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第7章 懲罰配置
第7章 懲罰配置 その6
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エンジスの姿が無くなったのを見てから、ノアはフッと両肩の力を無くし、落とした。
どうやらかなり力んでいたのか、いつもより肩が凝っているような気がし、首を右回りに左回りに1回ずつ回すと、ポキッという軽く弾けるような音がした。
「疲れた……」
デスクにぼーっと座り、やっと出てきた一言がこれだった。
しかし無理もない。早朝にワーナーを処分してからまだ三時間しか経っていないのに、これだけエンジスとバチバチせめぎ合ったのだから。
朝で一日分のエネルギーを使い果たし、もう家に帰ってゆっくりしたい気分だったが、そうはいかない。この勝負に勝つためには一分一秒を無駄にはできず、これからエンジスのいなくなった旅客営業部に入り込み、内情と実体を調査する必要があったからだ。
今までノアは何度か旅客営業部に入ろうとしたが、その度にエンジスの息のかかった社員に止められたり、エンジスに報告されたりと散々だった。
そのためノアの持っている旅客営業部の情報はエンジス派ではない社員のリークによるものと、実績などの資料が主であり、実際に見聞きした情報はほとんど持ち合わせていなかったのだ。
今回エンジスを追い出すことはできたが、しかし彼の派閥の人間を全員処理するとなれば、それは旅客営業部の崩壊に繋がるので、ノアは彼らを残すことにした。
だが大将の居なくなった派閥など所詮は瓦解した残党の集まりでしかなく、以前の統率力はもう無い。なので俄然、情報収集を行うことは安易となっていた。
そしてもう一つ向かう目的があり、それはエンジスの後釜である旅客営業部長の選定だった。
実は以前よりノアは、この人になら旅客営業部を任せることができると心に決めた人物がいたのだが、しかし事が事なだけに本人の意思も確認しておきたかったため、内示を出す前に本人の承諾を得ておこうと考えたのだった。
「あっ、そうだ」
社長室を発つ前に、ノアは何かを思い出したかのように自分のトートバッグを漁りだし、その中から黄色の小さな巾着袋を取り出した。
更にその巾着袋から出てきたのは、透明なシートに包まれた一口大のチョコレートであり、巾着袋の正体はお菓子入れだった。
「はぁ~……やっぱ疲れた時は甘いものに限るなぁ」
チョコレートが口の中で溶け、甘さが広がり、ひと時の小さな幸福感をノアは味わう。
極度のストレスを感じると、それを甘味で和らげるのは、コンシェルジュ時代の先輩から教わり、以降習慣となっているノアの癖だった。
チョコレートの他にも飴やチューインガムやキャラメルなど、その時のストレス度合いや気分で食べる物を変えており、ちなみに、チョコレートはストレス度合いが沸点に差し掛かるくらい高まっている時に食べるようにしているものだった。
「よしっ! じゃあやりますか!!」
チョコレートで心の余裕を回復し、気合を入れ直したノアは巾着袋をトートバッグに直して、社長室の扉を開く。
社員達の活気溢れるオフィスを抜けて向かうのは、首領を失って一際静かな旅客営業部のブースだった。
どうやらかなり力んでいたのか、いつもより肩が凝っているような気がし、首を右回りに左回りに1回ずつ回すと、ポキッという軽く弾けるような音がした。
「疲れた……」
デスクにぼーっと座り、やっと出てきた一言がこれだった。
しかし無理もない。早朝にワーナーを処分してからまだ三時間しか経っていないのに、これだけエンジスとバチバチせめぎ合ったのだから。
朝で一日分のエネルギーを使い果たし、もう家に帰ってゆっくりしたい気分だったが、そうはいかない。この勝負に勝つためには一分一秒を無駄にはできず、これからエンジスのいなくなった旅客営業部に入り込み、内情と実体を調査する必要があったからだ。
今までノアは何度か旅客営業部に入ろうとしたが、その度にエンジスの息のかかった社員に止められたり、エンジスに報告されたりと散々だった。
そのためノアの持っている旅客営業部の情報はエンジス派ではない社員のリークによるものと、実績などの資料が主であり、実際に見聞きした情報はほとんど持ち合わせていなかったのだ。
今回エンジスを追い出すことはできたが、しかし彼の派閥の人間を全員処理するとなれば、それは旅客営業部の崩壊に繋がるので、ノアは彼らを残すことにした。
だが大将の居なくなった派閥など所詮は瓦解した残党の集まりでしかなく、以前の統率力はもう無い。なので俄然、情報収集を行うことは安易となっていた。
そしてもう一つ向かう目的があり、それはエンジスの後釜である旅客営業部長の選定だった。
実は以前よりノアは、この人になら旅客営業部を任せることができると心に決めた人物がいたのだが、しかし事が事なだけに本人の意思も確認しておきたかったため、内示を出す前に本人の承諾を得ておこうと考えたのだった。
「あっ、そうだ」
社長室を発つ前に、ノアは何かを思い出したかのように自分のトートバッグを漁りだし、その中から黄色の小さな巾着袋を取り出した。
更にその巾着袋から出てきたのは、透明なシートに包まれた一口大のチョコレートであり、巾着袋の正体はお菓子入れだった。
「はぁ~……やっぱ疲れた時は甘いものに限るなぁ」
チョコレートが口の中で溶け、甘さが広がり、ひと時の小さな幸福感をノアは味わう。
極度のストレスを感じると、それを甘味で和らげるのは、コンシェルジュ時代の先輩から教わり、以降習慣となっているノアの癖だった。
チョコレートの他にも飴やチューインガムやキャラメルなど、その時のストレス度合いや気分で食べる物を変えており、ちなみに、チョコレートはストレス度合いが沸点に差し掛かるくらい高まっている時に食べるようにしているものだった。
「よしっ! じゃあやりますか!!」
チョコレートで心の余裕を回復し、気合を入れ直したノアは巾着袋をトートバッグに直して、社長室の扉を開く。
社員達の活気溢れるオフィスを抜けて向かうのは、首領を失って一際静かな旅客営業部のブースだった。
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