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バイプレイヤーズロマンス【後日談編】

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「あ…!要くんいらっしゃ…」
「お前、わざと殴られに行ったんだってな」


楓さんと付き合い始めて1週間、久しぶりにお店にやってきた要くんは僕の顔を見るなりそう言い放った。とんでもない仏頂面だ。
十中八九、あの日のことなんだろうけど……まさかこうもいきなり問い詰められるとは。


「えーっと……楓さんから聞いたの?」
「ん…たぶん、ほぼ全部」
「そっか……」
「旭、コーヒー」
「ふふっ…かしこまりました」


相変わらずのマイペースっぷりになんだか安心してしまう。やっぱ要くんはこうでなきゃね?

要くんと会うのは卒業式ぶりなんだけど、あの日は最終的にまさに全員集合って感じの大人数になっちゃったから…正直要くんとサシで話すような時間は取れ無かった。それに、伊吹が要くんにベッタリなことを和倉さんが超嫉妬してて、外野が迂闊に近付けるような状況じゃなかったっていうのもあるんだけどね。僕は僕で楓さんを両親に紹介するのに必死だったから…まぁ、仕方ない。


「……あ!!てかお前、コーヒー淹れられんの!?怪我…」
「それは全然大丈夫!楓さんが片手でも出来るようにセッティングしてくれてるから余裕だよ」
「なんだそっか…器用だな」
「まぁ…僕もともと両利きだからね」
「…へぇ、ピアノやってたからか?」
「あ~それもあるのかなぁ…?」
「……痛いか?腕」
「あー、ちょっとはね?でも全然平気だよ日常生活には特に問題ない」
「旭の言う"全然平気"は全然信用出来ない…信用する気もない」
「ええっなにそれっ…!僕そんな信用ないの?」
「だってお前…我慢が趣味みたいなもんだから」
「……どんな印象?」


一応書店の方に目をやると、楓さんとあきちゃんが仲良く本を並べている横顔が見えた。…よし。
閉店間際だから他にお客さんも居なくて、カフェスペースにも僕と要くんだけ。

…なら、遠慮なく全部白状して良さそうだ。

改めて要くんの方に向き直ると相変わらずの仏頂面にプラスして眉間に小さな皺。要くんって和倉さんとか爽くんには結構この顔するけど、僕に向けられることってなかなかないから新鮮。でも…この表情はどう転んだって喜怒哀楽の二番目だろう。


「あ……あれ…?…もしかして要くんちょっと怒ってるの?」
「ちょっとじゃなく正真正銘完璧に怒ってるよ」
「……え~」
「"え~"じゃねーよっ!お前、誰かに喧嘩ふっかける時は俺呼べよな」
「…はい?」
「いくら殴られるのが目的だったとしても怪我で済まなかったらどうしてたんだ」


…なるほど。
つまり要くんは、僕があの男に1人で会いに行ったことに対して大層ご立腹ということだろう。どうやらこの1週間で楓さんから本当に全ての事情を聞いてきたらしい。僕としては、楓さんに全てを話してしまった後だからもう誰にバレようが構わなかったし、全然いいんだけど…でもまさかこんな風に言われるとは。
やっぱり要くんは…僕の想像の斜め上をひた走る。


「……いや、別に喧嘩しにいったわけじゃ…」
「うるせー年長者の言うことは聞けこのドアホ…」
「ご…ごめんなさい」
「チッ…!つーか…実力行使すんなら一言相談くらいしろ…なんのための俺だよ……」
「……あはっ…要くんって……ほんと優しいね」
「あ?俺キレてんだけど」
「ふふっ…!うん、知ってるよ?ありがとう要くん…心配してくれたんだよね?」
「はぁ!?なんでそうなるんだよ!」
「要くんの不器用な優しさって…ほんと愛おしい」
「………」
「心から…感謝してます」


僕と楓さんの間を取り持とうと必死に動いてくれたこと…僕も楓さんから全部聞いたし、これは本当に心からの言葉。

これまで要くんからもらった全ての愛への感謝を込めて僕がそう言うと、要くんは心底悔しそうな顔をした後…綺麗なハイトーンヘアをクシャクシャにかき混ぜてカウンターに沈んだ。これもなかなか見られない、珍しい姿だ。

要くんはいつだってそうなんだ。全てを言葉にしなくても察してくれる。


「………チッ……俺を丸めこめるのはお前ら兄弟だけだよちくしょう…」
「…ぶはっ!!」
「笑うな旭!!」
「ふふっ……ごめんね?あ…豆どうする?」
「……キリマンジャロ……濃い目で」
「了解」


要くんはぼんやりした目で僕の手元を見つめる。この様子じゃ、相変わらず寝ずにデザイナー業をこなしていたのだろう。和倉さんが心配であたふたしている姿が目に浮かぶ。


「………まぁ、何はともあれ……楓さんとうまくいって、良かったな」
「うん…おかげさまで」
「お前ら一緒に住むんだって?」
「うん!今日の夜から!」
「へぇ…随分タイムリーなこって」
「だね~でも僕は付き合った日から一緒に住みたかったんだけどね…楓さんにちゃんと準備させてって言われちゃって」
「……そりゃそうだろ……にしてもやっぱお前、見かけによらず相当強引だよな」
「そう?」
「うん…そんなあまーい顔してんのに中身超"男"って感じ」
「それは……初めて言われたなぁ…」
「……旭が男見せんのは楓さん相手だけだからじゃね?」
「ああ、なるほど!」


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