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例えば及ばぬ恋として【初夜編】

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翌朝。






うっすら瞳を開けると、鳥の声だけが小さく耳に届く。朝日が眩しい。

隣からは規則的な寝息が聞こえて、その主はガッチリと俺の右腕を抱いている。どうやら俺は、相変わらず抱き枕扱いらしい。あきは睡眠時基本的に抱き枕を愛用しているから…俺と寝る時は、俺の腕をこうやって代用する。

スヤスヤと眠る…赤ちゃんみたいな寝顔に、愛しさで胸がいっぱいになる。




俺のあきは……今日もパーフェクトにかわいい。



昨晩あきの就寝後、俺は諸々の後処理のために結構長く起きていたけど……それでも俺の方が早く目覚めたってことは、やっぱり相当無理をさせたんだろう。あきは元々体力がないタイプだから仕方ないけれど……ちょっと可哀想なことしたかもな。

時間を確認しようと少しだけ起き上がると、それにつられてあきもモゾッと小さく動いた。

…どうやら起こしてしまったらしい。


「………ん、」
「……あき」
「…え…?…そ…う…?」
「ごめんな…起きちゃった…?」
「んぅ…?ここ………どこ?」
「ん…?北海道」
「え……?………あれ……?おれ、なんで爽と……寝てるんだっけ……?」


瞼を擦りながら目覚めた俺のお姫様は、完全に寝ぼけているようだ。

まだ半分も覚醒していなさそうなあきの身体を、優しく抱きしめておでこにキスをする。


「……それはね、」
「……?」
「俺とあきが……昨日…」
「……き、のう……?」
「初めてえっちしたからだよ…?」
「…………………え…………あっ!!」


一気に覚醒したあきは大きなグレーの瞳をガッと開いて、俺の顔を見た。そして一気に赤くなったかと思うと、次の瞬間には両手で顔を押さえて布団に潜る。


……全く、朝から忙しい奴だ。


「ぶはっ…!おはよあき…、ちゃんと目…覚めた?」
「覚めたぁ…!!やだぁ…、こっち見ないで爽っ……、恥ずかしいっ……」
「はぁ?今更だろ…?」
「だって…!今…全部思い出してっ…!ああ、もうっ!俺昨日っ…、めちゃくちゃはしたないこと言いまくってたよね!!?やばいっ…!!なんであんなことっ……うわあああっ頼むっ記憶よ消えろぉお!!!消えてくれえええ!!!」
「ブハッ!!!!」


動揺しすぎて完全にキャラ崩壊してるあきが面白すぎて、俺は盛大に吹き出す。


「あははははっ!!…はーおもしろっ……!」
「爽のいじわるっ!!そんな笑わないでよぉ!!!」
「ふふっ……!どんなに恥ずかしがったって、お前がバージンじゃなくなった事実は変わんねーぞ?」
「恥ずかしいもんは恥ずかしいの!!!」
「ふーん……?昨日はあんなに大胆に足開いてたくせに…」
「言うなぁーーー!!!!!」


怒るあきを無視して布団を剥がすと、うつ伏せになったあきがベッドに顔を押し付けていた。どうしても顔を見られたくないらしい。

かわいい奴……。

仕方なく、うつ伏せのあきに覆い被さりギュッと抱きしめて、耳にキスをする。


ちゅ、ちゅ…とわざと音を立ててキスを続けると、ビクッとあきの身体が震えた。相変わらず、耳はあきの弱点みたいだ。


「あき……こっち見てくんねーの?」
「………」
「あーき」
「………」
「…ごめんってぇ……、許して…?」
「………もう、いじめないっ…?」
「ふふっ……、うん、もういじめないよ……こっち向いて……」


ものすごくゆっくり首を傾けたあきと、視線が交わる。……真っ赤だ。


「………お前は世界一かわいいね…」
「……爽……それ言えばなんでも許されると思ってない…?」
「ううん、ただの本心………あきがかわいくてかわいくて……俺、おかしくなりそう」
「…もぉ……そんな口説かないでってばぁ…!俺、もうとっくに爽のものだよ?だからそんな常に口説かなくてもちゃんと…、」
「ふふっ……それはヤダ…俺、お前のこと一生口説くよ?」
「……ばかぁ」


あきは小さく悪態をついて、俺の口元を手で覆った。



お前がもう、俺のものだから……なんて、関係ない。


あきがどう思おうと、これからも…口説いて口説いて…口説きまくってやる。そうして、一生俺の沼から這い上がれないように……俺の腕の中に囲っておけるように……愛の言葉を伝え続ける。




そう、これはたぶん……



…半分洗脳。





「……あき……」
「ん…?」
「………お風呂、入ろっか」
「………………え?」
「部屋についてる露天風呂……一緒に入ろ?」


断られること前提で呟いた俺の言葉に、一瞬固まったあきは………



数秒後、コクリと頷いた。



「…………は………?まじ……?いいの?」
「…うん…入り、……たい…もん……お風呂……」
「…………」
「爽…?」


完璧な上目遣いで俺を見たあきに、俺は興奮気味に呟く。


「…………俺は、むしろ……あきに入りたいんだけ」



全部言い終わる前に、俺の顔面にはふわふわの枕が押し付けられた。
















こうして俺たちの初夜は終わりを迎えた。



俺はこれから先きっと、何百回…何千回と彼を抱くのだろう。

13年片想いした運命の男の子との初めての夜は、とても刺激的で……一生忘れられない甘い時間になった。最初の一歩としては上出来だ。



でもこれは、あくまで最初の一歩。


これから彼と歩んでいく未来の、序章でしかない。









まぁ、でも……

もう一歩目はたぶんすぐに…




露天風呂でスタートしそうだ。








「……ひゃあっ!!!?ちょっと爽っ!何してんの!!?」
「ん?」


露天風呂横の脱衣所。初めてを終えたカップルとしてはごく自然に身体を撫で始めたつもりだったけど……どうやらまた一悶着ありそう。


「えっ、あっ…!待って…!?そんなとこ触んないでっ…やだっ……!」
「いや、触るだろ」
「なんで!!!?」
「…ええ…?……俺、風呂場でヤんないなんて言った?」
「ハァ!?昨日あんなにしたじゃんっ!!!俺、てっきりさっきの冗談だと…!」
「残念、めちゃくちゃ本気」
「…っ、ねぇ無理ぃっ…!俺、まだ全然慣れてないのにっ…!こんな朝からとかっ…!」
「大丈夫…お前は何もしなくていいから…ほら、俺の上に乗ってるだけでいいよ」
「こんのっ…ド変態ッ!!!!!!」



あきの叫び声は、目の前の雄大な自然にとんでもないボリュームで響き渡った。










…To be continued.
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