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バイプレイヤーズロマンス【後日談編】

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「お待たせ!」


いつの間にか戻ってきていた楓さんの手には木製のツヤツヤしたトレーが握られている。その上には先ほど僕がプレゼントしたコーヒーカップと、鮮やかな黄緑色のホールケーキ。


「じゃーん!すごいいいシャインマスカットもらったからチーズケーキにしてみた!」
「わ…綺麗!すごい美味しそうですね!」
「えへへ~!これ実はお誕生日ケーキなんだよ~」
「えっ!?」
「卒業式の日にもみんなで食べたけど、どうしても俺も作りたくて…作っちゃった!!」
「そんな…!僕のためにわざわざ…?」
「うん!俺が作りたかったから…今切り分けるね!」


ご機嫌でケーキを切り分ける楓さんの顔を見ながら、先ほどの反応の意味を必死に探ろうとする。

……いや、待て待て。こういうのが良くないんだよな。
こうやって言葉にしないまま相手の感情を探ろうとするからいらない誤解が生まれるんだ。
僕たちはもう恋人なのだから、疑問を抱いたのならちゃんと聞けばいい。


「はい!どーぞ!」
「…ありがとうございます」


目の前に用意された美しいケーキを今すぐに口に入れたいのはやまやまだけど、でも今はそれどころじゃない。


「あの……楓さん」
「ん?」
「食べる前に……話したいです」
「………あ、……うん」


どうやら楓さんも僕の意図を察したようだ。自分がいつもと違う反応をした自覚はあるみたいで、申し訳なさそうに目を泳がせる姿になんだか少しだけ罪悪感。

…困らせたいわけじゃないのにな。


楓さんはそっと立ち上がると、そのまま僕の隣に腰掛けた。ギュッと膝の上で握られた拳に左手を重ねると、やっぱり少し…気まずそうな顔。


「………僕に触られるの嫌ですか?」
「え!?いや、そんなわけな…」
「手を繋ぐまでならいいけど、キスは嫌ってことですか…?」
「……ち、………違うよ……?」
「……なら、なんでそんな顔するんですか?」


泳ぎまくっていた目はようやく僕の瞳まで辿り着き、そこでやっと降参したかのように潤んだ。


「あの……」
「……」
「……俺、……その……」
「……」
「……えっと………」
「楓さん…」
「…な、に…」
「大丈夫ですよ」
「え?」
「もし、先に進むのが嫌とか怖いとか…そういう気持ちが少しでもあるなら僕はいつまででも待てるので遠慮なく言ってください」
「……」
「ね?」


諭すように言って頭を撫でた瞬間、ポロッと小さな粒が楓さんの瞳から落ちた。まさか泣かせるとは思ってもみなくて若干焦りながらさらに頭を優しく撫でる。
これは悲しみの涙…?いや…やっぱりなんだか少し違う。


「泣かないで楓さん……僕、あなたと一緒にいれるだけですごく幸せですよ」
「ちがっ、違うの…!全然、嫌とかじゃなくって……!俺っ…初めてじゃないのにっ…初めてだからっ……戸惑ってただけで…」
「…え、えっと…?どういう…」
「ごめっ…、わけわかんないよねっ…!ちゃんと説明するっ…」


初めてじゃないのに、初めてって……一体どういうことだろう?皆目見当もつかない話に首を傾げる。

楓さんは小さく深呼吸すると、僕の目を見て話し始めた。


「俺っ……、知っての通り…そういうことするのはもちろん初めてじゃないんだけど……でも、好きな人とするのは…は……初めてで…」
「………え…」
「だから…なんか、変に緊張しちゃって…」
「……」
「その、卒業式にキスされた時は急だったし…何にも考える暇なかったけど……2人っきりで密室にいていざ本当にそういうことするってなったら…俺、多分冷静じゃ居られない気がして……それで、ごめん…逃げるみたいになっちゃって……」
「……」
「ごめ、この涙も全然嫌とかじゃないの…!旭くんがあんまり優しくて…なんか嬉しいビックリみたいな…!だからその…、」
「なんだ……良かった…」
「…え、…っ!」


感情のまま、折れていない方の手でグッと楓さんを引き寄せ抱きしめる。首筋に顔を埋めると楓さんの香りが濃くなって、心臓が余計にバクバク忙しない。


「……っ!あさ、ひくんっ…」
「……あなたが僕に怯えてたんじゃないってわかってよかった……怖がらせたかと思った…よかった……」
「そんなわけ、ないっ……」


腕の中で小さくなっている楓さんをさらにギュッと締め付ける。愛しくて、愛しくてたまらない。


「旭くんっ……」
「……はい」
「あばら…大丈夫?」
「あぁ……はい…もう全然痛くないですよ」
「……ほんと?なら…俺も、」
「え?」
「俺も……抱きしめ返していい?」


掠れたような、だけどしっかりした意思を感じる一言に思わず口角が上がる。


「……楓さん」
「…ん、」
「かわいすぎてこのまま片手で潰しちゃいそうです…」
「ええっ!?俺プレスされる!?」
「ふはっ…!冗談です…!どうぞ、存分に抱きしめ返してください」
「……!……はい!」


楓さんは小さく返事をした後、ぎゅ~っと音がしそうな勢いで僕の身体に腕を回した。思っていたよりずっと力強い。その愛らしさ故に普段は彼の性別を失念しがちだけど、抱きしめてみるとよくわかる。楓さんはちゃんと男の人だ。

性別の壁すら超えて手に入れた、僕の最愛の人。

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