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私の宝物

【俺の宝物】

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「ミチェル。あとは頼んだわよ」

「………姉上…俺は」

 キラキラと太陽の様に輝く綺麗な髪を持つ女。
それが俺の姉、ドルチェナ・マリネット・マロスだ。

姉は元悪役令嬢で天然で生意気で強くて…。

そんな姉は今日死ぬ。

偽物のロズワールを殺す為に死ぬ。

「ここまで生き残ったじゃないか。なのにたった一人の為に全て捨てるのか?」

「ロイスの事はきっかけに過ぎないわ。
私達は今まで何人の人を犠牲にしてきたのか、そしてその罪を後世に押し付けるのか、考えただけよ」

「っ別に良いじゃないか!それが最善の方法だったんだっ俺達は悪くない!」

「本当に?」

「っ」

 俺は優しく微笑む姉に歯を食いしばる。

(ヒロインを陥れたのも禁忌に手を出したのもを複製したのも、誰の為だとっ)

 前世の俺は誰にも愛されなかった価値のない人間だった。でも、そんな俺にゲームの姉が言ったんだ。

『愛される為に偽って生きるなんて私は嫌だわ!一度だけの生を無駄なく楽しく生きたいの!オホホホホホ!』

誰にも愛されなかった姉…そのキャラは、自由に生きて死んだ。公開処刑という残酷な死に方で。

助けたいと思った。俺と同じ境遇でも、楽しそうに笑う彼女を。

でも、足りない。

「ミチェル。今までありがとう」

彼女が、姉が自由に生きる為には、何かが足りなかったんだ。

(どうして笑うんだ…どうして俺の罪を貴女が償おうとしているんだよ…)

 綺麗な金色の髪を一つに纏めた、美しい姉は今日も笑っている。

「ドルチェナ。行かないでドルチェナ」

「…あの頃は、楽しかったわねミチェル」

 俺の伸ばす手を優しく包んで微笑むドルチェナに俺は涙を溢した。

「行かないでドルチェナ。貴女が居なくなったら俺はどう生きればいい?」

「オホホホホホ!好きに生きて死になさい!貴方の人生は貴方が見つけるのよ!」

「ドルチェナドルチェナ」

 高笑いしたドルチェナは俺の手を離して部屋から出ていく。

「何が足りない。どうして俺達は幸せになれないんだよっ!」

(あんな化け物に勝てるはずない!ドルチェナは光魔法しか使えないんだ!)

 それなのに俺はただ泣きながら嗚呼を漏らすだけだ。

「知ってる」

(足りないのは…)

『ミチェル。なかないで…わたしがいるでしょ』

『ねぇちゃん』

「消えないで俺の宝物」

 俺は二度目の死の恐怖に逆らえないまま、蹲って泣いていた。

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