97 / 203
例えば及ばぬ恋として【旅行編】
7
しおりを挟む
ふと外を見ると、いつの間にか高速道路の入り口だ。車がゆっくりとETCのレーンに入っていく。
「ねぇ、爽……今日泊まるとこ……ここから2時間くらいなんだよね?」
「うん、そうだよ」
「……それって……札幌?小樽?それとも……旭川?」
「全部ハズレ」
「えー?…そろそろ行き先くらい教えてくれないの?」
「教えても……たぶんあきわかんないよ?」
「え、そうなの?」
「うん」
つまり、あんまり有名な地名じゃないってことかな…?
爽はニコニコとご機嫌な雰囲気を漂わせながらハンドルを握る。俺はその姿を、横目でチラリと盗み見る。
相変わらず、運転してる爽は抜群にかっこいい。
大人の男の人ってズルイよね?自分が出来ないことを出来るってだけで、まだ子供の俺からしたらめちゃくちゃかっこよく見えちゃうんだから。
「なぁあき、そろそろお腹すいてんじゃない?」
「えっ?」
「お前飛行機の中でも寝てて何も食べてなかったし…さっき買ったチョコ食べる?車酔い対策にもなるし」
「あ…うんっ!」
運転しながら俺のお腹の具合まで把握してるなんて……さすが爽。俺こう見えてめちゃくちゃ食べるから、爽は普段から俺がお腹空いてないかマメに確認してくれるの。優しすぎるよね。
先程爽が買ってくれたチョコの紙袋を開いて、お気に入りの一品を手に取る。それをジッと見つめて、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「………うぅっ…クマさん…!やっぱり一番かわいい…!」
「ふっ……お前、それ今から食うんだろ?そんな愛でてたら食いにくくねぇ?」
「……ハッ…言われてみたらそうかも…!どうしよ!食べちゃうの可哀想!!!」
「ブハッ!!!!」
「ねぇ爽どうしよ!!!食べない方がいい!?」
「いや食べろよ!!」
「だって…!」
「あはははっ!!はーっマジでお前といると飽きねーっ」
爽は心底楽しそうに笑う。
ねぇ、爽……俺だってそうだよ?
爽の隣にいるだけで楽しくて、幸せで、ぜんっぜん飽きる気がしない。
だから余計に思う。
大好きな人と2人っきりでこんな遠出が出来るの…めちゃくちゃ嬉しい。お互い仕事と学校でそれぞれ忙しいから、次はいつ旅行出来るかわからないしね。
なら、今日という日を死ぬまで忘れられない日にしなきゃ。
もっともっと、この一瞬を大切にしなきゃ。
「………爽、」
「ん?」
「俺のこと……連れ出してくれてありがとね?」
「………あき?どした?」
「ごめん、いきなり……でも、言いたくなったから」
「………ん、そっか」
「………あのね」
「?」
「俺、爽に好きになってもらって…幸せだよ」
俺はそう呟くと、クマさんを口にギュッと押し込む。
それを横目で見た爽は、"俺も"と一言呟いた。
それから2時間、たっぷり爽とのイチャイチャドライブを楽しんだ。お互いの好きな曲をたくさんかけて、たくさん色んな話をした。
爽とドライブは何度かしたことあるけど、都心とは違って道路も広いし…景色がめちゃくちゃいい。そうなると、おのずと気分も上がっていった。
自他ともに認める大食いの俺は、爽が買ってくれたチョコレートのほとんどを完食してしまって…さすがにそれには爽も驚いたようだった。引かれてはいなかったけど、結構笑われた。
だって、今まで食べたチョコの中で…いっちばん美味しかったんだもん。
高速道路を降りた後も結構走ったけど、周りは見事に自然でいっぱい。爽の言っていた通りすでにうっすら紅葉も始まっていて、色鮮やかな木々の中を車で走り抜けるのは最高の気分だった。俺的には、これぞ北海道!って景色をたくさん見られて大満足。
……そう思っていたけど、なんだか周りにある建物が少しずつ変わってきた。
なんていうか、どんどんお洒落になっていく。
「………ねぇ、爽……」
「……んー?」
「あの………なんか急に、かっこいい建物ばっかりになってない…?さっきまでずっと木ばっかりだったのに……」
「うん……もうすぐ着くよ」
俺は窓の外を眺めながらひたすら口を開けてポカンとしていた。
北海道に旅行……って言うから、俺はてっきり田舎のふるーい温泉とかでゆったり過ごすんだろうなと思っていた。それが、こんな町中全体がお洒落で活気があるなんて予想もしていなかった。
「ここ、ウィンタースポーツで有名な町なんだ」
「ウィンタースポーツ……っていうと…スキーとか…スノボとか?」
「そうそう、北海道の雪って特殊でさ…サラサラでウィンタースポーツにはうってつけだから海外からめちゃくちゃ観光客が来るんだよ…それで、ここら辺の土地一帯を日本だけじゃなく外資の企業が買収しまくってるって訳」
「ああそっか…!だからこんなお洒落なんだ…!建物の作りが明らかに海外のセンスだもんね…!全然日本っぽくない!」
「正解!やっぱりあきは頭の回転早いね」
爽の言葉でやっと納得した。
お洒落でモダンな新しい建物ばかりだし、見るからに高級なホテルや旅館だらけ。海外の建築家が関わっていることは、素人の俺が見ても一目瞭然。ここだけ見たら、一見日本には見えないかも。もちろん日本の作りっぽいお宿もあるけど、それはそれで高級感がエグい。
「ウィンタースポーツはシーズンオフだけど、夏は夏でラフティングとか楽しめるみたいで観光地としてどんどん有名になってきてるらしいよ」
「へぇ~……さっすが爽……!選ぶ町まで完璧なんだね……!」
「…惚れ直した?」
「………不覚にも」
「ぶはっ」
吹き出した爽に釣られて、俺も一緒に笑う。
嬉しいなぁ………
だって、俺が北海道に行きたいって言ったその日から…ずっと色々調べてくれてたの見てたから。
「ちなみに、うちのグループでもいくつか所有してるよ」
「……樋口家で?」
「うん、父さんの会社…ホテル経営とかもやってるから」
「ふぉー………御曹司すっごぉ…別世界の話だぁ…」
「まぁ、俺が凄いわけじゃねーけどな?」
会話している間に、車はゆっくりと駐車場に入る。
が、
目の前の建物を見て、俺は心底驚いた。
この町の中だけじゃない……俺がこれまでに見たどんな旅館より立派なお宿だ。外壁はシックな黒。周りは木々に囲まれていて、静寂にして荘厳な雰囲気だ。
一目で、めちゃくちゃ高級だとわかる。
「ねぇ、爽……今日泊まるとこ……ここから2時間くらいなんだよね?」
「うん、そうだよ」
「……それって……札幌?小樽?それとも……旭川?」
「全部ハズレ」
「えー?…そろそろ行き先くらい教えてくれないの?」
「教えても……たぶんあきわかんないよ?」
「え、そうなの?」
「うん」
つまり、あんまり有名な地名じゃないってことかな…?
爽はニコニコとご機嫌な雰囲気を漂わせながらハンドルを握る。俺はその姿を、横目でチラリと盗み見る。
相変わらず、運転してる爽は抜群にかっこいい。
大人の男の人ってズルイよね?自分が出来ないことを出来るってだけで、まだ子供の俺からしたらめちゃくちゃかっこよく見えちゃうんだから。
「なぁあき、そろそろお腹すいてんじゃない?」
「えっ?」
「お前飛行機の中でも寝てて何も食べてなかったし…さっき買ったチョコ食べる?車酔い対策にもなるし」
「あ…うんっ!」
運転しながら俺のお腹の具合まで把握してるなんて……さすが爽。俺こう見えてめちゃくちゃ食べるから、爽は普段から俺がお腹空いてないかマメに確認してくれるの。優しすぎるよね。
先程爽が買ってくれたチョコの紙袋を開いて、お気に入りの一品を手に取る。それをジッと見つめて、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「………うぅっ…クマさん…!やっぱり一番かわいい…!」
「ふっ……お前、それ今から食うんだろ?そんな愛でてたら食いにくくねぇ?」
「……ハッ…言われてみたらそうかも…!どうしよ!食べちゃうの可哀想!!!」
「ブハッ!!!!」
「ねぇ爽どうしよ!!!食べない方がいい!?」
「いや食べろよ!!」
「だって…!」
「あはははっ!!はーっマジでお前といると飽きねーっ」
爽は心底楽しそうに笑う。
ねぇ、爽……俺だってそうだよ?
爽の隣にいるだけで楽しくて、幸せで、ぜんっぜん飽きる気がしない。
だから余計に思う。
大好きな人と2人っきりでこんな遠出が出来るの…めちゃくちゃ嬉しい。お互い仕事と学校でそれぞれ忙しいから、次はいつ旅行出来るかわからないしね。
なら、今日という日を死ぬまで忘れられない日にしなきゃ。
もっともっと、この一瞬を大切にしなきゃ。
「………爽、」
「ん?」
「俺のこと……連れ出してくれてありがとね?」
「………あき?どした?」
「ごめん、いきなり……でも、言いたくなったから」
「………ん、そっか」
「………あのね」
「?」
「俺、爽に好きになってもらって…幸せだよ」
俺はそう呟くと、クマさんを口にギュッと押し込む。
それを横目で見た爽は、"俺も"と一言呟いた。
それから2時間、たっぷり爽とのイチャイチャドライブを楽しんだ。お互いの好きな曲をたくさんかけて、たくさん色んな話をした。
爽とドライブは何度かしたことあるけど、都心とは違って道路も広いし…景色がめちゃくちゃいい。そうなると、おのずと気分も上がっていった。
自他ともに認める大食いの俺は、爽が買ってくれたチョコレートのほとんどを完食してしまって…さすがにそれには爽も驚いたようだった。引かれてはいなかったけど、結構笑われた。
だって、今まで食べたチョコの中で…いっちばん美味しかったんだもん。
高速道路を降りた後も結構走ったけど、周りは見事に自然でいっぱい。爽の言っていた通りすでにうっすら紅葉も始まっていて、色鮮やかな木々の中を車で走り抜けるのは最高の気分だった。俺的には、これぞ北海道!って景色をたくさん見られて大満足。
……そう思っていたけど、なんだか周りにある建物が少しずつ変わってきた。
なんていうか、どんどんお洒落になっていく。
「………ねぇ、爽……」
「……んー?」
「あの………なんか急に、かっこいい建物ばっかりになってない…?さっきまでずっと木ばっかりだったのに……」
「うん……もうすぐ着くよ」
俺は窓の外を眺めながらひたすら口を開けてポカンとしていた。
北海道に旅行……って言うから、俺はてっきり田舎のふるーい温泉とかでゆったり過ごすんだろうなと思っていた。それが、こんな町中全体がお洒落で活気があるなんて予想もしていなかった。
「ここ、ウィンタースポーツで有名な町なんだ」
「ウィンタースポーツ……っていうと…スキーとか…スノボとか?」
「そうそう、北海道の雪って特殊でさ…サラサラでウィンタースポーツにはうってつけだから海外からめちゃくちゃ観光客が来るんだよ…それで、ここら辺の土地一帯を日本だけじゃなく外資の企業が買収しまくってるって訳」
「ああそっか…!だからこんなお洒落なんだ…!建物の作りが明らかに海外のセンスだもんね…!全然日本っぽくない!」
「正解!やっぱりあきは頭の回転早いね」
爽の言葉でやっと納得した。
お洒落でモダンな新しい建物ばかりだし、見るからに高級なホテルや旅館だらけ。海外の建築家が関わっていることは、素人の俺が見ても一目瞭然。ここだけ見たら、一見日本には見えないかも。もちろん日本の作りっぽいお宿もあるけど、それはそれで高級感がエグい。
「ウィンタースポーツはシーズンオフだけど、夏は夏でラフティングとか楽しめるみたいで観光地としてどんどん有名になってきてるらしいよ」
「へぇ~……さっすが爽……!選ぶ町まで完璧なんだね……!」
「…惚れ直した?」
「………不覚にも」
「ぶはっ」
吹き出した爽に釣られて、俺も一緒に笑う。
嬉しいなぁ………
だって、俺が北海道に行きたいって言ったその日から…ずっと色々調べてくれてたの見てたから。
「ちなみに、うちのグループでもいくつか所有してるよ」
「……樋口家で?」
「うん、父さんの会社…ホテル経営とかもやってるから」
「ふぉー………御曹司すっごぉ…別世界の話だぁ…」
「まぁ、俺が凄いわけじゃねーけどな?」
会話している間に、車はゆっくりと駐車場に入る。
が、
目の前の建物を見て、俺は心底驚いた。
この町の中だけじゃない……俺がこれまでに見たどんな旅館より立派なお宿だ。外壁はシックな黒。周りは木々に囲まれていて、静寂にして荘厳な雰囲気だ。
一目で、めちゃくちゃ高級だとわかる。
12
お気に入りに追加
1,094
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
とうちゃんのヨメ
りんくま
BL
叔父さんと甥っ子と雪ちゃんと。
ほっこり、ちょっぴり切ないお話し。
家族の繋がりを全て失った少年と新しく絆を作る青年たちの日常。
司法書士 木下 藤吉は、6歳年下の甥っ子 織田 信の未成年後見人となった。二人で暮らし始め、家族として絆を深めていく。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる