138 / 203
キスする前に出来ること【解決編】
4
しおりを挟む俺の服の裾をギュッと握り、一度深呼吸してから…かなは口を開いた。
「……あの、俺……結城 要…です……よろしく」
遠慮がちに口を開いたかなは、いつもより若干オドオドして見える。これはこれでかわいいけど……やっぱりなんだか調子が狂う。いつもの毒舌モンスターも、女の子の前じゃ発揮されないか。
「……そっか、要だから……"かな"かぁ…!へぇ…かーわいっ!兄貴あだ名のセンスいいじゃん!」
「伊吹…!だからかなを呼び捨てにするなって…!」
「えー?じゃあ…かな…ちゃん!私、妹の和倉 伊吹です!!こちらこそよろしくね!」
「…は、はい…」
「ところで…」
「え?」
「このアホやめて、私と付き合わない?」
「…………は…?」
あまりにも通常運転な妹に、俺は頭を抱えて黙り込む。
………やっぱりだ。
伊吹がこんな美人を口説かないはずがない。
しばらく黙っていたかなは、パチパチと数回瞬きを繰り返した後…再び口を開いた。勘のいい彼のことだ、そろそろ伊吹の扱い方を察する頃だろう。
「えーっと……正気か?」
「うん!めちゃくちゃ正気だよ?」
「…マジで口説いてんの?」
「もちろん!だって正気なやつはみーんなかなちゃんのこと口説くでしょ?」
「……」
「こんな綺麗な子を誘わないなんて…逆に失礼じゃん」
「………俺、恭介と付き合ってるんだぞ?」
「…ん?だから?結婚してるわけじゃないんだし、誘うのは自由じゃない?」
伊吹はニコニコ優雅に笑いながら、かなを見下ろす。さりげなくドアに手をついて、壁ドンの体勢に持ち込んでるあたり…お察しだ。かなだって決して背が低いわけじゃ無いけど、伊吹は最近180cmを越えたところ。しかもまだ伸びそうな勢いだ。うちは両親ともに背が高かったし、俺も高いからまぁ予想はしてたけど…俺より伸びるのだけはやめてほしい。兄としての、沽券に関わる。
俺は無言でかなの身体を引き寄せて、伊吹から距離を置かせた。
「……おい恭介……お前の妹……倫理観が消滅してる……」
「ごめんかなっ……、あーもうっこうなると思ったぁ!!!!」
「しかもお前よりスマートに口説いてくるぞ………!」
「だから言ったじゃん…!!もーっ頼むからやめろって伊吹っ!!かなは女全般苦手だって言っといたろ!!?」
伊吹には付き合ってる相手の話をあんまりしないようにしていたけれど、かなが男性で、そして女性が苦手であることは事前に伝えておいた。だから、とりあえず触ることだけは避けてくれているようだ。
こっちとしては、出来れば口説くのもやめてほしい。
「ねぇ、かなちゃん聞いて…?」
「…え?」
「性別なんて、ただの区分でしかないんだよ…?大きい括りで見れば私たちは同じ人間……だから、焦らなくて大丈夫……安心して…?いつかはきっと愛し合える」
「愛し合うなーーーーッ!!!!!ってか誰も焦ってないから!!!!?いや、俺は焦ってるかもしれないけど…!!とにかく、なんでこの状況で俺の恋人口説けんのお前は!?マジで誰に育てられたんだよぉっ!!親の顔が見てーよ!!!」
「…たぶん、育てたのお前だし…お前ら親一緒だろ」
「かなーーーー今ツッコミいらなーいっ!!!!頼むから伊吹の味方しないでーーーーっ!!!!!!」
「してねーよ…つーかちょっと落ち着けよお兄ちゃん」
「そうそう……兄貴はちょっと騒ぎ過ぎ…!せっかく来てくれたのにかなちゃんビックリしちゃうでしょ?全く…野蛮で困っちゃうよね?……さぁ、かなちゃん……私の部屋行こっか?」
「コラァ!!連れ込もうとするなーーーーーッ!!!!!」
「…ブハッ!!!」
爽やかな笑顔を浮かべる妹と、焦って暴れ回る俺の対照的な姿がよほどツボに入ったのか…かなはケラケラと大笑いを始める。
それを見た伊吹が、本当に穏やかに笑っていて……一目でかなを気に入ったことがわかった。
…だって、前の彼女を紹介したときは…あからさまに嫌な顔してたから……。2人が仲良くしてくれるなら、兄として…恋人として…そんな嬉しいことはない。
……いや、普通にだよ!?必要以上に仲良くするのはNGだからね!!!?
家の中に入ると、案の定かなの隣に座ろうとする伊吹を必死に説得する羽目になった。やっとの思いで向かいの席に座らせることに成功した俺は、絶対にかなに触るなと伊吹に再三念押ししてからティーセットを用意しにリビングを離れた。
普段なら人が来たって飲み物なんかわざわざ用意しないけど……相手はあの結城 要だぜ?生まれながらのセレブボーイには最低限のおもてなしをしなきゃバチが当たる。
「………はぁ、」
キッチンでお湯を沸かしながら腕を組んで項垂れると、自分で思っていたより大きめのため息が出た。
……全く、伊吹のナンパ癖には困ったもんだ。
しばらく特定の相手はいないようだけど、男女問わず綺麗な子を何人も侍らせて歩いているところを目撃したのは1回や2回じゃない。しかもみーんな見事に手懐けて、誰1人として伊吹を悪く言わないんだから……やはりアイツは天性の人タラシなのだろう。俺みたいな紛い物のチャラ男とは訳が違う。
伊吹の友達曰く、学校では伊吹の周りにいる綺麗どころを総じて"大奥"って呼ぶらしい。
………いや、どんな高校生だよ!!!!!
小さい頃はものすごく大人しくて、俺の後を必死について来るようなかわいらしい妹だったのに……いつからあんなイタリア人みたいな口説き方するようになっちゃったんだよ…!!一体どこで道間違えたんだ!!?
物思いに耽りながらいつもの何倍ものスピードで動き、我が家ではほぼ縁のないティーセット一式を準備して急いでリビングに戻る。
12
お気に入りに追加
1,094
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる