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シルクハニーの死にたい理由【前編】

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「………なんだ、うまいじゃん」
「だよね!?なんかすっごい上手くいった!!!やったー!!!!」


……なんちゃって、前にかながホットケーキ好きって言ってたから家でこっそり練習してたんだよね。でも、ここまで上手くいったのは今日が初めて。
これで妹に「ホットケーキばっかりもうやめろ!!!」と叫ばれる生活ともおさらばだ。

かなは、スキレットにパンパンに詰まったはち切れそうなホットケーキをガン見する。心なしか顔の周りにお花が舞っている気がする。………かわいいかよ。



「なんか……絵本のホットケーキみてーだな」
「あ…ぐ◯とぐら?」
「そうそれっ!!!やべーうまそー!!!」


なんて鋭いんだ。俺のイメージしたホットケーキはまさにそれ。


「えーっと……あ、あった!ハイ、はちみつ」
「………え、なんで知ってんの?」
「かながはちみつ好きだって?前教えてくれたじゃん」
「そうだっけ…」
「うんっ!」
「……恭介って記憶力いいよな……無駄に」
「そう?だとしても…かなに関することだけね?だから無駄じゃないよ?」
「…お前時々マジでこえーからな?」
「うふふふふっ自覚してまーす」


若干顔を顰めつつも大人しくナイフとフォークを受け取ると、かなはホットケーキにはちみつをぶちかけた。そりゃあもうどっさり。糖尿が心配になるくらいべっとり。甘党ここに極まれりって感じ。俺も甘いものはそこそこ食べられる方だけど…これはさすがに見てるだけで胸焼けしそう。



「いただきますっ…」
「ふふっ……はい…どーぞ」
「…………んー!!うっま!!!!すっげーふわふわ!!中身しゅわしゅわ!!めちゃくちゃうまいじゃん!!!!なんだよお前料理下手だったはずだろ!?」
「えへ~愛の力」


語尾にハートマークをつけて目をパチパチさせながらかなを見たけど、華麗にスルーされる。

それと同時に、セットしていたコーヒーメーカーがピーピー音を立てた。完成のお知らせだ。俺はすぐに棚からかなお気に入りのカップとソーサーを出して、出来立てのコーヒーを注ぐ。
めちゃくちゃいい匂い。自宅で豆から挽けちゃうなんて、最高だよなぁ。俺も全自動のコーヒーメーカー買おうかな。


淹れたてのコーヒーを出すと、モグモグとひたすら咀嚼に集中していたかなが一言、ありがと…と呟く。ほんと、毒舌なのに育ちの良さは隠せないよね?

いつもちゃーんとお礼が言えてかわいいなぁ…なんて思っていると、かなは俺をまっすぐ見上げた。



「………ってか…」
「んー?」
「…………お前、練習…した…?」
「………あー……」
「…したろ?」
「………あはははは…あれー?……なんでバレんのー?」
「………マジか」


ポカンと口を開けて俺を見るかなに、仕方ないかと白状を始める。


「いやぁ…かなの言う通り俺めちゃくちゃ料理下手くそだからさぁ……」
「………」
「それでも……好きな人の好物くらい上手に作れるようになっときたいなって思うのが乙女心でしょ~?」
「………誰が乙女だよ」
「で、……暁人にレシピ聞いてホットケーキだけ練習してたわけ…!」
「………俺、ホットケーキが好物って言ったっけ……」
「言ったよ?初めて会った日の…次の日に」
「………やっぱお前の記憶力こえーって……」
「えへへ~!褒められたー!」
「これ、褒めてんのか俺……?」
「褒めてる褒めてるっ!………けどさぁ~…こんなんかっこわりーよな~バレバレだもんなぁ…」


俺はかなの隣に腰掛けて、項垂れる。

暁人みたいに相手の胃袋くらい掴めるようになれば、俺にもかなに振り向いてもらえるチャンスが巡ってくるかなーなんて安易に考えてたけど……ホットケーキ作れるようになるのに1週間もかかったんだから…やっぱ料理の才能ねぇよな。

というか、さっきホットケーキリクエストしてくれてマジでラッキーだったな!練習の成果が見せれて大満足!


俺がだらだら喋っている間もかなはずっと黙ったままフォークを咥えてこちらを見ていた。あまりにも真顔すぎて、その表情の真意を測りかねる。


「……えっと………かな?」
「…………お前……」
「…ん?」
「……マジで……そういうとこだぞ………」
「…………えっと……どういうとこだぞ……?」
「こっちが知らねー間に料理の練習とかしちゃうところ!!!!」
「………えー?やっぱきもかった…?」
「そう、じゃなくて…っ」
「……え?」
「…………チャラ男のくそタラシ…」
「えええっ!!?いやなんで!?なんでそーなった!!!!?むしろめっちゃ一途じゃんっ!!!」


かなは少しだけ頬を赤くして、うるせーっ!と叫ぶとガツガツとすごい速さでホットケーキを吸収していった。イリュージョンみたいに。

訳は全くわからないけど、美味しく食べてくれたみたいでよかった。
ご飯はあんまり食べないくせに、相変わらず甘いものはいくらでも食べられる体質のようだ。このほっそい身体のどこにあのでっけーホットケーキが収まったのか……全くもって謎すぎる。

…そういえば暁人もめちゃくちゃ大食いだって爽が言ってたっけ…?最近の美人は一体どうなっちゃってるんだ……
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