9 / 17
9.母の手紙
しおりを挟む
「母が・・・私を愛してくれていたのはとてもよく分かっています。ですが、王都に寄った時に知り合った人に、私の着けている指輪に呪いがかかっていると言われました。それは、母が私の守護に身に着けさせてくれた指輪です。そのことがどうしても気になって、ミケーネス伯にもみてもらえればと思いました」
「どれ、ああ、本当だ。確かに呪いだ。だが、それだけじゃなく・・・この指輪が君を守護しているのも間違いない。とても複雑な術式が組み込まれているね」
私が差し出した左手を暫く観察して、彼はそう言った。
ミケーネス伯の左目に魔法陣のような形が浮き上がり青く光って見えた。彼には何かしら私には分からない魔力が見えるようだ。
「あの、私には呪いというものがよく分からないです」
「そうだね・・・守護も過ぎれば呪いと変わらないかもしれないが、この指輪にある呪いと守護は別物で、大変高度な魔法が使われているようだ。間違いなくゼフレールの施したものだ。この指輪をこのままずっと身に着けているのは良くない。外した方が良い」
「やはりそうなんですね。でもどんな呪いなんでしょうか?何のための?私はそれが知りたいのです」
「この指輪は君のマナを奪っている。君の本来の魔力はもっと強いはずだ」
「私のマナを奪う?・・・この指輪を外せば、私は魔力が強くなり魔女になれるという事ですか?」
意味が分からない。どういう事だろう。
「いや・・・それは違う。君は魔女ではないから」
「それは・・・そう、そうでした」
魔女は赤い髪に緑の瞳をして生まれる。だから私は違ったのだ。
黙り込んでしまった私を導くように、彼は私にそっと声をかけてくれた。
「まず、君は彼女からの手紙を読んでみたらどうだろうか?ゼフレールが何を考えどうしようとしていたのか、君は彼女の言葉で知る必要があるだろう。手紙を読んだあと君の助けになれることがあれば、私が相談に乗ろう」
もしかすると、彼は何かを知っているのではないだろうか?そんな気がした。
彼から分厚い封筒を渡される。赤い封蝋のされた茶色の封筒には棘草の模様が型押しされている。
「ありがとうございます。じゃあ失礼して、寝室の方で読ませていただきます」
「そうしなさい。それと、箒は君の部屋に届けてあるから後で確認してくれるかい?」
「はい、分かりました」
私は部屋に戻ると、シャワーを浴びて着替えた。ヨーイは、アド・ファルルカがメンテナンスに診てくれるというので頼んだ。母程ではないが、自動人形にも詳しいとの事だったからだ。
ヨーイも傍にいない夜、母からの手紙を開いた。
+++++
この手紙をあなたが読んでいるという事は、私はこの世にいないのでしょう。
生涯の友であるアド・ファルルカにこれを託しました。
彼には酷な頼み事をしてしまい申し訳なく思います。
何故、手紙を他人に託したのかというと、貴方の成人の日に私が懸けた魔法が解けるようにしているからです。
戦争が長引いたり、私がこの世界から消えてしまった場合の事を考えました。
もし、魔法が解けた時に私がいなければ、あなたは何が起こったのか分からずに自分自身が何者なのかを迷う事になるでしょう。それを避けたかったのです。もしもの保険に彼に託しました。
信頼している彼の手ずからあなたに渡してもらう事を望みました。
あなたの運命を歪めた私の存在はゆるされることではありません。この手紙をあなたが読んでいるということは何かが起こって私が消滅したことでしょう。だとしてもそれは私自身の選んできた結果です。誰のせいでもありません。
まずは、あなたに真実を伝え懺悔します。
私はあなたの本当の母親ではありません。
生まれたばかりのあなたを浚い、あなたからも母親を奪ってしまいました。これは許されないことです。
亡くしてしまった自分の子供の代わりに報復としてあなたをブラノア伯爵夫婦から奪ったのです。
どうしてそんな事をしてしまったのか、今となっては頭がおかしくなっていたとしか思えません。
私は怒りに支配されて自分を失っていました。
そうして傍に置いた幼いあなたに真実と嘘を混ぜて教え、自分に都合の良いように育てました。
ただ、どうしようもなく、あなたが愛おしくてたまらず、返す事などできなかった。
あなたの父親はレンドル・レク・ブラノア伯爵です。爵位を持つ前に、彼は私と結婚を約束していました。だけど彼は亡くなった自分の兄の代わりに伯爵家を継ぐと決めて、いとも簡単に私を捨てて貴族の女性と結婚しました。
そして生まれたのがあなたです。
私は彼との間に授かった子供を、裏切られた事で流産してしまったのです。許せませんでした。
そのことを彼自身は知らなかったけれど。知ったとしてもどうなのだろう。何も変わらない。
+++++
私は食い入るようにここまで母の手紙を読んでいたけど、ふと違和感に眉をひそめた。なぜなら辻褄が合わないのだ。
――――ブラノア伯爵家の娘が私だというのなら、王都にいる私そっくりの彼女は誰だというのだろう?
だって母の子供は亡くなっているのでしょう?そこにいる彼女は誰だというのだろう?
「どれ、ああ、本当だ。確かに呪いだ。だが、それだけじゃなく・・・この指輪が君を守護しているのも間違いない。とても複雑な術式が組み込まれているね」
私が差し出した左手を暫く観察して、彼はそう言った。
ミケーネス伯の左目に魔法陣のような形が浮き上がり青く光って見えた。彼には何かしら私には分からない魔力が見えるようだ。
「あの、私には呪いというものがよく分からないです」
「そうだね・・・守護も過ぎれば呪いと変わらないかもしれないが、この指輪にある呪いと守護は別物で、大変高度な魔法が使われているようだ。間違いなくゼフレールの施したものだ。この指輪をこのままずっと身に着けているのは良くない。外した方が良い」
「やはりそうなんですね。でもどんな呪いなんでしょうか?何のための?私はそれが知りたいのです」
「この指輪は君のマナを奪っている。君の本来の魔力はもっと強いはずだ」
「私のマナを奪う?・・・この指輪を外せば、私は魔力が強くなり魔女になれるという事ですか?」
意味が分からない。どういう事だろう。
「いや・・・それは違う。君は魔女ではないから」
「それは・・・そう、そうでした」
魔女は赤い髪に緑の瞳をして生まれる。だから私は違ったのだ。
黙り込んでしまった私を導くように、彼は私にそっと声をかけてくれた。
「まず、君は彼女からの手紙を読んでみたらどうだろうか?ゼフレールが何を考えどうしようとしていたのか、君は彼女の言葉で知る必要があるだろう。手紙を読んだあと君の助けになれることがあれば、私が相談に乗ろう」
もしかすると、彼は何かを知っているのではないだろうか?そんな気がした。
彼から分厚い封筒を渡される。赤い封蝋のされた茶色の封筒には棘草の模様が型押しされている。
「ありがとうございます。じゃあ失礼して、寝室の方で読ませていただきます」
「そうしなさい。それと、箒は君の部屋に届けてあるから後で確認してくれるかい?」
「はい、分かりました」
私は部屋に戻ると、シャワーを浴びて着替えた。ヨーイは、アド・ファルルカがメンテナンスに診てくれるというので頼んだ。母程ではないが、自動人形にも詳しいとの事だったからだ。
ヨーイも傍にいない夜、母からの手紙を開いた。
+++++
この手紙をあなたが読んでいるという事は、私はこの世にいないのでしょう。
生涯の友であるアド・ファルルカにこれを託しました。
彼には酷な頼み事をしてしまい申し訳なく思います。
何故、手紙を他人に託したのかというと、貴方の成人の日に私が懸けた魔法が解けるようにしているからです。
戦争が長引いたり、私がこの世界から消えてしまった場合の事を考えました。
もし、魔法が解けた時に私がいなければ、あなたは何が起こったのか分からずに自分自身が何者なのかを迷う事になるでしょう。それを避けたかったのです。もしもの保険に彼に託しました。
信頼している彼の手ずからあなたに渡してもらう事を望みました。
あなたの運命を歪めた私の存在はゆるされることではありません。この手紙をあなたが読んでいるということは何かが起こって私が消滅したことでしょう。だとしてもそれは私自身の選んできた結果です。誰のせいでもありません。
まずは、あなたに真実を伝え懺悔します。
私はあなたの本当の母親ではありません。
生まれたばかりのあなたを浚い、あなたからも母親を奪ってしまいました。これは許されないことです。
亡くしてしまった自分の子供の代わりに報復としてあなたをブラノア伯爵夫婦から奪ったのです。
どうしてそんな事をしてしまったのか、今となっては頭がおかしくなっていたとしか思えません。
私は怒りに支配されて自分を失っていました。
そうして傍に置いた幼いあなたに真実と嘘を混ぜて教え、自分に都合の良いように育てました。
ただ、どうしようもなく、あなたが愛おしくてたまらず、返す事などできなかった。
あなたの父親はレンドル・レク・ブラノア伯爵です。爵位を持つ前に、彼は私と結婚を約束していました。だけど彼は亡くなった自分の兄の代わりに伯爵家を継ぐと決めて、いとも簡単に私を捨てて貴族の女性と結婚しました。
そして生まれたのがあなたです。
私は彼との間に授かった子供を、裏切られた事で流産してしまったのです。許せませんでした。
そのことを彼自身は知らなかったけれど。知ったとしてもどうなのだろう。何も変わらない。
+++++
私は食い入るようにここまで母の手紙を読んでいたけど、ふと違和感に眉をひそめた。なぜなら辻褄が合わないのだ。
――――ブラノア伯爵家の娘が私だというのなら、王都にいる私そっくりの彼女は誰だというのだろう?
だって母の子供は亡くなっているのでしょう?そこにいる彼女は誰だというのだろう?
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
【完結】転生辺境伯令嬢は可憐な魔法少女を目指しますッ〜心ゆくまで気の済むまで殴っても宜しいでしょうか? 勿論物理で〜
haru
ファンタジー
第16回ファンタジー小説大賞参加応援ありがとうございました🙇
ソフィア・レイド・グレーン(16歳)は、偉大なる王国の端に広大なる土地と魔物の彷徨く森を有する辺境伯の嫡女である。
でもって社畜女子転生者でもある。
彼女の目指すは世界最強?の魔法少女っ!!
かもしれない・・・
▲▲▲本編▲▲▲
「婚約者様をエスコートもせず放って置くなど、おやめ下さい」
侍従姿の青年の言葉から始まる、卒業を祝う為に卒業生達を招いた王宮の夜会会場。
婚約者とは違う女性を肘にぶら下げて現れたのは婚約者の王太子。
そこへ、スタンピードの恐れありと辺境伯領から知らせがやって来て・・・
ヤンデレ拗らせ溺愛系王太子に、脳筋愉快犯系従兄弟。
モフモフとは程遠い偉そうな巨大(但し最初だけ)使い魔や、世界を箱庭と呼ぶ魔人。
今生での大切な人との出会いと前世との決別。
果たしてソフィアは世界最強の魔法少女になれるのか?
⚠基本はコメディーですご了承下さい(_ _)
▲▲▲外伝▲▲▲
転生ヒロインだったリナ(リーナ/里奈)のその後のお話しです。
リナは元ギルド職員現在冒険者のスタンにアピール中ですが何だか邪魔者?が。
そんな時にリナの所属する北の砦近くの森の中でゴブリンの集落が見つかって?
▲▲▲
文字溢れるアルファポリスの大海原より釣り上げて頂きありがとうございます✨(_ _)
お気に入り登録や、栞の移動が現在作者のモチベアップの燃料になっております (人*´∀`)。*゚+
エール応援もありがとうございます!!
設定はゆるふわな上に作者は誤字脱字病を患っている疑い大いに有り。
口調、身分設定、貞操観念等はマジ適当。
そこにお怒りを感じる方はブラウザバックも視野にお入れ下さい♡
…ᘛ⁐̤ᕐᐷ Bow and scrape♡
偶にAI画像入ります(_ _)気になる方はすっ飛ばして下さい(_ _)
8/23 女性hot 10位ありがとうございます✨
魔王の右腕は、拾った聖女を飼い殺す
海野宵人
ファンタジー
魔国軍の将軍ダリオンは、ある日、人間の国との国境付近に捨てられていた人間の赤ん坊を拾う。その赤ん坊は、なんと聖女だった。
聖女は勇者と並んで、魔族の天敵だ。しかし、ここでダリオンは考えた。
「飼い主に逆らわないよう、小さいうちからきちんと躾ければ大丈夫じゃね?」
かくして彼は魔国の平和を守るため、聖女を拾って育てることを決意する。
しかし飼い殺すはずが……──。
元気にあふれすぎた聖女に、魔国の将軍が振り回されるお話。
あるいは、魔族の青年と、彼に拾われた人間の子が、少しずつ家族になっていくお話。
本編二十六話、番外編十話。
番外編は、かっこいいお姉さんにひと目ぼれしちゃったダリオン少年の奮闘記──を、お姉さん視点で。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
(完結)異世界再生!ポイントゲットで楽々でした
あかる
ファンタジー
事故で死んでしまったら、神様に滅びかけた世界の再生を頼まれました。精霊と、神様っぽくない神様と、頑張ります。
何年も前に書いた物の書き直し…というか、設定だけ使って書いているので、以前の物とは別物です。これでファンタジー大賞に応募しようかなと。
ほんのり恋愛風味(かなり後に)です。
偏食王子は食用奴隷を師匠にしました
白い靴下の猫
恋愛
死に体の5番目の王子が、すぐれものの食用奴隷に出会って、恋をした。彼女を師匠にしてすくすく頭角を現していくけれど、食用奴隷の寿命が短いのを理由に師匠が逃げ回るものだから。捕まえて、くすぐって、縋り付かせて。どんな手を使ってでも師匠がら恋情を引き出そうと頑張る男の子のお話。前半はRなしです。後半に入るR描写は※をつけます。抵抗のある方は飛ばしていてもお話は通じるかと思います。
お兄様が攻略対象者で妹のモブ令嬢のはずですが、攻略対象者が近づいてきて溺愛がとまりません。
MAYY
恋愛
転生先が大好きだったゲームの世界だと喜んだが、ヒロインでも悪役令嬢でもなく…………モブだった。攻略対象のお兄様を近くで拝めるだけで幸せ!!と浸っていたのに攻略対象者が近づいてきます!!
あなた達にはヒロインがいるでしょう!?
私は生でイベントが見たいんです!!
何故近寄ってくるんですか!!
平凡に過ごしたいモブ令嬢の話です。
ゆるふわ設定です。
途中出てくるラブラブな話は、文章力が乏しいですが『R18指定』で書いていきたいと思いますので温かく見守っていただけると嬉しいです。
第一章 ヒロイン編は80話で完結です。
第二章 ダルニア編は現在執筆中です。
上記のラブラブ話も織り混ぜながらゆっくりアップしていきます。
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる