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第1章:Blue Blood Panic
11.過去からの使者 後編
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≪前回のあらすじ≫
カイルは、嫌な気配を感じフレイにサクラとシェリルを預け、リュウガと共に裏路地を駆ける。
敵の誘いにあえて乗り、二手に分かれたカイルとリュウガ。
カイルを待ち構えていたのは、最悪と名高い殺し屋だった。
絶え間なくカイルに襲い掛かる白刃と風刃。
反撃に転じるため、カイルはダンテの術式解析を急ぐ。
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カイルがダンテと鎬を削っていた頃、リュウガはもう一人を追って廃棄区画北部の寂れた広場に立っていた。
「いい加減に、出てきたらどうだ。これで目的どおり俺とアイツを引き離せただろ?」
「なんだ、鈍そうな奴だと思ったが意外に鋭いじゃねーか!」
広場に響いた粗暴な大声に、周辺にたむろっていた数人の若者の視線がに向けられる。
そこには内側からの圧力ではじけそうな程、隆々とした筋肉を露わにした大柄な男が立っていた。
その肉食獣や魔獣を彷彿とさせるような体躯は、大柄なリュウガと比べても遥かに大きい。
「そうさ、俺様の目的はテメェとあのいけ好かねぇ金髪野郎を引き離すことだったのよぉ」
「そんなわかり切ったことはどうでもいい。お前、何者だ?」
リュウガの問いかけに、目の前の男は見下すような歪んだ笑みを浮かべ、朗々と名乗りを上げた。
「一度しか言わねぇからよく聞けよ。オレは「フェンリル」第8小隊副長のガスパロっつうんだわ。テメェの相棒が見捨てた組織の一員だといえばわかりやすいか?クソ野郎が」
「ご丁寧にありがとうよ。で?特殊部隊のお偉い様がわざわざ何の用だ?」
「察しの悪ぃヤローだな。俺のボスからテメェを消せって命令が下ったんだよぉ。じゃなかったらこんなクソ汚ぇところにわざわざ来るか!!」
頭をボリボリと搔き、イラつきをむき出しにしながらガスパロは続ける。
「なんでもよぉ、あの方はまだあの金髪ウジムシヤローを必要としているらしくてなぁ。俺としては、あんなクソ野郎、顔見た瞬間にぶち殺しちまいそうだってのに。・・まぁそんなことはどうでもいいわな。とにかくよぉ、アイツをウチに連れ戻すにゃオメェが邪魔なんだわ。分かったら、サクッとぶっ殺させ・・・・。」
「おい!コラ!政府の犬が何デカイ顔して語ってやがんだよ?ここが俺ら「デスチワワ」の縄張りだって知って喧嘩売りにきやがったのか?、あぁ?」
話の内容が聞こえたのか、広場にたむろしていた男の1人が急にガスパロの話しを遮り会話に割り込んできた。
どうやらここは彼らの縄張りらしい。
荒事が日常茶飯事なここ廃棄区画内には、彼らのような集団チームが無数に存在し、自分たちの安全と利権の確保のために縄張りを作りしばしば争っているのである。
「デスチワワ」といえば最近名前を聞くようになった新興勢力の一つだ。
確かマスターが、「ふざけた名前だが新参の中ではそこそこの力量だ。それに一旗あげようって気概がある」とかなんとか言っていたような気がする。
「おい、聞いてんのかよ!!コラッ!?」
先ほどの男は、肩をいからせ身体が触れそうな距離でガスパロを睨み付けながら大声で怒鳴るようにネチネチと因縁をつけている。
その声を聞きつけ、広場には続々と「デスチワワ」の一員だろうと思われる人影がぞくぞくと集まってきた。
「あああああああああああああぁぁぁぁっ!!うるっせえぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
それまでろくに目線も合わさずしばらく無言を貫いていたガスパロだったが、突如咆哮し、背負っていた大型の鉈を抜き放った。
抜き放たれた大鉈は、そのまま男の頭頂部に深々と食い込む。
返り血がガスパロの服を真っ赤に染め、水気を含んだ鈍い音と共に頭の先から真っ二つに断ち割られた肉塊が広場の汚れた地面に転がった。
「クソ虫がぁああ!ぷんぷんぷんぷん人様の会話に割り込んでくんじゃねぇぞぉおおお!!いいかぁ?これ以上俺様をイライラさせんじゃねぇ。テメェらみたいな小物に割く時間は一秒たりとも存在してねぇんだわ」
「失せろぉ今すぐに。十秒だけ待ってやらぁ」
べっとりと顔についた返り血を不愉快そうに腕で拭いながら、ガスパロはおもむろにカウントを始める。
「じゅーう、きゅーう、はーち・・・」
あまりにも突然の出来事にガスパロの周りを取り囲んでいた「デスチワワ」の面々は、しばらく唖然としていたが、ふと我に返り、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「・・さん、にぃ、いち、はい、ゼロ。もう遅ぇよ」
手にした大鉈を見せつけるように大きく両腕を広げ、獲物を駆り立てる大型の獣さながら逃げ惑う「デスチワワ」達へ襲い掛かるガスパロ。
その体躯に似合わず、俊敏な動きで次々に彼らを追い詰め、斬り捨ててゆく。
「ギャハハハハハハハ、遅ぇえ!!のろのろしてると全員ブッ殺しちまうぞぉおお!もっと気合入れて逃げろやぁああ!」
「たすけ、た・・たた、たすたすけてたすけて・・・」
何人か斬り捨て、調子が出てきたのか血に酔い更に荒れ狂うガスパロの目に、その狂気に完全にのまれ腰を抜かし震えて動けなくなっている1人の若い構成員の姿が映った。
その様子に腹を立てたガスパロは、裂けんばかりに口元をゆがめ歯をむき出しにしながら怯える少年に詰め寄った。
「どうしたぁ、ガキィ。誰が命乞いしろつったよ。オマエ、俺が逃げろっていったらさっさと逃げるんだよぉお。獲物が走らなきゃ狩りがおもしろくねぇえだろうがぁああ!!!」
「あっぁっごごごめ、ごめんなぁああささささ」
ガスパロを前に更に激しく身体が震え、まともに言葉も発せない少年。
その様子が更にガスパロの神経を逆なでした様だ。
「何言ってんのかわかんねぇよおおあおお、ムカつくぜ、てめぇは少しずつ刻んでやらぁああ!」
しかし、振るわれた大鉈は少年の肉を引き裂くことはなかった。
「おいデカブツ。お前、俺を殺すんだろうが。いつまでそんなやつらと遊んでやがる?」
突如、ガスパロと男の間を割って上空から落下してきた塊。
地面に深々と突き立ったそれは、巨大な剣のような形をしているが幾重にも巻き付けられた太い黒革のベルトによりその刀身は見えない。
「あぁ!?なんだこりゃ。邪魔すんじゃねぇよ!!」
楽しみに水を刺され、血走った眼で声の主を睨みつけるガスパロ。
リュウガの手には、今にも燃え尽きようとしている一枚の札。
どうもガスパロの凶刃を防いだ黒い塊を呼び出すために使用された媒介の様だ。
「こりゃ、テメェの仕業か・・・・わりぃわりぃ、ムカついてすっかり忘れてたわ」
そういうとガスパロはポケットから白い錠剤の入った小瓶を取り出しその中身を全て口に放り込むとバリボリと音を立てて噛み砕き始めた。
「はあぁ、染みるぜぇ。最近はこうでもしねぇと調子があがらねぇんだよ」
「殺人狂のうえに薬中か?相変わらずお前らの組織は腐りきってやがるな」
薬の効果で更に興奮している様子のガスパロと対照的に、冷たく言い放つリュウガ。
「おいおいおいおい、いいのかよ!?そりゃ間接的にテメェの相棒もけなしてるってことになるんだぜ?」
「あぁ、あいつもクソ野郎だ。毎日下らねえことで俺をからかいやがるし、ロクな目に合わねえ。いつかブッ殺してやろうと思ってる」
「へぇ、なんだよ、お前もあのウジ虫野郎をぶっ殺してぇってか?残念だがよぉ、俺がお前をぶっ殺してあのヤロウも殺す。命令なんでなぁ!あぁ?命令が違うって?いいんだよ細けぇこたぁ。テメーは命令だから殺す、カイルは俺がムカツクから殺す。面倒くせぇからもうそれでいいじゃねぇか」
「もう一度言う、俺はカイル(アイツ)が嫌いだ。あんなにムカつく奴は他に見たことがねぇ。だからこそ、他の奴がアイツを殺すことは許さねぇ」
リュウガの放つ言葉と鋭い殺気に一瞬驚きの表情を見せたたガスパロだが、すぐに狂った笑みを取り戻す。
「そうこなくちゃ面白くねぇ。それじゃあそろそろおっぱじめようぜぇ!!」
ー突進ー
そう聞くと何の捻りもない愚かな攻撃方法に聞こえるだろう。
しかし、質量と速度に物を言わせたその威力は単純だが驚異的である。
それが両手に大型の鉈を握り、2m近い巨体で一直線に突っ込んでくる男のものなら尚のこと。
「このままミンチにしてやるぜぇ!!得物を拾うまで待ってくれなんて言わねぇだろぉおおお!?」
当のリュウガは、いつも羽織っている墨染の布のような上着を脱ぎ捨てた後、特に構えもせず自然体でその場に佇み静かに目を閉じている。
「我、制約に従い力を振るう者」
その言葉に反応し、先ほどガスパロの凶刃から若いデスチワの命を救った地面に突き刺さった金属塊に巻き付いているベルトの一部がほどけ、蛇の様に地を這いリュウガの元へと走る。
静かだが力強い独特の呼吸。
一呼吸毎に気血を全身に巡らせ、毛髪の一本一本まで肉体を己のコントロール下においてゆく。
「戒めの対価に力を寄越せ」
地を這うベルトは、リュウガの脚を這い上がり、一切の無駄なく鋼のように鍛え上げられた全身を鎧ってゆく。
それは身を守ると同時に自由を封じる枷のようにも見える。
「来い、「屠龍」」
引き伸ばされたゴムが収縮し勢いよく元に戻るかのように、リュウガの右腕と黒革で繋がれた「屠龍」と呼ばれた大剣は風を切り裂く咆哮と共に、主の手中に収まった。
ゴォォオオオオオオオンンッ!
重い金属製の扉を槌で力いっぱい殴りつけたかのような音が広場に鳴り響く。
ガスパロの全体重と加速を乗せ、袈裟懸けに振り下ろした大鉈を、独特の蒼味を帯びた剣の形をした金属塊が真正面から受け止めたのだ。
リュウガは、「屠龍」を剣として振るうのではなく、柄から刀身根本に巻きついたベルトを掴み、まるで大盾のように操っている。
「うぉおおおおおおらぁあああああああ!」
ズンッ、とリュウガの足が地面に食い込む。
「屠龍」で受けた衝撃を全身のバネを使い地面に逃がすことで吹き飛ばしを回避。
踏み込む力に反発力を上乗せし、更に全身のバネを駆使しガスパロの巨体を弾き飛ばす!
「うおっ、マジかっ!!」
鉛の塊のようなガスパロの体が宙に浮き、大きく後方へと吹き飛ばされた。
「ハッハー!!すげぇ力だな。まさかこの俺様を吹き飛ばすたぁ!」
予想していなかった展開に、ガスパロは血走った目をまるで新しいオモチャを見つけた子供の様に見開いている。
「だがよぉ、お前やっぱ馬鹿だろ?そんな無意味にデカいもん、扱うのに無駄に力を使う上にぶん回す軌道も限られんだろがぁ」
大鉈で「屠龍」を指し、心底バカにした様子でガスパロは言う。
「ふん、お前に言われるまでもない。俺だって好きでこんなもん使ってるわけじゃねえさ」
冷静だがどこか苦々しげなリュウガ口調から何かを感じ取ったガスパロが更に挑発を仕掛ける。
「あぁー分かったぜ。さてはテメーもあの金髪蛆虫に何かされた口か!可哀想にな、同情するぜぇ!!」
地面に這いつくばる様に低い構えから、急激な加速。
やる気を出している時のカイル程ではないが、ガスパロの動きは素早い。
更には、その体躯故に繰り出す一撃一撃が重く、打ち合う相手は相当の力を出すことを余儀なくされる。
「どうしたよぉクソ野郎。あまりの実力差に焦ったかぁ?」
それまで表情を変えずに淡々と戦っていたリュウガであったが、ガスパロの言葉にニヤリと口の端を歪めてみせた。
「いや、この程度ならいつも俺の周りをうろちょろしてる鬱陶しい奴の方が厄介だ」
「んだとぉおおお!、俺があいつよりも劣るってんのか?ふっざけんじゃねぇ!俺は昔から納得いかなかったんだ。あいつはさほど実力もないくせになんでウチの頭はってやがんのかってな」
一言一言、言い放つ度にガスパロの顔が苦々しく歪んでいく。
「そうさ、あいつはあの人の庇護があったから第1小隊の頭につけたんだ。それなのに、それなのによぉ、俺らを見捨てやがって・・・・」
怒りによってガスパロの肉体が更に膨れ上がり、抑えられなくなった感情を爆発させガスパロは再び咆哮した。
「ちくしょおおおぉぉぉっ!!あの人を裏切ったあいつを俺は絶対ぇに許さねぇぞおおぉぉっ!!」
さらに苛烈さを増す猛攻。
金属のぶつかり合う音が絶えず広場に響き渡る。
しかし、相変わらずこれといった反撃をする様子もなくガスパロの攻撃を「屠龍」で受け続けているリュウガ。
「クソがぁ、いつまでそうやってんだよぉ?イラつくぜぇ、いい加減たたっ斬らせろやぁ!!!」
更に強い衝撃が「屠龍」にかかり、ガスパロの姿がリュウガの視界から消える。
金属壁の様な「屠龍」を踏み台に利用した跳躍。
空中で身を捻り、リュウガの斜め後方へと着地する。
がら空きだ。
大剣の重量故だろう、取り回しが追いついていない。
「馬鹿がぁあ、しぃねぇやぁあああああああああ!」
渾身の力で大鉈を振るうガスパロ。
だが、大鉈が敵の肉を食らう感触を感じ取る前に、顔面に強烈な衝撃が走った。
リュウガは「屠龍」を手放し、振り下ろされた大鉈の軌道を拳を刃の腹に沿わす動きで反らせ、そのままガスパロの顔面に強烈なカウンターを叩き込んでいたのだ。
今度は顎に衝撃。
視界が、脳が揺れる。
「ぐっう、あっ・・・・・。このぉおおお!」
常人なら顎どころか脛椎が損傷しているほどの威力の殴打を急所に食らわされ、一瞬怯んだガスパロだったがすぐさま大鉈をり回し反撃を繰り出した。
「タフな野郎だ」
リュウガは地面に突き立て手放した「屠龍」の後ろに回り込み再び防御を固める。
「クソォぉおお。テんメェどうして動かねぇ?!なんでそんな状態で俺の攻撃を受けきれんだよぉおお?!」
血管が破裂し血を吹き出しそうな程、怒り狂っているガスパロと対照的にリュウガは変わらず冷静に答えた。
「その獣みてぇな動きは厄介だが、殺気を垂れ流し過ぎだ。本命の予兆が読みやすいから防ぐのに大して苦労はしねぇ。それに放っておいても馬鹿みたいに突っ込んでくるんだから、わざわざお前のペースにあわせて動き回る必要もない。どうした?あまりの実力差に焦ったか?」
「ざけんなよぉ。おとぎ話じゃあるまいし、そんな机上の理論が実戦で通用するかぁああ!」
「信じようが信じまいがお前の勝手だ、ついでにもう一つ教えといてやるよ」
リュウガは静かに、しかし力強く続ける。
「コイツ(屠龍)はな、相手の力量、危険度、俺自身の状態に合わせて段階的に制限が課された厄介な代物でな、お前のオモチャと違って気軽に振り回せる代物じゃねえんだ。一撃だ、俺がコイツを振るう時、一撃でお前は沈む。あとは見定めるだけだ、その瞬間を」
「あぁあああくっそイラつくぜぇええ!テメー!!どこまでも俺様をムカつかせりゃ気がすむんだぁあ?あぁあ??ナメんやがってぇえ、このハッタリ野郎が。ドタマカチ割られてバラバラになった後、あの世で後悔しやがれ!!」
ふたたび取り出した錠剤を今度は瓶毎バリバリと噛み砕き、怒りに任せ雄叫びをあげながら大鉈同士を何度も打ち鳴らし、更に勢いを増し突っ込んでくるガスパロ。
「懲りねえヤツだな」
あくまでも猛り狂うガスパロとは対照的。
静かな、しかし力強い呼吸。
膝を緩め深く腰を落とし、「屠龍」ゆっくりと脇に構える。
「死にさらせぇえええええええ!!!!」
突っ込んできたガスパロが間合いに踏み込んだその時、リュウガは初めて「屠龍」を振るった。
ガスパロは自分の置かれている状況がすぐには理解できなかった。
何故自分が敵から遥か遠く離れた壁面に叩きつけられているのか、そして何故身体が動かないのか。
「おい、勝負はついた。いつまでも腑抜けてねぇで知っていることを洗いざらい吐け」
へし折れた大鉈の残骸と、ひしゃげた腕から覗く金属で補強された骨、吹き出る血液に裂けた筋繊維。
それらをただ呆然と眺めているガスパロにリュウガは呆れたように声をかける。
ようやく我に返り自分の置かれた状況を理解したガスパロは、一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐに立ち上がりリュウガを睨み付ける。
「おいおい、まさかこの程度が俺の全力だと思ってんのかよ?こうなりゃ仕方ねぇ。俺の最終奥義を見せてやるよ」
ミチミチと異音を音をたてながらみるみるうちにガスパロの傷が再生してゆく。
「面白れぇ、まだやろうってのか(少し加減が過ぎたか?仕方ねえもう二、三発殴って大人しく)」
再び「屠龍」を握る手に力を込めるリュウガ。
ガスパロは再び身を低く、両手を地面につき・・・。
「すいませんっしたああぁぁっ!!」
勢いよく土下座をした。
それはもう、頭が地面にめり込まんばかりの勢いで。
「いやぁ、まさかリューガさんがこんなにお強いなんて。舐めた態度とってスミマセン。今回のところは、どうかこいつで勘弁して下さいませんかねぇ」
そう言って途端に卑屈な態度を取り始めたガスパロは、腰に巻き付けた上着の中からいくつも手榴弾を取り出し、一気にピンを引き抜いた。
立て続けに起こる爆発、四散する金属片が辺り一面に破壊を巻き起こす。
とっさに「屠龍」を盾に、ガスパロの自爆を凌いだリュウガは一瞬自分の目を疑った。
自ら引き起こした爆発をモロにくらったガスパロは、その驚異的な回復力にものをいわせ、爆発をカモフラージュに、更には爆風で吹き飛ばされた勢いを利用し、近くの建物の屋上に逃走していたのだ。
「バーカ!!覚えてやがれクソッタレ!!次はぜってぇぶっ殺してやるからなぁっ!!アッツ、アチィ、チクショウ!消えねえ」
全身につき刺さった爆弾の破片により流血し、あちこち火が燃え移った状態にも関わらず、幼稚な捨て台詞を吐きながらガスパロは屋根伝いに走り去っていった。
「なんなんだ、アイツ・・・。やっぱカイル(アイツ)の知り合いってのはロクなのがいねぇ。ていうかアレ大丈夫なのか?」
基本的に敵対する者には容赦の無いリュウガだが、今回初めて戦った相手の身を真剣に案じるという珍しい経験をしたのであった。
「おーい、リューガーーー」
噂をすれば、気の抜けた声とともに大袈裟に手をぶんぶん振りながらこちらに向かって走ってくるのは、ロクでもない奴代表のカイルである。
「遠くから派手な爆発が見えたから来たわけだけど、どうやらそっちも逃げられちゃったみたいだねぇ。あれ?何呆けてんだよ?」
「ん?あぁ、久しぶりに面白ぇもんを見てな」
「へー、後で詳しく教えてよ。それよりさ、収穫は?」
「お前の昔のお友達が絡んできてるってこと以外、大した情報は得られなかった」
「?!そうか、アイツらが絡んできてるのかりそれじゃあそんなに余裕ぶってられないねぇ。そろそろ本気で頑張りますか」
「お前、何か考えがあんのか?」
「一応ね。それじゃさっそく行きましょうか」
「おいおい、行くってどこへだ?」
「それはもちろん、社会常識の乏しい不出来なリューちゃんにうってつけの場所さ。・・・・ちょ、ごめん、嘘だってば!!」
「ウォーミングアップもすんだことだしな。そろそろ本番を始めようと思ってたところだ。ブッ殺す」
そうしていつものどつき合い(端から見れば殺し合いに匹敵するレベル)を繰り広げながら、いよいよ事件解決へ向け本腰を入れて動き出す二人であった。
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~登場人物紹介~
・ガスパロ(new):「フェンリル」第8小隊副長。カイルを殺すことに固執する薬物中毒の殺人狂。
高い再生能力に加え、骨格が金属補強されており他にも身体改造が施されているとか。
・リュウガ・ナギリ(百鬼 龍牙):元武装集団「蒼龍」のトップ。武器・無手問わない高い戦闘技術と
強靭なフィジカルで異形の大剣「屠龍」を繰る。
・カイル・ブルーフォード:「なんでも屋 BLITZ」を営む。
カイルは、嫌な気配を感じフレイにサクラとシェリルを預け、リュウガと共に裏路地を駆ける。
敵の誘いにあえて乗り、二手に分かれたカイルとリュウガ。
カイルを待ち構えていたのは、最悪と名高い殺し屋だった。
絶え間なくカイルに襲い掛かる白刃と風刃。
反撃に転じるため、カイルはダンテの術式解析を急ぐ。
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カイルがダンテと鎬を削っていた頃、リュウガはもう一人を追って廃棄区画北部の寂れた広場に立っていた。
「いい加減に、出てきたらどうだ。これで目的どおり俺とアイツを引き離せただろ?」
「なんだ、鈍そうな奴だと思ったが意外に鋭いじゃねーか!」
広場に響いた粗暴な大声に、周辺にたむろっていた数人の若者の視線がに向けられる。
そこには内側からの圧力ではじけそうな程、隆々とした筋肉を露わにした大柄な男が立っていた。
その肉食獣や魔獣を彷彿とさせるような体躯は、大柄なリュウガと比べても遥かに大きい。
「そうさ、俺様の目的はテメェとあのいけ好かねぇ金髪野郎を引き離すことだったのよぉ」
「そんなわかり切ったことはどうでもいい。お前、何者だ?」
リュウガの問いかけに、目の前の男は見下すような歪んだ笑みを浮かべ、朗々と名乗りを上げた。
「一度しか言わねぇからよく聞けよ。オレは「フェンリル」第8小隊副長のガスパロっつうんだわ。テメェの相棒が見捨てた組織の一員だといえばわかりやすいか?クソ野郎が」
「ご丁寧にありがとうよ。で?特殊部隊のお偉い様がわざわざ何の用だ?」
「察しの悪ぃヤローだな。俺のボスからテメェを消せって命令が下ったんだよぉ。じゃなかったらこんなクソ汚ぇところにわざわざ来るか!!」
頭をボリボリと搔き、イラつきをむき出しにしながらガスパロは続ける。
「なんでもよぉ、あの方はまだあの金髪ウジムシヤローを必要としているらしくてなぁ。俺としては、あんなクソ野郎、顔見た瞬間にぶち殺しちまいそうだってのに。・・まぁそんなことはどうでもいいわな。とにかくよぉ、アイツをウチに連れ戻すにゃオメェが邪魔なんだわ。分かったら、サクッとぶっ殺させ・・・・。」
「おい!コラ!政府の犬が何デカイ顔して語ってやがんだよ?ここが俺ら「デスチワワ」の縄張りだって知って喧嘩売りにきやがったのか?、あぁ?」
話の内容が聞こえたのか、広場にたむろしていた男の1人が急にガスパロの話しを遮り会話に割り込んできた。
どうやらここは彼らの縄張りらしい。
荒事が日常茶飯事なここ廃棄区画内には、彼らのような集団チームが無数に存在し、自分たちの安全と利権の確保のために縄張りを作りしばしば争っているのである。
「デスチワワ」といえば最近名前を聞くようになった新興勢力の一つだ。
確かマスターが、「ふざけた名前だが新参の中ではそこそこの力量だ。それに一旗あげようって気概がある」とかなんとか言っていたような気がする。
「おい、聞いてんのかよ!!コラッ!?」
先ほどの男は、肩をいからせ身体が触れそうな距離でガスパロを睨み付けながら大声で怒鳴るようにネチネチと因縁をつけている。
その声を聞きつけ、広場には続々と「デスチワワ」の一員だろうと思われる人影がぞくぞくと集まってきた。
「あああああああああああああぁぁぁぁっ!!うるっせえぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
それまでろくに目線も合わさずしばらく無言を貫いていたガスパロだったが、突如咆哮し、背負っていた大型の鉈を抜き放った。
抜き放たれた大鉈は、そのまま男の頭頂部に深々と食い込む。
返り血がガスパロの服を真っ赤に染め、水気を含んだ鈍い音と共に頭の先から真っ二つに断ち割られた肉塊が広場の汚れた地面に転がった。
「クソ虫がぁああ!ぷんぷんぷんぷん人様の会話に割り込んでくんじゃねぇぞぉおおお!!いいかぁ?これ以上俺様をイライラさせんじゃねぇ。テメェらみたいな小物に割く時間は一秒たりとも存在してねぇんだわ」
「失せろぉ今すぐに。十秒だけ待ってやらぁ」
べっとりと顔についた返り血を不愉快そうに腕で拭いながら、ガスパロはおもむろにカウントを始める。
「じゅーう、きゅーう、はーち・・・」
あまりにも突然の出来事にガスパロの周りを取り囲んでいた「デスチワワ」の面々は、しばらく唖然としていたが、ふと我に返り、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「・・さん、にぃ、いち、はい、ゼロ。もう遅ぇよ」
手にした大鉈を見せつけるように大きく両腕を広げ、獲物を駆り立てる大型の獣さながら逃げ惑う「デスチワワ」達へ襲い掛かるガスパロ。
その体躯に似合わず、俊敏な動きで次々に彼らを追い詰め、斬り捨ててゆく。
「ギャハハハハハハハ、遅ぇえ!!のろのろしてると全員ブッ殺しちまうぞぉおお!もっと気合入れて逃げろやぁああ!」
「たすけ、た・・たた、たすたすけてたすけて・・・」
何人か斬り捨て、調子が出てきたのか血に酔い更に荒れ狂うガスパロの目に、その狂気に完全にのまれ腰を抜かし震えて動けなくなっている1人の若い構成員の姿が映った。
その様子に腹を立てたガスパロは、裂けんばかりに口元をゆがめ歯をむき出しにしながら怯える少年に詰め寄った。
「どうしたぁ、ガキィ。誰が命乞いしろつったよ。オマエ、俺が逃げろっていったらさっさと逃げるんだよぉお。獲物が走らなきゃ狩りがおもしろくねぇえだろうがぁああ!!!」
「あっぁっごごごめ、ごめんなぁああささささ」
ガスパロを前に更に激しく身体が震え、まともに言葉も発せない少年。
その様子が更にガスパロの神経を逆なでした様だ。
「何言ってんのかわかんねぇよおおあおお、ムカつくぜ、てめぇは少しずつ刻んでやらぁああ!」
しかし、振るわれた大鉈は少年の肉を引き裂くことはなかった。
「おいデカブツ。お前、俺を殺すんだろうが。いつまでそんなやつらと遊んでやがる?」
突如、ガスパロと男の間を割って上空から落下してきた塊。
地面に深々と突き立ったそれは、巨大な剣のような形をしているが幾重にも巻き付けられた太い黒革のベルトによりその刀身は見えない。
「あぁ!?なんだこりゃ。邪魔すんじゃねぇよ!!」
楽しみに水を刺され、血走った眼で声の主を睨みつけるガスパロ。
リュウガの手には、今にも燃え尽きようとしている一枚の札。
どうもガスパロの凶刃を防いだ黒い塊を呼び出すために使用された媒介の様だ。
「こりゃ、テメェの仕業か・・・・わりぃわりぃ、ムカついてすっかり忘れてたわ」
そういうとガスパロはポケットから白い錠剤の入った小瓶を取り出しその中身を全て口に放り込むとバリボリと音を立てて噛み砕き始めた。
「はあぁ、染みるぜぇ。最近はこうでもしねぇと調子があがらねぇんだよ」
「殺人狂のうえに薬中か?相変わらずお前らの組織は腐りきってやがるな」
薬の効果で更に興奮している様子のガスパロと対照的に、冷たく言い放つリュウガ。
「おいおいおいおい、いいのかよ!?そりゃ間接的にテメェの相棒もけなしてるってことになるんだぜ?」
「あぁ、あいつもクソ野郎だ。毎日下らねえことで俺をからかいやがるし、ロクな目に合わねえ。いつかブッ殺してやろうと思ってる」
「へぇ、なんだよ、お前もあのウジ虫野郎をぶっ殺してぇってか?残念だがよぉ、俺がお前をぶっ殺してあのヤロウも殺す。命令なんでなぁ!あぁ?命令が違うって?いいんだよ細けぇこたぁ。テメーは命令だから殺す、カイルは俺がムカツクから殺す。面倒くせぇからもうそれでいいじゃねぇか」
「もう一度言う、俺はカイル(アイツ)が嫌いだ。あんなにムカつく奴は他に見たことがねぇ。だからこそ、他の奴がアイツを殺すことは許さねぇ」
リュウガの放つ言葉と鋭い殺気に一瞬驚きの表情を見せたたガスパロだが、すぐに狂った笑みを取り戻す。
「そうこなくちゃ面白くねぇ。それじゃあそろそろおっぱじめようぜぇ!!」
ー突進ー
そう聞くと何の捻りもない愚かな攻撃方法に聞こえるだろう。
しかし、質量と速度に物を言わせたその威力は単純だが驚異的である。
それが両手に大型の鉈を握り、2m近い巨体で一直線に突っ込んでくる男のものなら尚のこと。
「このままミンチにしてやるぜぇ!!得物を拾うまで待ってくれなんて言わねぇだろぉおおお!?」
当のリュウガは、いつも羽織っている墨染の布のような上着を脱ぎ捨てた後、特に構えもせず自然体でその場に佇み静かに目を閉じている。
「我、制約に従い力を振るう者」
その言葉に反応し、先ほどガスパロの凶刃から若いデスチワの命を救った地面に突き刺さった金属塊に巻き付いているベルトの一部がほどけ、蛇の様に地を這いリュウガの元へと走る。
静かだが力強い独特の呼吸。
一呼吸毎に気血を全身に巡らせ、毛髪の一本一本まで肉体を己のコントロール下においてゆく。
「戒めの対価に力を寄越せ」
地を這うベルトは、リュウガの脚を這い上がり、一切の無駄なく鋼のように鍛え上げられた全身を鎧ってゆく。
それは身を守ると同時に自由を封じる枷のようにも見える。
「来い、「屠龍」」
引き伸ばされたゴムが収縮し勢いよく元に戻るかのように、リュウガの右腕と黒革で繋がれた「屠龍」と呼ばれた大剣は風を切り裂く咆哮と共に、主の手中に収まった。
ゴォォオオオオオオオンンッ!
重い金属製の扉を槌で力いっぱい殴りつけたかのような音が広場に鳴り響く。
ガスパロの全体重と加速を乗せ、袈裟懸けに振り下ろした大鉈を、独特の蒼味を帯びた剣の形をした金属塊が真正面から受け止めたのだ。
リュウガは、「屠龍」を剣として振るうのではなく、柄から刀身根本に巻きついたベルトを掴み、まるで大盾のように操っている。
「うぉおおおおおおらぁあああああああ!」
ズンッ、とリュウガの足が地面に食い込む。
「屠龍」で受けた衝撃を全身のバネを使い地面に逃がすことで吹き飛ばしを回避。
踏み込む力に反発力を上乗せし、更に全身のバネを駆使しガスパロの巨体を弾き飛ばす!
「うおっ、マジかっ!!」
鉛の塊のようなガスパロの体が宙に浮き、大きく後方へと吹き飛ばされた。
「ハッハー!!すげぇ力だな。まさかこの俺様を吹き飛ばすたぁ!」
予想していなかった展開に、ガスパロは血走った目をまるで新しいオモチャを見つけた子供の様に見開いている。
「だがよぉ、お前やっぱ馬鹿だろ?そんな無意味にデカいもん、扱うのに無駄に力を使う上にぶん回す軌道も限られんだろがぁ」
大鉈で「屠龍」を指し、心底バカにした様子でガスパロは言う。
「ふん、お前に言われるまでもない。俺だって好きでこんなもん使ってるわけじゃねえさ」
冷静だがどこか苦々しげなリュウガ口調から何かを感じ取ったガスパロが更に挑発を仕掛ける。
「あぁー分かったぜ。さてはテメーもあの金髪蛆虫に何かされた口か!可哀想にな、同情するぜぇ!!」
地面に這いつくばる様に低い構えから、急激な加速。
やる気を出している時のカイル程ではないが、ガスパロの動きは素早い。
更には、その体躯故に繰り出す一撃一撃が重く、打ち合う相手は相当の力を出すことを余儀なくされる。
「どうしたよぉクソ野郎。あまりの実力差に焦ったかぁ?」
それまで表情を変えずに淡々と戦っていたリュウガであったが、ガスパロの言葉にニヤリと口の端を歪めてみせた。
「いや、この程度ならいつも俺の周りをうろちょろしてる鬱陶しい奴の方が厄介だ」
「んだとぉおおお!、俺があいつよりも劣るってんのか?ふっざけんじゃねぇ!俺は昔から納得いかなかったんだ。あいつはさほど実力もないくせになんでウチの頭はってやがんのかってな」
一言一言、言い放つ度にガスパロの顔が苦々しく歪んでいく。
「そうさ、あいつはあの人の庇護があったから第1小隊の頭につけたんだ。それなのに、それなのによぉ、俺らを見捨てやがって・・・・」
怒りによってガスパロの肉体が更に膨れ上がり、抑えられなくなった感情を爆発させガスパロは再び咆哮した。
「ちくしょおおおぉぉぉっ!!あの人を裏切ったあいつを俺は絶対ぇに許さねぇぞおおぉぉっ!!」
さらに苛烈さを増す猛攻。
金属のぶつかり合う音が絶えず広場に響き渡る。
しかし、相変わらずこれといった反撃をする様子もなくガスパロの攻撃を「屠龍」で受け続けているリュウガ。
「クソがぁ、いつまでそうやってんだよぉ?イラつくぜぇ、いい加減たたっ斬らせろやぁ!!!」
更に強い衝撃が「屠龍」にかかり、ガスパロの姿がリュウガの視界から消える。
金属壁の様な「屠龍」を踏み台に利用した跳躍。
空中で身を捻り、リュウガの斜め後方へと着地する。
がら空きだ。
大剣の重量故だろう、取り回しが追いついていない。
「馬鹿がぁあ、しぃねぇやぁあああああああああ!」
渾身の力で大鉈を振るうガスパロ。
だが、大鉈が敵の肉を食らう感触を感じ取る前に、顔面に強烈な衝撃が走った。
リュウガは「屠龍」を手放し、振り下ろされた大鉈の軌道を拳を刃の腹に沿わす動きで反らせ、そのままガスパロの顔面に強烈なカウンターを叩き込んでいたのだ。
今度は顎に衝撃。
視界が、脳が揺れる。
「ぐっう、あっ・・・・・。このぉおおお!」
常人なら顎どころか脛椎が損傷しているほどの威力の殴打を急所に食らわされ、一瞬怯んだガスパロだったがすぐさま大鉈をり回し反撃を繰り出した。
「タフな野郎だ」
リュウガは地面に突き立て手放した「屠龍」の後ろに回り込み再び防御を固める。
「クソォぉおお。テんメェどうして動かねぇ?!なんでそんな状態で俺の攻撃を受けきれんだよぉおお?!」
血管が破裂し血を吹き出しそうな程、怒り狂っているガスパロと対照的にリュウガは変わらず冷静に答えた。
「その獣みてぇな動きは厄介だが、殺気を垂れ流し過ぎだ。本命の予兆が読みやすいから防ぐのに大して苦労はしねぇ。それに放っておいても馬鹿みたいに突っ込んでくるんだから、わざわざお前のペースにあわせて動き回る必要もない。どうした?あまりの実力差に焦ったか?」
「ざけんなよぉ。おとぎ話じゃあるまいし、そんな机上の理論が実戦で通用するかぁああ!」
「信じようが信じまいがお前の勝手だ、ついでにもう一つ教えといてやるよ」
リュウガは静かに、しかし力強く続ける。
「コイツ(屠龍)はな、相手の力量、危険度、俺自身の状態に合わせて段階的に制限が課された厄介な代物でな、お前のオモチャと違って気軽に振り回せる代物じゃねえんだ。一撃だ、俺がコイツを振るう時、一撃でお前は沈む。あとは見定めるだけだ、その瞬間を」
「あぁあああくっそイラつくぜぇええ!テメー!!どこまでも俺様をムカつかせりゃ気がすむんだぁあ?あぁあ??ナメんやがってぇえ、このハッタリ野郎が。ドタマカチ割られてバラバラになった後、あの世で後悔しやがれ!!」
ふたたび取り出した錠剤を今度は瓶毎バリバリと噛み砕き、怒りに任せ雄叫びをあげながら大鉈同士を何度も打ち鳴らし、更に勢いを増し突っ込んでくるガスパロ。
「懲りねえヤツだな」
あくまでも猛り狂うガスパロとは対照的。
静かな、しかし力強い呼吸。
膝を緩め深く腰を落とし、「屠龍」ゆっくりと脇に構える。
「死にさらせぇえええええええ!!!!」
突っ込んできたガスパロが間合いに踏み込んだその時、リュウガは初めて「屠龍」を振るった。
ガスパロは自分の置かれている状況がすぐには理解できなかった。
何故自分が敵から遥か遠く離れた壁面に叩きつけられているのか、そして何故身体が動かないのか。
「おい、勝負はついた。いつまでも腑抜けてねぇで知っていることを洗いざらい吐け」
へし折れた大鉈の残骸と、ひしゃげた腕から覗く金属で補強された骨、吹き出る血液に裂けた筋繊維。
それらをただ呆然と眺めているガスパロにリュウガは呆れたように声をかける。
ようやく我に返り自分の置かれた状況を理解したガスパロは、一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐに立ち上がりリュウガを睨み付ける。
「おいおい、まさかこの程度が俺の全力だと思ってんのかよ?こうなりゃ仕方ねぇ。俺の最終奥義を見せてやるよ」
ミチミチと異音を音をたてながらみるみるうちにガスパロの傷が再生してゆく。
「面白れぇ、まだやろうってのか(少し加減が過ぎたか?仕方ねえもう二、三発殴って大人しく)」
再び「屠龍」を握る手に力を込めるリュウガ。
ガスパロは再び身を低く、両手を地面につき・・・。
「すいませんっしたああぁぁっ!!」
勢いよく土下座をした。
それはもう、頭が地面にめり込まんばかりの勢いで。
「いやぁ、まさかリューガさんがこんなにお強いなんて。舐めた態度とってスミマセン。今回のところは、どうかこいつで勘弁して下さいませんかねぇ」
そう言って途端に卑屈な態度を取り始めたガスパロは、腰に巻き付けた上着の中からいくつも手榴弾を取り出し、一気にピンを引き抜いた。
立て続けに起こる爆発、四散する金属片が辺り一面に破壊を巻き起こす。
とっさに「屠龍」を盾に、ガスパロの自爆を凌いだリュウガは一瞬自分の目を疑った。
自ら引き起こした爆発をモロにくらったガスパロは、その驚異的な回復力にものをいわせ、爆発をカモフラージュに、更には爆風で吹き飛ばされた勢いを利用し、近くの建物の屋上に逃走していたのだ。
「バーカ!!覚えてやがれクソッタレ!!次はぜってぇぶっ殺してやるからなぁっ!!アッツ、アチィ、チクショウ!消えねえ」
全身につき刺さった爆弾の破片により流血し、あちこち火が燃え移った状態にも関わらず、幼稚な捨て台詞を吐きながらガスパロは屋根伝いに走り去っていった。
「なんなんだ、アイツ・・・。やっぱカイル(アイツ)の知り合いってのはロクなのがいねぇ。ていうかアレ大丈夫なのか?」
基本的に敵対する者には容赦の無いリュウガだが、今回初めて戦った相手の身を真剣に案じるという珍しい経験をしたのであった。
「おーい、リューガーーー」
噂をすれば、気の抜けた声とともに大袈裟に手をぶんぶん振りながらこちらに向かって走ってくるのは、ロクでもない奴代表のカイルである。
「遠くから派手な爆発が見えたから来たわけだけど、どうやらそっちも逃げられちゃったみたいだねぇ。あれ?何呆けてんだよ?」
「ん?あぁ、久しぶりに面白ぇもんを見てな」
「へー、後で詳しく教えてよ。それよりさ、収穫は?」
「お前の昔のお友達が絡んできてるってこと以外、大した情報は得られなかった」
「?!そうか、アイツらが絡んできてるのかりそれじゃあそんなに余裕ぶってられないねぇ。そろそろ本気で頑張りますか」
「お前、何か考えがあんのか?」
「一応ね。それじゃさっそく行きましょうか」
「おいおい、行くってどこへだ?」
「それはもちろん、社会常識の乏しい不出来なリューちゃんにうってつけの場所さ。・・・・ちょ、ごめん、嘘だってば!!」
「ウォーミングアップもすんだことだしな。そろそろ本番を始めようと思ってたところだ。ブッ殺す」
そうしていつものどつき合い(端から見れば殺し合いに匹敵するレベル)を繰り広げながら、いよいよ事件解決へ向け本腰を入れて動き出す二人であった。
================================================================
~登場人物紹介~
・ガスパロ(new):「フェンリル」第8小隊副長。カイルを殺すことに固執する薬物中毒の殺人狂。
高い再生能力に加え、骨格が金属補強されており他にも身体改造が施されているとか。
・リュウガ・ナギリ(百鬼 龍牙):元武装集団「蒼龍」のトップ。武器・無手問わない高い戦闘技術と
強靭なフィジカルで異形の大剣「屠龍」を繰る。
・カイル・ブルーフォード:「なんでも屋 BLITZ」を営む。
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