギフトなの。私達はシタンちゃんが貰えなかった愛情をその分かけてあげましょう。せっかく家族になる縁があったのだからそういう役目をもっていたのだと思うの」

「・・・はい。私、もっともっとシタンを大切に思うわ。そしてシタンが自慢できるような姉になるの」

 そんなマリーンをお母様が抱き締めるのを私は物陰から見ていた。

 図書室で本を読んでいて、部屋に戻る途中で二人の会話をしている所に行きあたってしまったのだ。

 そっともう一度図書室に戻る。

 ちょっともう、なんか、胸がいっぱいになった。

 この世界で、シタンはちゃんと愛情をもらっている。本当の母娘だとか、そういうのじゃなくてもこんなに愛して貰えるのだ。良かった。良かったねシタン。

 

 それからは目まぐるしく学校への準備が進み、すぐに学校への入学がやって来た。

「同じ王都に住んでいるのだから、帰れるときには連絡しなさいね」

 と、おかあさまにいわれた。

「おねえさま、そんなに泣かないで、お手紙書くから待っててね」

「うん、うん。私も書くからね」

 マリーンは大号泣で、目も鼻も真っ赤になっていた。

 お母様とマリーンには治癒魔法を刺繍に込めて付与したハンカチを渡す。

「おねえさま、おめめが兎さんになってるから、このハンカチで抑えてたら早く治るからね」

「わあ、綺麗ね。ラベンダーのお花がシタンの瞳と同じ色ね。ありがとう。怪我とかしないでがんばって」

「はい、おねえさま」

「シタンちゃん、何かあったら、直ぐに連絡をしてくるのよ」

「はいおかあさま。いろいろご準備して頂いてありがとうございました」

 抱擁を交わし、荷物を積んだ伯爵家の馬車に乗り込む。

 窓から手を振った。

 ここから私の学園生活が始まるのだ。家を出た嬉しさや、いろんな複雑な思いが去来する。

「さて、どんな生活が待っているかな。楽しみ・・・」

 一時間もかからずに、学園の門に到着する。御者が魔法の割符を翳すと門が自動的に開いた。

 さすが、魔術学院だ。広い敷地に歴史ある古い建物が聳え立っている。

 門を突っ切り正面玄関まで馬車で行くと、馬車留めがあり荷物係の人が手押し車に荷物を積んでくれて女子寮まで案内してくれるとの事だった。

 その日は、女子寮の割り振られた部屋に案内されて、学生寮監が来るまで待って居る事になった。

 取り敢えず、備え付けのクローゼットや机に荷物を自分で振り分けて行く。

 普通の貴族令嬢であれば、侍女が全てしてしまう事なので、一人でしなければならないとなると戸惑う所だけど私には前世の一般人の記憶があるので何てことも無かった。

 この学校には指定の制服がある。入学前に学校からの指定テーラーでおかあさまが作って下さっていて、5着ずつ程同じ物が用意されている。

 白地に紺色と金の飾りのついたショート丈の上着に、下はリボンタイの白のブラウスに紺のひだスカートになっている。

 紺のひだスカートの縁にも金のラインが入っていて、とても素敵だった。

 寮に居る時は普段着で良いとの事だったので、軽くて動き安いワンピースドレスを着る事にする。

 そうして待っているとドアをノックする音が聞こえた。

 

 

 



 
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