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第1話 荒野の町のミートソースパスタ
第1話 荒野の町のミートソースパスタ 07
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――第47基地局から少し離れた場所で、サヤカは燃え上がり、その形をすっかり崩してしまったパラボラアンテナだった物をずっと見ていた。
アンテナの隣にあった管理棟もその崩壊に巻き込まれてしまい、半壊状態。とてもじゃないが、内部に人が居れば無事で済むような状態では無かった。
しばらくの間ずっと同じようにして待っているが、レンタロウの姿が見えるどころか連絡すら無い。だからといってこちらから連絡するのは、自分がレンタロウの事を信用出来てないような気がして、そしてもし万が一レンタロウが力尽きていたらと思うと怖くて、サヤカは為す術も無く、抗う術も無く、ただ信じて待つ事を選ぶしかなかった。
最後の連絡から、かれこれもう2時間は経過している。無事に事を運んでいたならば、二人はもうこの場所には居らず、次の町を目指して荒野をバイクで走っているはずだった。
「……どうしようかな、これ」
サヤカは懐から真空パックをされた小袋を出す。その中には昼間、レンタロウと共に食べたカラカラ牛とヒアガリトマトのミートソースパスタが、形状も変わらず、劣化する事も無く入っていた。
立場上、一つの街に留まる事の出来ないサヤカは、その街で一番美味しいと感じた物を一口サイズにして小袋に詰め、それを仕事終わりに、その街での最後の思い出として食べるという事を習慣にしていた。
自分の任務である、パラボラアンテナの破壊は見事に成功した。だから本来ならここで食べてしまってもいいものだが、しかし今までそうしてきた隣にはレンタロウが居た。
「いや……まだ待とう」
サヤカは首を小さく横に振り、手に取った小袋をまた懐に戻した。二人が無事揃って任務を成功させる事こそが仕事の終わりであるとすれば、それはまだ達成出来ていないと考えたからだった。
そしてその判断は、正しかった。
「あっ!」
半分瓦礫の山と化した基地局から、見覚えのある天然パーマの黒髪の男がゆらりゆらりと気怠そうに歩いてくる。それは紛れも無く、レンタロウ本人だった。
「スマンスマン、チョイと遅くなっちまった」
レンタロウは平謝りをしながらサヤカの元まで歩み寄ると、「イタタタ……」と少し痛めた腰を手で押さえながらその場に座り込んだ。
「もう、遅過ぎですよ!」
サヤカはホッと胸を撫で下ろすと、レンタロウの隣に座り、冗談混じりにそう言ってみせた。
「遅いって……お前こっちは大変だったんだぞ! 警備兵が総出で掛かって来るわ、外出たら瓦礫まみれで進めないわ――ああ疲れた! もうこんな仕事一生したくねぇっ!!」
ゴロリと大の字に寝そべって、レンタロウは捨て台詞を吐いた。
「いつも終わったらそう言ってますよね――あっそうだ!」
「ん?」
するとサヤカは思い出したかのように懐に手を入れ、カラカラ牛とヒアガリトマトのミートソースパスタの入った小袋を取り出し、袋を広げた。
「う~ん良い匂いですね! 一仕事終えて丁度お腹が空いてたんですよねぇ~」
サヤカの持っている小袋は、内部を真空で保つ事は勿論、中に入れた物の温度までもそのままの状態で保存する事が可能だったので、中に入っていたパスタは昼間に食べた時と全く同じ状態を保っており、袋の中からは甘酸っぱさと、火の通った挽肉の香ばしい香りが飛び出してきた。
「それじゃあいただきます」
サヤカは口元で小袋を傾ける。するとミートソースパスタが袋から落ちてき、口に入ると咀嚼した。
「うん、やっぱり美味しいですね!」
「……そうか」
サヤカが食べているところを見て、レンタロウは基地局の食堂の事をふと思い出した。
「どうしました、そんな辛気臭い顔して?」
「辛気臭いって……別に。ただ、しばらくミートソースパスタは食いたくないなって思っただけだ」
「どうしてです?」
「……さあな」
殺した人間の顔がちらつくからとは、流石に言えなかった。
「ほら、食ったなら行くぞ」
「ご馳走様でした……はい!」
基地局を燃やした火は、時間を追う毎に弱まっていく。その炎が燃え尽きた頃にはもう、そこに二人の姿は無かった。
(第1話 おしまい)
――第47基地局から少し離れた場所で、サヤカは燃え上がり、その形をすっかり崩してしまったパラボラアンテナだった物をずっと見ていた。
アンテナの隣にあった管理棟もその崩壊に巻き込まれてしまい、半壊状態。とてもじゃないが、内部に人が居れば無事で済むような状態では無かった。
しばらくの間ずっと同じようにして待っているが、レンタロウの姿が見えるどころか連絡すら無い。だからといってこちらから連絡するのは、自分がレンタロウの事を信用出来てないような気がして、そしてもし万が一レンタロウが力尽きていたらと思うと怖くて、サヤカは為す術も無く、抗う術も無く、ただ信じて待つ事を選ぶしかなかった。
最後の連絡から、かれこれもう2時間は経過している。無事に事を運んでいたならば、二人はもうこの場所には居らず、次の町を目指して荒野をバイクで走っているはずだった。
「……どうしようかな、これ」
サヤカは懐から真空パックをされた小袋を出す。その中には昼間、レンタロウと共に食べたカラカラ牛とヒアガリトマトのミートソースパスタが、形状も変わらず、劣化する事も無く入っていた。
立場上、一つの街に留まる事の出来ないサヤカは、その街で一番美味しいと感じた物を一口サイズにして小袋に詰め、それを仕事終わりに、その街での最後の思い出として食べるという事を習慣にしていた。
自分の任務である、パラボラアンテナの破壊は見事に成功した。だから本来ならここで食べてしまってもいいものだが、しかし今までそうしてきた隣にはレンタロウが居た。
「いや……まだ待とう」
サヤカは首を小さく横に振り、手に取った小袋をまた懐に戻した。二人が無事揃って任務を成功させる事こそが仕事の終わりであるとすれば、それはまだ達成出来ていないと考えたからだった。
そしてその判断は、正しかった。
「あっ!」
半分瓦礫の山と化した基地局から、見覚えのある天然パーマの黒髪の男がゆらりゆらりと気怠そうに歩いてくる。それは紛れも無く、レンタロウ本人だった。
「スマンスマン、チョイと遅くなっちまった」
レンタロウは平謝りをしながらサヤカの元まで歩み寄ると、「イタタタ……」と少し痛めた腰を手で押さえながらその場に座り込んだ。
「もう、遅過ぎですよ!」
サヤカはホッと胸を撫で下ろすと、レンタロウの隣に座り、冗談混じりにそう言ってみせた。
「遅いって……お前こっちは大変だったんだぞ! 警備兵が総出で掛かって来るわ、外出たら瓦礫まみれで進めないわ――ああ疲れた! もうこんな仕事一生したくねぇっ!!」
ゴロリと大の字に寝そべって、レンタロウは捨て台詞を吐いた。
「いつも終わったらそう言ってますよね――あっそうだ!」
「ん?」
するとサヤカは思い出したかのように懐に手を入れ、カラカラ牛とヒアガリトマトのミートソースパスタの入った小袋を取り出し、袋を広げた。
「う~ん良い匂いですね! 一仕事終えて丁度お腹が空いてたんですよねぇ~」
サヤカの持っている小袋は、内部を真空で保つ事は勿論、中に入れた物の温度までもそのままの状態で保存する事が可能だったので、中に入っていたパスタは昼間に食べた時と全く同じ状態を保っており、袋の中からは甘酸っぱさと、火の通った挽肉の香ばしい香りが飛び出してきた。
「それじゃあいただきます」
サヤカは口元で小袋を傾ける。するとミートソースパスタが袋から落ちてき、口に入ると咀嚼した。
「うん、やっぱり美味しいですね!」
「……そうか」
サヤカが食べているところを見て、レンタロウは基地局の食堂の事をふと思い出した。
「どうしました、そんな辛気臭い顔して?」
「辛気臭いって……別に。ただ、しばらくミートソースパスタは食いたくないなって思っただけだ」
「どうしてです?」
「……さあな」
殺した人間の顔がちらつくからとは、流石に言えなかった。
「ほら、食ったなら行くぞ」
「ご馳走様でした……はい!」
基地局を燃やした火は、時間を追う毎に弱まっていく。その炎が燃え尽きた頃にはもう、そこに二人の姿は無かった。
(第1話 おしまい)
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