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第二章

3.ずぶ濡れの男

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 翌日、午前中に百家くんとバスで一緒に行く事になっていたので、またおじいちゃんに道の駅まで送ってもらった。

 家には、図書館で勉強すると言って出てきた。

 朝は道の駅のお店は9:30から開いているのでパン屋さんも開いていて、例のお兄さんがいた。

 バスに乗る人や、道の駅の近くに住んでいる人はパンを買いに来るので、お兄さんは忙しそうだった。

 黒いマスクに、黄色いバンタナ、鯖いろの髪。ひょろーっとしていて背が高い。遠目からでも直ぐに誰だか分かる。

 そしてとても精彩を欠いた存在・・・私が言うなって感じはあるけど。お兄さんの髪の色の様に、白くて抜け落ちた青・・・。どうして、こんなに風に感じて、胸が痛いような感じがするのかな?


 昨日の出来事を思い出す。なんかほっておけないっていうか、気になる存在だ。

 元気がないなあ。

 元気だせよ。なんて思う。

 そんな立場でもないから言わないけど。

 でも、直ぐに乗るつもりのバスが来たので乗り込んだ。

「よお、こっち」

 今日は10人位は乗客がいる。

 後ろから二番目の席から百家くんに声をかけられて、仕方ないので隣に座る。

「おはよう」

「おはよ」

 今日も安定のイケメンぶりだ。朝日が透き通るような明るい瞳に入り込み、吸い込まれそうだ。

 昨日に続き、おこがましくも隣に座る事をお許しください。と彼のファン達に心の中で十字を切る。

 もし、クラスの女子なんかに知られたらと思うとゾっとする。何を言われるか分かったもんじゃない。

 ぞぞーっ。

「そう言えばさ、端宝は携帯持ってる?」

「ああ、一応、連絡用に持っていなさいって言われて持ってるよ」

 そうなのだ。お母さんが契約して来てくれて、夏休み前に渡された。受験も控えているので行き帰りの時間も不安定だ。車で迎えにきてもらったりするのに持っていないと不便だからという理由で。

 ホントに、これがあるから、お祖父ちゃんとも連絡が直ぐとれて、便利だ。

 お祖父ちゃんも携帯を持っている。

「便利な世の中になったもんじゃのお、年よりも携帯を持つのが普通になっとるけ、すごいのお」

 って、言ってた。結構、便利につかってるらしい。シルバーの仕事のやりとりなんかも携帯なのだ。

 私の携帯は、二つに折るタイプで、水色のメタリックなカラーと、コロンとしたフォルムが可愛い。とても気に入っている。

「端宝の番号とアドレス登録させて」

「えーっ」

「嫌がんなよ、栄えある女子一号だ」

 彼が取り出した二つ折りの携帯は黒だった。カッコイイけど、黒は手の痕が付き安いので面倒だ。

「へー意外~」

「お前なあ、俺は面倒くさいの嫌いなんだよ。お前みたいにサバサバした奴がいい」

「はあ?何言ってんだか、勝手な事ばかり。冗談でもそんな事、絶~っ対に、外で言わないでよ、怖いわ」

 こんな話を学校の女子にでも聞かれたら、袋叩きに遇う。ぞぞーっ。

「なんだよ、その反応。心底失礼な奴だな」

 そんな事言いながらも、顔が嬉しそうだ。マゾか?

「あ、今、お前、また失礼な事考えただろ、目に蔑みの色が浮かんだ」

「・・・」

 どんな色だ?しかし、人の心が読めるんだろうか?きおつけよ。


 その後、お互いに電話番号とアドレスを入力した。

 ついに、私の携帯にお祖父ちゃんと、お母さんと、塾、以外の電話番号が追加される事になった。

 感慨深い・・・。

 
「そう言えば尾根山くん、一階で両親と一緒に寝たら幽霊は大丈夫だったのかな?」

「いや、出たそうだ。朝、電話あったんだ。一階の座敷に川の字になって三人で寝てたそうなんだけど、両親が寝ても眠れなかったらしい。そしたらまたカリカリ音が聞こえてきたらしくて、何か寒くなったなと思ったら、顔の上に雫が落ちてきたんだそうだ。目をあけたら目が空洞で身体が水浸しの男が頭の上に立っていたって。それで、大騒ぎさ、遂に親も、尾根山の頭の様子を心配しはじめたらしくてさあ、暫く祖父母の所に泊まったらどうかって言われたそうだ。」

「・・・目を開けたら立っていたっていうのは、嫌だなあ。そりゃ怖い。で、今度も立っていた場所は水に濡れてたのかな?」

「ああ、水で畳が濡れていたそうだ。それを両親に言っても、お前が水をこぼしたんじゃないのか?って言うしまつらしい」

「そうか~。まあ人って、自分が理解できないモノは信じようとしないから・・・そうなんだろうね」

「そうだな。朝、父親が仕事に出た後、母親もパートに出るらしいんだ。怖いからJRの駅で待ってるってさ、それで、今夜は俺の所に泊めてくれって言われた」

「うーん、そりゃなんとかしたいけど・・・。でもさあ、今までそんな事なかったのに、とつぜん憑かれるって何だろう?やっぱ、現地を見てみるしかなさそう」

「そうだろ、何か手を打つにしても、相手が何なのかわからなきゃ難しいんだよな」

「手を打つってどういう風に?」

「札だよ。うちは神社だし、そういうのあるの知らない?」

「ああ、そういうのね。少しなら知ってる。霊符ってやつでしょ。有名なので、『鎮宅七十二霊符』とかさ」

「・・・お前、物知りだな。そうだよ、その霊符」

「物知りっていうか、そっちは趣味の方かな。興味あるから。そうか、じゃあ本物を見る機会があるんだ・・・」

「何、わくわくした目で俺を見てるんだ。お前、でかい目が落ちそうだぞ」

「私、百家くんと知り合いになれて良かった」

「・・・そこは、友達って言えよ」


 『鎮宅七十二霊符』とは古来中国皇帝に最高の守護符として尊ばれたそうだ。

 日本では、人生に関係する七十二の災いを鎮める霊符とされ、小松神社に江戸時代の版木が伝わっているらしい。





 



 

 
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