184 / 203
バイプレイヤーズロマンス【後日談編】
1
しおりを挟む「あ…!要くんいらっしゃ…」
「お前、わざと殴られに行ったんだってな」
楓さんと付き合い始めて1週間、久しぶりにお店にやってきた要くんは僕の顔を見るなりそう言い放った。とんでもない仏頂面だ。
十中八九、あの日のことなんだろうけど……まさかこうもいきなり問い詰められるとは。
「えーっと……楓さんから聞いたの?」
「ん…たぶん、ほぼ全部」
「そっか……」
「旭、コーヒー」
「ふふっ…かしこまりました」
相変わらずのマイペースっぷりになんだか安心してしまう。やっぱ要くんはこうでなきゃね?
要くんと会うのは卒業式ぶりなんだけど、あの日は最終的にまさに全員集合って感じの大人数になっちゃったから…正直要くんとサシで話すような時間は取れ無かった。それに、伊吹が要くんにベッタリなことを和倉さんが超嫉妬してて、外野が迂闊に近付けるような状況じゃなかったっていうのもあるんだけどね。僕は僕で楓さんを両親に紹介するのに必死だったから…まぁ、仕方ない。
「……あ!!てかお前、コーヒー淹れられんの!?怪我…」
「それは全然大丈夫!楓さんが片手でも出来るようにセッティングしてくれてるから余裕だよ」
「なんだそっか…器用だな」
「まぁ…僕もともと両利きだからね」
「…へぇ、ピアノやってたからか?」
「あ~それもあるのかなぁ…?」
「……痛いか?腕」
「あー、ちょっとはね?でも全然平気だよ日常生活には特に問題ない」
「旭の言う"全然平気"は全然信用出来ない…信用する気もない」
「ええっなにそれっ…!僕そんな信用ないの?」
「だってお前…我慢が趣味みたいなもんだから」
「……どんな印象?」
一応書店の方に目をやると、楓さんとあきちゃんが仲良く本を並べている横顔が見えた。…よし。
閉店間際だから他にお客さんも居なくて、カフェスペースにも僕と要くんだけ。
…なら、遠慮なく全部白状して良さそうだ。
改めて要くんの方に向き直ると相変わらずの仏頂面にプラスして眉間に小さな皺。要くんって和倉さんとか爽くんには結構この顔するけど、僕に向けられることってなかなかないから新鮮。でも…この表情はどう転んだって喜怒哀楽の二番目だろう。
「あ……あれ…?…もしかして要くんちょっと怒ってるの?」
「ちょっとじゃなく正真正銘完璧に怒ってるよ」
「……え~」
「"え~"じゃねーよっ!お前、誰かに喧嘩ふっかける時は俺呼べよな」
「…はい?」
「いくら殴られるのが目的だったとしても怪我で済まなかったらどうしてたんだ」
…なるほど。
つまり要くんは、僕があの男に1人で会いに行ったことに対して大層ご立腹ということだろう。どうやらこの1週間で楓さんから本当に全ての事情を聞いてきたらしい。僕としては、楓さんに全てを話してしまった後だからもう誰にバレようが構わなかったし、全然いいんだけど…でもまさかこんな風に言われるとは。
やっぱり要くんは…僕の想像の斜め上をひた走る。
「……いや、別に喧嘩しにいったわけじゃ…」
「うるせー年長者の言うことは聞けこのドアホ…」
「ご…ごめんなさい」
「チッ…!つーか…実力行使すんなら一言相談くらいしろ…なんのための俺だよ……」
「……あはっ…要くんって……ほんと優しいね」
「あ?俺キレてんだけど」
「ふふっ…!うん、知ってるよ?ありがとう要くん…心配してくれたんだよね?」
「はぁ!?なんでそうなるんだよ!」
「要くんの不器用な優しさって…ほんと愛おしい」
「………」
「心から…感謝してます」
僕と楓さんの間を取り持とうと必死に動いてくれたこと…僕も楓さんから全部聞いたし、これは本当に心からの言葉。
これまで要くんからもらった全ての愛への感謝を込めて僕がそう言うと、要くんは心底悔しそうな顔をした後…綺麗なハイトーンヘアをクシャクシャにかき混ぜてカウンターに沈んだ。これもなかなか見られない、珍しい姿だ。
要くんはいつだってそうなんだ。全てを言葉にしなくても察してくれる。
「………チッ……俺を丸めこめるのはお前ら兄弟だけだよちくしょう…」
「…ぶはっ!!」
「笑うな旭!!」
「ふふっ……ごめんね?あ…豆どうする?」
「……キリマンジャロ……濃い目で」
「了解」
要くんはぼんやりした目で僕の手元を見つめる。この様子じゃ、相変わらず寝ずにデザイナー業をこなしていたのだろう。和倉さんが心配であたふたしている姿が目に浮かぶ。
「………まぁ、何はともあれ……楓さんとうまくいって、良かったな」
「うん…おかげさまで」
「お前ら一緒に住むんだって?」
「うん!今日の夜から!」
「へぇ…随分タイムリーなこって」
「だね~でも僕は付き合った日から一緒に住みたかったんだけどね…楓さんにちゃんと準備させてって言われちゃって」
「……そりゃそうだろ……にしてもやっぱお前、見かけによらず相当強引だよな」
「そう?」
「うん…そんなあまーい顔してんのに中身超"男"って感じ」
「それは……初めて言われたなぁ…」
「……旭が男見せんのは楓さん相手だけだからじゃね?」
「ああ、なるほど!」
12
お気に入りに追加
1,094
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる