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第3話 オレンジドラゴンに乗って その2

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夕方近くになって、朋子がやってきた。
朋子は、この春までバリバリのキャリアウーマンだった。
いつもエネルギーを持て余していそうな体育会系の女子である。といっても、年齢は比呂乃とさして変わらない。
厳しい環境でも耐えられる、耐えてしまうタイプ。

「比呂乃は個性的でいいね。」
一杯目のハートランドを飲みながら、朋子が言った。
「比呂乃の周りはデザイナーや、作家さんがいたり、料理がめちゃくちゃ上手い人とか、話がめちゃくちゃ面白いとか、個性的な人ばっかり。そんなのが私にあったらな。」と。
そんな話をする朋子を比呂乃は信じられない思いで見ていた。
(朋ちゃんこそ私のあこがれの的なのに。)
朋子はいわゆる帰国子女で、その経験や学力やバイタリティを活かして、広告業界で働いてきていた。
「アタシは、自己肯定感が低いのよ。」
「そうかもね。言ったら私もだけど。」比呂乃は続けた。
「私から見たら、朋ちゃんは、自信満々のようだわ。」
「体育会系だから、そう見えるのかなー。」
「そうね。」
「確かにスポーツで養われたものも多いけどね。」
「朋ちゃんはとにかくすごいよ。私もスポーツは好きだけどね。」
「アタシたち、スポ根アニメ全盛期に育ったからね」
確かに、そうだった。
子供の頃、テレビアニメやテレビドラマは、再放送も含め、スポーツを題材にしたものが数多く流れていた。
「アタシもバレーボールやりだしたのはアニメきっかけだったしね。」
朋子の言葉に、比呂乃は小学校時代を思い出しながら
「女子のほとんどはバレーボールが好きだったね!男子にはサッカーや剣道のが流行ってた。あと学園もの。」
「そうそう!でもアタシ、あのサッカーの学園もの、あれ大好きだったのよ。
あれよ、あれ、あれ!」
朋子が人差し指を立てて思い出すのに苦労しているから、
「飛び出せ」と比呂乃は助け舟を出し「青春‼」と二人で顔を見合わせて言った。
「青い三角定規が歌うあの主題歌がさ。」
朋子がその「太陽がくれた季節」を、コントのようにその場で腕を振りながら、大声で歌い始めて笑わせてくる。
「私があこがれるのは、朋ちゃんの、そういうところだよ。」と内心思いながらも、比呂乃は言った。
「熱いなー、朋ちゃん。」
「そう熱い!さあ、一緒に、あのオレンジ色の夕陽まで走るんだ!」
なんて見えない夕陽を指さして、一人コントを続けている。
あっ!その時、比呂乃は、自分が茜空が好きな理由が急にストンとわかった。そう、夕陽を見ると、きっと自分の熱い思いを思い出すからだ。自然の書いた絵の圧倒的な美しさと共に。
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