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【ロイス・アギスト・マロス】

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私は図書室の扉を開いた。


私はこの図書室が苦手であった。
ルイ・カロアスの事がなければ一生ここには寄りたくないほどに。


その生物は謎の液体を纏いながらグネグネと動いている。
この生物は魔物ではなく精霊と言う古代生物だ。

木の根っこの様な二十本の触手を持ち、中心の所に口と目が三つある。

「ロイスちゃん会いたかったわん」

「……」

「相変わらず無表情ねぇでもそれが良い!そこが良いのよぉ!!

…と言うわけで今日はどうしたのかしらぁ?」

ビックビックしていた触手に向かって蹴りを入れると途端に真面目になった。
やはり私はこの図書室が苦手だ。
この精霊は図書室の心臓となっており、何かしらで満足させなければ資料が閲覧できない。

父上は会話で満足させている。

「ルイ・カロアス公爵子息について知りたい」

「あらあらまた知りたいのぉ?何度調べても無駄よぉルトスフィアはもう戻らないわよぉ」

ルトスフィアとは何だ?
私はこの図書室に一回しか来た事がない。それなのに何度も来ていた?

私は神殿の声やクオトニットの行動そしてルルの発言から精霊も何か知っていると思った。

「かならずルトスフィアは戻る」

私は話を合わせる事にした。

「あんな力もぉこの国には必要ないって言ってるじゃなぁい
そんなにルイちゃんの死を無駄にしたくないのはもぉ分かったわよぉん!
……?そう言えば貴方何で生きてるの?」

「と言うと?」

「だって貴方禁忌術に手を出すと言ってたじゃなぁい?だからアタシ協力したのよぉん」

ルトスフィアは戻らない(壊れている?)。
だが未来の私はそれを直そうとして禁忌術に手を出した。
ルトスフィアはルイ・カロアスの死に繋がっている。
そしてこの精霊は私に力を貸した。

…情報がもっと欲しい。

ルトスフィアとはなんなのだ?

「あらあら?あらあら貴方ロイスじゃないわねぇ!過去のロイスじゃなぁい!私を騙したのねぇ酷い男ぉ!」

触手…精霊が気づいてしまった様で私は四肢を掴まれた。

「ルトスフィアとは何だ?」

「何で教えなきゃいけないのよぉ!やっぱり変わらずドS冷酷男ぉ!」

私のどこが冷酷なのだろうか。ドSとは何だ?

「ルイ・カロアスを救いたい」

「うっ!その瞳に孕んじゃうぅ!」

精霊は視線で孕むのか?

私はこの図書室がトラウマになりそうだった。

「孕むのは嘘よぉ!
でもぉ…なるほどねぇ禁忌術を使わずに交渉してきたのねぇん。流石ロイスちゃんだわぁん!
し・か・も此方はルイちゃんを救う方向なのねぇん!愛らしいわぁん」

「以前の私はなぜ殺したのだ」

「……ロイスちゃんは…知らなかったのよぉ…カロアス家と王族…そしてルトスフィアの事ぉ…」

やはり私がルイ・カロアスを殺したのか…。

「殆ど何も知らないではないか」

「以前のロイスちゃんは指示された物以外知ろうと出来なかったのよぉん
でもぉんミフィナちゃんに会ってからは変わったのよぉん?
でも、"それら"を知る時間が無かったのよぉん」

私は新しく増えた名に首を傾げた。
ミフィナなど聞いた事がない。

「ミフィナとは?」

「それはお答えできないわぁん」

精霊はそう言うと住みかである箱の中に入っていく。

「…そうだわぁん。以前のロイスちゃんはぁ禁忌術【魔力結晶】に手を出そうとしてたわぁん。
でもこの時代まで戻ってる事はぁ時の神様と交渉したんじゃぁなぁい?
ごめんなさいねぇん。あまり言い過ぎると未来がぐちゃぐちゃになっちゃうのぉん」

ぐちゃぐちゃになる?それはどういう意味だろうか?
それに【魔力結晶】?神?
未来の私はよほど追い詰められていたのか。

「私は暫く寝るわぁん。最後にロイスちゃんに会えて良かったわぁん」

「私も会えて良かった」

精霊は満面の笑みで笑うと箱をパタン、と閉じた。

私はルイ・カロアス公爵子息の資料と認定禁忌術、そしてカロアス公爵家と数件の資料を持ち図書室の付属閲覧室に入った。


**

「………」

私は資料を閉じ深いため息をついた。

私はルルの言う通りに傀儡だったらしい。




ルトスフィアとは初代カロアス公爵の弟ルトスが作成した人口精霊だ。
その人口精霊は精神魔法を授ける事ができるらしい。

そしてミフィナと言う人間はその人口精霊の契約者である人間の可能性がある。

王座が欲しい現カロアス公爵はそのミフィナを欲し誘拐。
そして皇太子である私が何故かミフィナを取り戻しに行く。
ルイ・カロアスを殺害。
ミフィナを取り戻し、そして何かがありルトスフィアが破壊。
ルトスフィアを修繕しようと図書室へ訪れた私はルトスを調べていく内にカロアス公爵家の事を知る。
そして精霊が言っていた様に禁忌術に手を出そうとしたが何かがあり神と交渉し今現在まで時を戻した。

禁忌術【魔法結晶】は命を代価に授かる魔石だ。
魔物からも排出されるがこの禁忌術で産み出された魔石とは質が異なる。

人口精霊は上質な魔石を必要とするらしい。

人口精霊の魔石の効果が切れたのか破壊されたのか、とにかく修繕が必要だった。

そして愚かな私は皇太子であるのに自身を犠牲にしようとしていた。

私はルイ・カロアスの死を無駄にしたくないと言っていたらしい。
実に愚かな。自身が殺したくせに。

だが精霊は言っていた。私は知る事が出来ないと。
つまり私をコントロールしていた人間がいる。

くだらない。

今私をコントロールできる人間は四人。
主な教育をする叔父ミチェル・マネリット。
皇帝である父上ロズワール・アギスト・マロス。
王妃である母上ドルチェナ・マネリット・マロス。
そして叔父ロトリース・アギスト大公。

父上は私に皇帝候補として甘言に惑わされてはいけないとよく言っている。
叔父であるミチェルは母上の弟でマネリット公爵家当主の二番目の弟だ。
母上とは険悪関係であり、よく『あの悪役令嬢がッ』と私に愚痴を言っている。
そして父上の弟で叔父ロトリース大公は病弱で地方に暮らしている事から数回ほどしか会う事がない。
母上は相手に正面からケンカを売るのがお好きらしく、私を操る事など考えていないだろう。

だがこれは現在の話。
私には未来が分からない。

私は深いため息をつきイスの背もたれに寄りかかった。

「会いたい」

あの子は私に会ったらどの様な反応をしてくれるだろうか?
尊敬してくれるだろうか?それとも怖がらせてしまうだろうか?

「…神殿へ行くか」

あの子の好物が聞こえるかも知れない。

私は資料をしまい再び神殿へ向かった。

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