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第5話後半 かえる その3

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どこかからいつも口ずさんでいる懐かしい恋の歌を、今は鳥たちが歌っているのが聞こえてきた。
心に仕舞っていた多くの私が鳥かごから飛び立ち、風を運び、流れを呼んだのかもしれない。
『カメリアの泉にスイレンが浮かび、泉の大きな水瓶からあふれる流れで、黄金のドアが開いた。
開かれたドアの向こうには、緑の草原が果てしなく広がっていた。青々と伸びる草が根付いた大地に、豊かで温かい流れは滔々と、つきることない潤いを与え続ける。
それはタロットの節制のイメージであり、The Starのイメージでもある。比呂乃は、そうそう、そんな風に生きたいんだったと思った。
(審判のラッパが聞こえそうな満月の夜だった。)』(木蓮第3部第6話「満月夜 カメリアの泉から」より)

貴和子が書いたかごの鳥は、カノコソード(鹿の子隊)が風とともに鸞を呼び出す物語だった。貴和子はそんな風に描いた。
比呂乃は同じものを、カメリアの泉の翡翠色のロマンティックなイメージとして持っていたのだ。
肉体から解き放たれた時に、自分の中の一番遠い深いところに見える本当の自分、『心』を。

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