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エピローグ

謀略王の称号(完)

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”清めの儀”でユーグリッドが大浴場で裸になり、皇宮仕えの女達に全身を洗われると、飾り気のない白色の礼服に着替えさせられた。

 諸王たちも皆同じ格好で宮殿の浴場から湯上がりしており、武器や暗器などの類がないことを徹底的に確かめられた。

 その後しばらく宮殿の廊下を皇宮仕えたちによって案内されると、城門のような大きくて豪奢な扉の前に着く。諸王たちがその荘厳なる扉の前で並んで待っていると、やがて宮廷仕えが扉を丁寧な仕草でたたく。そして大扉が観音開きに開かれると、諸王たちの眼前に草原のような開放的な光景が広がった。

 そこは広大な球天井の空間で覆われており、青天の空に白い雲がたゆたった巨大な風景画が描かれている。その青く美しい精巧な絵画の眺めは、まるで本当に遥か天空へと誘われたかのようだった。

 その大広間の中央には巨大な円卓が並べられており、百席以上もの椅子が用意されている。どの席も高級なヒノキの鮮やかな色細工でできており、その木々の光沢が橙色に輝いている。その綺羅びやかで雄大な部屋が諸王議会が行われる皇座の間だった。

 だが、今いる諸王たちの数はちょうど30人ほどであり、席の半分にも満たない人数しか集まっていない。大陸が平定されたばかりの全盛期には、この広大な円卓の席も満員になっていたのに、今ではその栄華もすっかり見る影がなくなっていた。

 諸王たちは広間に控えていた皇宮仕えに連れ添われ、指定された席にまばらに着く。各席には円卓の中央から伝声管の配管が放射状に伸びており、それぞれの諸王たちが話すと、その伝声管を通じて全ての諸王に声が届く仕掛けとなっていた。

 その皇座の間の北奥の壁面には更に黄金の扉が備えつけられており、皇宮の屈強な近衛兵たちが10人ばかり並んで警備している。その扉の奥の部屋にこそ、皇帝マーレジア・アンフィカシオが鎮座しているのだ。

 現在諸王たちがいるこの皇座の間には、皇帝はまだ姿を現していない。だがやがて諸王たちが全員席について間もなくすると、円卓の中央から天井に伸びた巨大な伝声管を通じて声が響いた。

『諸王たちよ。よくぞ我が皇帝議会の間に集まった。朕はそなたたちの大義ある忠誠心に感謝の意を示そう。これだけの王がこの皇座の間まで遠路遥々と上京し、この皇帝マーレジアに仕えんとする救国の正義が示されたことを嬉しく思うぞ』

 老成で厳かな皇帝マーレジアの声が諸王たちの耳に轟く。配管の前に座る諸王たちはその重みのある玉音を一身に受け止める。諸王らは皆真剣な面差しをしており、その皇帝の御声を一言も漏らすまいと集中して聞き届ける。

 だが、それを傾聴している王たちには様々な思惑があった。ある者は純粋に皇帝への忠義を尽くしたいと敬愛を持っており、ある者は朝廷の権勢にはまだ力が残っており、ここで逆らうのは得策ではないと計算している。そしてある者は己が次の時代の皇帝にならんと、コルインペリア皇国の隙をうかがわんとしていたのだ。

 全ての王が皇帝へ敬服と信望を捧げているわけではない。そこには打算や陰謀が巡り回っており、そしてユーグリッドもその胸算用を持つ一人であった。

(今アルポート王国には朝廷に逆らえるだけの力が残されていない。覇王との決戦で疲弊をしており、国力自体が衰頽すいたいしている状態だ。もし今皇帝の不興を買って、我々が反乱一族として見なされたら、最悪の場合朝廷から軍を派遣されてアルポート王国を滅ぼされてしまうかもしれない。国を守るためには、ひとまず皇帝に顔を売っておくしかないな)

 新参のユーグリッドは保身的な考えを持って議会に臨む。アルポート王が定める目標は、この評議会で皇帝に気に入られ、剰えはアルポート王国を朝廷によって正式な国家として認められることだった。

 皇帝の寵愛を勝ち取り、ひいてはその恩恵や庇護を得ようとしていたのである。そしてそのユーグリッドの思惑は、かつての栄光ある海城王の偉業を受け継ぐためのものでもあった。皇帝に取り入るような発言をし、自らも海城王と肩を並べられる王にならんと画策をしていたのである。

『さて、諸王たちよ。此度そなたたちに集まってもらったのは他でもない。そなたたちも知っての通り、我がコルインペリア皇国の権威は弱体化しており、アーシュマハ大陸では各地方の国々で次々と反乱が起こっている。

 皇帝の勅命を無視して勝手気ままに王権を振るう者、朝廷の正式な許可なく下剋上によって王座を奪い取る者、そして自らが新しい皇帝にならんとこのコルインペリア皇国に侵攻せし者。

 そうした反乱分子たちの手によってこの大陸の秩序は大いに乱れ、世の騒乱はますます混沌を深めるばかりだ。そこでそなたら王臣たちには各地方で反乱を起こす一族たちを、皇帝マーレジアの勅命のの下に平定してもらいたい。

 我がアンフィカシオ皇家の再興のために、そなたたちが国家の全霊を尽くして逆賊を打ち払い、このアーシュマハ大陸を再び天下泰平の世に導くのだ』

 皇帝マーレジアはコルインペリア皇国への尽力を王たちに要求する。だがその絶対なる支配者の命令に、諸王たちは拝命の意を示すことができず沈黙をした。果たして今の腐敗したコルインペリア皇国に忠誠を誓うことが、どれだけ自国の利益になるのか測りかねていたのだ。

 地方の平定をするということは、戦争をするということだ。例えこの大陸で一番権力のあるマーレジアの命令といえども、無闇に己の国を危険に晒す真似はしたくない。誰もが反乱一族への出兵を拒んでおり、事なかれ主義の道を選びたがっていたのである。

 一人として王たちが答えを返さない議会の空気を呼んで、皇帝マーレジアは二の句を継いだ。

『......諸王、そなたたちの言い分も朕にはわかる。いくらアーシュマハ大陸の平和を築く大義名分のためといえど、軍を上げて己が国の治世を乱すなどということは不本意であるということは。そなたたちも己が兵士たちや領民たちを犠牲にして戦うことを快く思わないのだろう。

 だが、朕ははっきりとそなたたちに陳述しよう。ここで早急に各地方での戦乱の芽を摘み取らねば、ますますこの大陸の戦火は誰にも止められぬほどに拡大してしまうであろう。そうなれば、この大陸は国同士が侵略され奪い取られることを繰り返す戦国の世の時代を迎えてしまう。

 その混沌の世が到来してしまえば、結局そなたたちが愛する祖国とて、いずれ戦乱の気運に乗じた野心家たちによって滅ぼされてしまうだろう。そうならぬために今一度この大陸の支配者である朕が、再び天下統一を果たさねばならぬのだ。

 諸王よ、朕に忠義を尽くせ。そして見事各地方の争乱を平定せよ。朕もそのための権限と軍事力をそなたたちに貸し与えよう。このアーシュマハ大陸に、真の平和を齎すのだ』

 その成し難く責任が重大な皇帝の勅命に、やはり諸王たちの誰もが押し黙る。腐敗したコルインペリア皇国による大陸の支配を、改めて容認するかどうか、腕を抱えて決めかねていたのだ。

 だがその優柔不断な空気の中に鶴の一声が発せられた。

「そのご勅命、謹んでこの俺が拝命いたしましょう。皇帝マーレジア陛下」

 その重い沈黙を破り、率先して手を上げた王がいた。その者こそ、かつて皇帝より寵愛を欲しいままに賜った海城王の子息、ユーグリッド・レグラスであった。

 諸王たちはその新参の王の愚直な皇帝への服従心にどよめきを見せる。

『......ほう、朕の勅命にすぐさま賛同の意を表す同志がいるとはな。もう少し議論は難航すると思っていたが、まだこの国の趨勢すうせいは衰えていないようだ。そなたはどこの国の者だ?』

 皇帝マーレジアが太い配管を通して厳かに尋ねると、ユーグリッドは粛々と畏まった態度で名乗りを上げる。

「はい、俺はテレパイジ地方のアルポート王国国王、ユーグリッド・レグラスでございます。かつてマーレジア陛下の御下で仕えていた海城王ヨーグラス・レグラスが息子でございます。

 俺は偉大なる父のようにあなた様に忠義を尽くしたいと存じ上げており、この諸王議会にまで馳せ参じました。是非ともあなた様のご本意のままに、このコルインペリア皇国の忠臣ユーグリッドをお使いください」

 新参の王が早速皇帝に媚び入るような発言をしたことに、諸王たちは反感の意が湧き上がる。長年皇帝の忠臣として仕えてきた諸王たちにとっては面白くない感情が巻き起こった。

 だがその諸王たちの不興を他所にして、その忠義心溢れる若きアルポート王の言葉に皇帝マーレジアは感心した。

『......そうか、そなたはあの海城王の息子であったか。通りで初めて朕に会うというのに、このコルインペリア皇国に対する忠義心が厚いわけだ。そなたが即断即決に朝廷へ心服する意を表明したこと、朕は深く気に入ったぞ。その勇気ある若き王の心意気、甚だ称賛するに値する』

 皇帝マーレジアは新たな王臣の登場に上機嫌な声音色を発する。

 ユーグリッドは恭しく、配管に向かって礼をした。

「お褒めに預かり光栄でございます、マーレジア陛下。俺はこのコルインペリア皇国に永遠の繁栄を齎すべく、身命を捧げる所存でございます」

 ユーグリッドはその場に皇帝がいないのにも関わらず、君主の喜びに応えるかのように微笑みを返す。それは自分が忠実な皇帝の臣下であることを諸王たちに印象づけ、この議会での発言力を強めるためのユーグリッドの策略だった。

 その計算は見事皇帝マーレジアの心を掴んでいた。

『そうか、ふふ、なかなかにそなたは頼もしいことを申してくれるな、ユーグリッドよ。ではここで、朕もそなたの忠誠ある心懸けに期待して、一つそなたの知恵を確かめてみることにしよう。

 この朝廷は先程も朕が述べた通り、皇帝の権勢が失われており、他国の王たちもその威光を蔑ろにして反乱を起こしている。この各地での擾乱じょうらんを全て治めるには、そなたはどうすればいいと考える?』

 その皇帝マーレジアの難問に、ユーグリッドは即座に口を開く。予めその問いが投げかけられることを予期し、解決策を用意していたのだ。

「はい、ではお答えさせていただきます。マーレジア陛下。それは全国の諸王たちの軍事力を、マーレジア陛下の勅命により朝廷へと徴収し、一つの巨大な連合軍を築くことです」

 そのユーグリッドの献策に、諸王たちに激震が走った。誰もが自国の兵力を削がれてしまうというユーグリッドの立案に反発を抱いたのである。自国の兵力が減ってしまえば、反乱一族によって自分たちの国が滅ぼされてしまいかねない。諸王たちは皆保身的な考えに囚われていたのである。

 だが皇帝マーレジアはますますユーグリッドの進言に得心をし、その提案が妙案だと判断したのだった。

『そうか、なるほど。全国の諸王たちと手を結び連合軍を組むか。その単純かつ大胆な考案には流石の朕も思い至らなかったわ。

 確かに全国の諸王たちの軍事力を搔き集めれば、コルインペリア朝廷は誰も逆らえぬ一つの軍事大国として成り立つことができる。その連合軍の武力を用いて、朝廷に従わぬ反乱一族を脅しつければ、忽ちその者どもはコルインペリアの大軍と交戦することもなく降伏するだろう。

 見事な策だ、ユーグリッドよ。そなたが10万の覇王軍を毒殺したという神算鬼謀の才は本物のようであるな。ますます朕はそなたのことが気に入ったぞ』

 皇帝マーレジアはユーグリッドを手放しで褒め称え、贔屓の目を向け始める。もはや皇帝は彼の若き王の意見なら何でも承諾してしまう心境であった。

「お、お待ちくださいっ! マーレジア陛下っ!! そのユーグリッド王の策は危険でございます!!」

 だがそのユーグリッドの全国連合軍の案に真っ向から反駁する王がいた。それは和睦王ノーマライであった。

『その声はノーマライか? そなたは幾度も反乱一族を無血開城で降伏させた和睦の使徒だ。その和平こそ良しとするそなたが、朕の軍事集権に反対であると申すのか? ならばそなたの意見を聞くとしよう』

 皇帝マーレジアは公明正大に和睦王の意見に耳を傾ける。その王臣は慎重な態度で諫言かんげんを始めたのだった。

「はい、では申し上げさせて頂きます。ユーグリッド王の我々の国家より軍を徴収するという案、確かにそれが理想通りに達成できれば、コルインペリア皇国は無敵の軍事大国となることができるでしょう。

 ですがそれには穴がございます。それは安易に他国の軍を皇国に入れるということは、内部からの反乱を招く危険性があるということです。はっきりとは申し上げにくいのですが、現にマーレジア陛下の求心力は凋落している状況にございまして、ここにいる諸王たちですら完全に陛下に心服をしているわけではございません。

 かように信頼の置けぬ各国の諸王たちの軍隊を、果たして上手くまとめ皇帝陛下の傘下に収めることができるでしょうか? 私にはとてもユーグリッド王の献策が現実的だとは思えません」

 和睦王ノーマライの言葉に、諸王たちも頷きを見せる。やはり皆自国の国力を落とすような真似をしたくなかったのだ。一同は何とか皇帝にユーグリッドの案を却下させようと口を揃えて反対意見を述べ始める。

 だがユーグリッドはその諸王たちによる口論の逆風を受けながらも、あえて皇帝に大胆な策略を披露し続けたのだった。

「皇帝マーレジア陛下、確かにこの全国連合の軍を築き上げることは険しい道でございます。和睦王ノーマライ殿が言うように、もしかしたら軍の統一に失敗する可能性もなきにしもありません。

 ですが今の時代は、マーレジア陛下が仰っていたようにこの大陸が戦国の世を迎える一歩手前の状態。至急に対策を講じなければならぬ大陸の危急の時であります。

 だからこそ、我々はその戦国時代の到来に先手を打って、平和を守るための絶対的な軍隊を保持しておく必要があるのです。例えそれが成し難きとしても、これが達成できなければ、世の混迷はますます深刻なものになるでしょう。我々は是が非でも全国の軍部の組織化をせねばならぬのです。

 けれどこれは決して実現ができぬ絵空事の方略ではありません。これから具体的にその理由と方法について説明しましょう。

 まず初めに、全国の諸王たちに皇帝陛下自らの勅命によって軍の徴収令を一斉に下します。そして全国より屈強な精鋭たちが集まれば、忽ちコルインペリア皇国は最強の軍隊を保有することができるでしょう。

 そしてここでもしとある国が反乱を起こせば、その逆賊の国を一挙に組織されたコルインペリア連合軍によって鎮圧するのです。それは例え組織されたコルインペリア軍の中に裏切り者が出た場合でも同様です。

 裏切り者の王国を、残りの招集されたコルインペリア連合軍によって叩きのめし、二度と反乱ができぬように滅亡にまで追いやるのです。

 この軍事的な圧倒的優位性が皇帝陛下の元にあることを大陸全土に顕示しておけば、誰も反乱しようなどとは思わなくなるでしょう。和睦王ノーマライ殿が懸念する内部からの反乱分子の存在も、これによって解消することができます。

 仮にどこかの国が反逆を企てたとしても、それは全国の諸王たちの軍を敵に回すということに他ならないのですから」

 ユーグリッドはその全国徴兵の計を皇帝と諸王たちに向かって熱弁する。その理路整然とした論の展開には誰も異議を唱えることができなかった。

 皇帝マーレジアは配管ごしに感嘆の声を漏らし、熱心にアルポート王の主張に耳を傾けている。

 そして更にユーグリッドはこの計略の有効性を証明するべく弁舌を続けた。

「更に付け加えて申し上げますと、この全国徴兵の勅命は皇帝陛下に対する諸王たちの忠義心を確かめることにも繋がります。もしどこかの国がコルインペリア皇国の軍の徴収に応じなかったとしたら、それはその王国に謀反の兆しがあるということです。

 その国に反逆の意志が疑われたならば、マーレジア陛下がやるべきことは一つです。その呼びかけに応じなかった一族を、皇帝陛下の勅命に背いた逆賊と見なし、徹底的に滅ぼしてやればいいのです。

 コルインペリア皇国に最強の軍隊が出来上がるという事実をちらつかせておき、絶対的な軍事力がマーレジア陛下の元に集結するのだという権勢を全国の王たちに知らしめておく。

 その徴兵の大義を予め陛下のご勅命に当たり発表しておけば、例え皇帝陛下に心の底から服従していなかったとしても、全国の王たちは軍を差し出さざるを得なくなるでしょう。最強の軍隊が集結しようとする皇国に逆らうわけにはいきませんから。

 後は全国から集めた軍を用いて、従わなかった愚かな国々を根絶やしにするだけです。そうすれば、もはや皇帝陛下に逆らおうなどと考える者はいなくなり、この大陸に真の平和が訪れるのです。

 そしてその天下泰平の世の果てには、皇帝マーレジア・アンフィカシオ陛下の御名が、後世の人々にも未来永劫に渡って語り継がれることになるでしょう。この大陸の平定を成し遂げた天下人の大帝として、歴史に偉大なる御名を刻むことになりましょう!」

 ユーグリッドは美辞麗句を並べ立て皇帝マーレジアを持て囃す。そのあまりにも武断的で容赦のないユーグリッドの政策には、諸王たちも開いた口が塞がらなかった。もはやそれが実現されれば、自分たちは二度と皇帝に反意など翻すことはできないだろう。

 次期皇帝の座を密かに企んでいた諸王たちの野心も、もはや朝霧のように潰えてしまったのだ。

『なるほど......そのような手があったとは、素晴らしいぞユーグリッドよ! 朕もそなたの策謀には感服の意を表明しよう。そなたの神算鬼謀の才はこの衰退した皇国を救う英傑になれるやもしれぬ。朕はそなたのような知謀深き忠臣が長きに渡って欲しかったのだ!』

 その皇帝の玉音が叫ばれた時、皇座の間の奥の扉が開かれる。その扉からは豪奢で綺羅びやかな紫衣しえを纏った、長く白い髭を蓄えた老齢の王が現れた。

 その者こそ、このアーシュマハ大陸全土を支配する皇帝マーレジア・アンフィカシオであった。その偉大なる老皇帝はゆったりとした足取りで皇座の間の東に向かって歩み進む。その東奥にあった玉座へと重々しく鎮座した。

 その荘厳たる老皇帝は諸王たちの中で一番若き王に目配せする。その者こそユーグリッドであり、青年の王はにこやかに頷き返す。老皇帝はそれを見て取ると、揺蕩たゆたうと皺だらけの手首を振った。

「近う寄れ、ユーグリッド。朕はそなたを皇帝の王臣として正式に認めよう。

 そなたの覇王を討伐した功績は誰にも成し得なかった至高のほまれであり、その深謀遠慮の知謀はこの大陸の平定に必要不可欠な時代の宝である。

 そなたは我がコルインペリア皇国の永久とこしえの家臣として仕えるべき稀代の英傑だ。我が元に来て跪くがいい、ユーグリッドよ」

「はっ!!」

 ユーグリッドは勢いよく立ち上がり、栄光の道へと進む。もはや最強の軍隊を持つ運命が定められた皇帝から、一身に寵愛を受けたユーグリッドに仇なせる王など存在しない。

 ユーグリッドは威風堂々と玉座へと歩み寄り、皇帝マーレジアの前で跪いた。

「ユーグリッド・レグラスよ。アーシュマハ大陸皇帝マーレジア・アンフィカシオの名の下に、そなたに王の称号を与えよう。

 そなたはかつてコルインペリア皇国の最大の反乱分子であった覇王デンガダイ・バウワーをその謀略を持って撃滅した。そして今恐ろしいほどの叡智ある奇策を朕に授け、この大陸の平和への道標を指し示した。

 その畏怖と敬意を抱くべきそなたの聡明たる大功は、このアーシュマハ大陸の地よりも広く、海よりも深く、そして天よりも高い。

 このアーシュマハ大陸の歴史の中でも類稀なる知謀の異才は”謀略王”の名を持つにふさわしいだろう。

 以後はこのコルインペリア皇国の忠臣として仕え、その知略を以て朕に身命を捧げよ。

 朕はそなたを正式なアルポート王国の国王として認め、子孫代々に渡って永久とこしえに彼の国を治むる栄誉をそなたら一族に与えよう」

 こうしてユーグリッドは皇帝より”謀略王”の称号を授かり、アルポート王国の正式な国王として認められたのだった。



(完)
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