上 下
1 / 14

1話 「何の?」

しおりを挟む
「ミール、遅いなー」

僕は居酒屋の安い酒を飲みながら一人の男を待っていた。
その男の名はミール。僕の冒険者友達だ。
今夜話があるから、何時もの所に来てほしい…っと言われて待っている。

何か焦った様子だし、酒飲みたかったし、僕は二つ返事で了承した。

「だけど…遅いなー」

僕は溜め息をつきながら時計を見る。時刻は十二時。丁度『今夜』が終わっていた。

「んー…帰るかー」

普通なら何かあったのでは?っと思うが、ミールはAランク冒険者。最強であるSランク冒険者や、よほど卑怯な手を使われなければ勝てる実力を保持している。

「リズさん。お父さんから至急帰宅するよう、連絡が来ましたよ。」

柔和な笑みを浮かべた青年が空になった酒を片付けながら、僕にそう告げた。

僕は最後の一杯を飲み、居酒屋を後にする。

「『至急』なんて…何があったんだ?」

王太子であるバラスト兄さんが対処出来ない問題が起きた…のか?

僕は高鳴る鼓動を感じながら、王城へと向かった。

ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー

「お待たせして申し訳ございません。リズバルト、只今戻りました。『至急』とは、いったい何があったのですか?」

謁見室の扉を開くと、そこには第一王妃様、並びに国王が居た。国王の斜め前には宰相殿も居る。

国王は暫し僕を見ると、厳しい声音で言う。

「何だ、その粗末な服装。王子の自覚を持てと、日頃から言っているであろう?」

(あの重たい服で魔物と戦えと?)

僕はそう思いながらも「申し訳ございません」と謝る。

「はぁ…お前に任せるのは、とても不安だが仕方ない。
…リスカートが失踪した。バラスト、並びに全騎士団が捜索中だ。」

(リスカート?……あぁ、あいつか!)

久しく忘れていたもう一人の兄弟を思い出し、そして首を傾げる。

リスカートは王子の地位を笠に、好き勝手していた奴だ。そいつが、王子の地位を捨てる様な事をするか?これは誘拐…か?

「リズバルト、貴様が代わりになれ」

「は?」

何の?

脈略の無い国王の言葉に、僕は首を傾げる。

・第二王子の業務→元からサボっているらしい
・第二王子の地位→継承権二位の地位を与える訳無い

第二王子の代わり→ 第二王子の(身)代わり?

「それは、第二王子の替え玉になれと?」

国王は何故か舌打ちすると、第一王妃様と共に後ろの扉へ消えた。

「流石でございます、リズバルト王子。」

宰相殿が白髭を撫でながら微笑む。

「リスカート王子の代わり、お頼みしますぞ!
なぁに、一時的ですので、ご安心を!
明日の十時、ハルーラ庭園ですから、お忘れなきよう!」 

宰相殿は物凄く上機嫌に、それこそスキップをしそうな勢いで出ていった。

「は?結局何の替え玉な訳?」

一人残された僕は静寂の中、呟いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

王道BL学園~モブに転生したボクは見ていたい!巻き込まれたくないのに!~

星崎 杏
BL
腐女子の私が死んで気がついたら、お気に入りのゲームのモブに転生した!? ボクは見ていたいだけなのに、巻き込まれるのはノーサンキューです! 念のため、R15にしています。過激なシーンは少なめにしたいです。

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

嫌われ悪役令息に転生したけど手遅れでした。

ゆゆり
BL
俺、成海 流唯 (なるみ るい)は今流行りの異世界転生をするも転生先の悪役令息はもう断罪された後。せめて断罪中とかじゃない⁉︎  騎士団長×悪役令息 処女作で作者が学生なこともあり、投稿頻度が乏しいです。誤字脱字など等がたくさんあると思いますが、あたたかいめで見てくださればなと思います!物語はそんなに長くする予定ではないです。

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

顔だけが取り柄の俺、それさえもひたすら隠し通してみせる!!

彩ノ華
BL
顔だけが取り柄の俺だけど… …平凡に暮らしたいので隠し通してみせる!! 登場人物×恋には無自覚な主人公 ※溺愛 ❀気ままに投稿 ❀ゆるゆる更新 ❀文字数が多い時もあれば少ない時もある、それが人生や。知らんけど。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

総受けなんか、なりたくない!!

はる
BL
ある日、王道学園に入学することになった柳瀬 晴人(主人公)。 イケメン達のホモ活を見守るべく、目立たないように専念するがー…? どきどき!ハラハラ!!王道学園のBLが 今ここに!!

処理中です...