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この先プラトニックにつき【挨拶編】

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1週間前に海で宣言された通り、爽は本当に旅行中俺の初めてを奪うつもりらしく、今もちゃーんと我慢を続けている。つまり、俺たちは今もまだ清らかな関係……では、ないか。付き合う前に色々してるし。

とにかく、

あの日から変わったことと言えば、爽が俺への欲望を以前にも増して隠さなくなったこと。

初めは俺も、爽がちゃんと俺に触りたいって思ってくれてたことに安心したし、それどころか初体験のタイミングまで考えてくれていたことに感動して、爽に欲望をぶつけられる事をとても喜んでいた。


だけど…欲望をぶつけるにも限度ってものがあるでしょ?毎日毎日、えっちな愛の言葉をぶつけまくる王子様に、俺は結構参ってる。だって…あまりにも爽の言い回しがドストレートになっちゃったんだもん。あんなの、嬉しい通り越して恥ずかしくなっちゃうってば!
あの人、事あるごとに"全身にキスしたい"とか…"触りたい、エロい"とか…"早くお前を抱きたい"とか……死ぬほどセクシーな声で囁いてくるんだよ!?たぶん、俺が爽の言葉を勘違いして大暴走したから……絶対勘違いさせたくなくてわざわざストレートな言い方を選んでるんだと思うけど……

それにしてもここまで四六時中言われたら、こっちだってイヤでも爽との初えっちを意識しまくっちゃうじゃん!!?
羞恥と欲望が混じり合って、俺まで毎日煩悩に支配されてんだからね!!!?

ねぇ、俺まだ大学生なんだよ!?しかも童貞だからね!!?あんな最高にかっこいいセクシーなお兄さんに毎日言い寄られたら、期待しちゃうじゃん!!!えっちしたくなっちゃうじゃん!!!



俺だって、我慢してるんだからね!!!!?









クローゼットから、おろしたての服を取り出す。俺はスーツ着なくていいみたいだけど、いつもよりちょっと大人っぽいものをチョイスした。もちろんこれも、親友の結城 要が俺のためだけに作ってくれた世界に一着しかないお洋服だ。

あれ……、もしかしてこれって爽の持ってるオーダーメイドスーツよりさらにすごくない?


着替えを終えて全身鏡の前に立つ。自分で言うのもなんだけど、やっぱり性別がわからない。ユニセックスなデザインだし、適度に身体のラインも出るから余計かも。クルクルと回って全身を見つめると、胸元に垂れ下がっている大きなシルクサテンのリボンが揺れた。

これが要の目指す美しさで、それを最大限活かせる人間が俺なら…もう、男とか女とかどうでもいいって思えちゃう。

だって、最高にかわいいもん。

自分の見た目にも、女の子に間違われることにも、コンプレックスしかなかったけど…爽に愛してもらえてると知って、ちょっと前じゃありえないくらい自分を肯定的に見られるようになった。

爽ってほんとにすごい。

俺の気持ちをいくらでも浮上させてくれるの。

爽がいたから俺は変われた。性別の壁くらい越えてやろーじゃん?なんて…前は絶対思えなかったもん。その上この見た目が、親友の役にも立つって言うんだから、すごい。

爽に会わなきゃ、要の提案を受け入れることも無かったわけだから……俺に親友をくれたのも、結局は爽だ。


感謝したって、しきれないよ…ほんとに。



爽が俺にくれたのは、愛だけじゃない。
俺に、居場所をくれた。




「俺が爽にあげられるものなんて……なにもないのにね……」




ポツリと口から溢れた本音に、何故か少しだけ胸がズキっと痛んだ。



鏡に向かってニッと笑いかけ、ソファに用意しておいたレザーのカバンだけを手に持って部屋を出た。










リビングに戻ると、爽が紅茶をタンブラーに入れている所だった。もちろん、俺の分も。最近お出かけする時はいつもこうやって俺の飲み物も用意してくれるんだよね。つめたーいアイスティー。すっごく美味しいの!

ほんっとマメだし優しいしかっこいいし…たまーに意地悪なところも含めて、爽って完璧。大好き。


「爽、ありがとー!!嬉しいっ!」
「ん…、あき着替えおわ………」
「……え?なに……?」
「うわ……今日もすっげぇかわいい」
「……えっと、この服?これ要が…」


全部言い切る前に爽にグッと腕を掴まれ、ちょっと強引に引き寄せられた。腰に腕を回され、上から見下ろされると、たまらない気持ちになる。


爽は、俺をドキドキさせる…天才だ。


「服もかわいいけど……着てる人がめちゃくちゃかわいいから……余計映えるなって…今日はちょっと大人っぽいんだな……へぇ……すげぇ、綺麗」
「……うぅ…恥ずかしいってぇ……」
「あき……かわいいよ」
「……あ、ありがとぉ……」
「早く……あきに触りたい……」
「……そん……なの、俺もだってばっ…」
「………あき……、抱きたい…」
「……もぉ………オーバーキルです…樋口 爽さん……」
「あはっ…!なんでフルネームだよ」


あまりの恥ずかしさでなんだかもう居た堪れなくなって、両手で顔を隠す。それを見た爽はますます興奮したみたいで、俺をギュッと力強く抱きしめた。

海じゃあんなに大胆になれたのに、日常の中じゃやっぱり恥ずかしさに負けちゃう。というか、爽の直球攻撃に完敗。


「なんか俺……日に日に恥ずかしくなってるんだけど…大丈夫かな…」
「ん~?なにが?」
「だ、だって……実際、その…えっちするって瞬間が来たら…恥ずかしすぎて…逃げちゃいそう……」
「…大丈夫だよ」
「……ほんと?」
「だって、俺がぜってー逃さねーもん」
「……うー……爽ってほんと強引~っ」
「好きだろ?強引にされんの」
「……な…なんで、そんなことわかんの?まだ俺とえっちしたことないくせにっ!」
「わかるよ、キスで」


そのまま顔を掴まれて、半ば無理矢理口付けられる。ガッチリ閉じていたはずの唇も、容易にこじ開けられて舌で歯列をなぞられた。逃げ出そうとする俺の舌をすぐに捕まえて、何度も何度も擦り付けられる。


「ンッ……は、…っ……」
「あき……ッ…」
「っ……んっ……はぁっ…、な、がいっ…てば!」
「…ふっ…ッ…」


気持ち良さに、腰が抜けそうになっていると…俺の口内を舐めながらニコッと綺麗に笑う王子様と目があった。

ねぇ!!!!かっこよすぎてヤダこの人!!!!

いよいよ息が苦しくて、腕でグッと胸を押し返すと、爽は笑いながら唇を離す。


「……っ…も、強引すぎっ…!」
「…けどほら、気持ちいいって顔に書いてる」
「………っ」
「俺、気付いたんだ」
「えっ…?なにに?」
「あきは、慣れてなかっただけで……実は結構強引にされんのが好きだって」
「は…はぁ!?……いっ…意地悪っ!!」
「それに、俺…好きな子はいじめちゃうタイプ」
「知ってるよ!!!」
「でも、」


おでこをくっつけられて、唇同士が触れ合うギリギリの距離。
こんなの、吐息がもろにかかって……


「セックスは、めちゃくちゃ優しくするタイプ」
「………そ、爽っ…」
「まぁ、あきの要望通りちょっと強引に攻めたりもするつもりだけど」
「俺要望なんてしてないって!!!」
「あははっ!……でーも…トロトロになるまで溶かして、気持ちよくしてあげるからね……あき」



最後に頭にキスを落とされて、爽はさっさと玄関に向かって歩いて行った。ちゃっかり俺のカバンも、飲み物も持っていくあたり抜け目がない。どこまでスマートなんだあの男。

俺は爽の甘々砂糖爆弾を消化しきれず、両手で顔を覆ってしゃがみ込む。


1週間前は、樋口 爽を誘惑するー!なんて息巻いてたくせに、いざ本音で話し合ったら完全に俺が誘惑される側になってんじゃん!!!!
ミイラ取りがミイラになってどうすんの!!!?

そもそも、百戦錬磨の王子様に童貞の俺が敵うはずなんてないよなぁ………くっそぉ……



「あきーー!もう行くぞー!」
「あ…は、はーい!!!」



これから出かけるんだから、シャキッとしなきゃ。翻弄されてる場合じゃない!!

一度パチンと自分の顔を両手で叩いて、気合を入れ…俺は急いで玄関に走った。

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