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第1話 こぶしの花におかえりなさい その3

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そして4月「こぶしの花」はリニューアルオープンした。

初日を迎えた店の中で、「お客様はきっといらして下さるわよ。さあ、だれが来てくれるだろう。」比呂乃はドキドキしながら待っていた。

「比呂ちゃん!おめでとう!」
やってきてくれたのは、麻(あさ)ちゃんだ。
麻ちゃんこと麻子さんは近くに住むママさんである。この町にご縁を頂いてからの知り合いである。
「麻ちゃん、いらっしゃい!」
比呂乃は嬉しくなって、カウンターを飛び出して、麻ちゃんを強くハグした。
「つ、強いよ、比呂ちゃん。」
麻ちゃんは熱烈歓迎に半分照れながら言った。
「ごっめーん!」やり過ぎを恥じて、比呂乃も改まった調子で
「いらっしゃいませ!第一号のお客様よ。本当に嬉しいわ!」
麻ちゃんを店内に迎え入れ席をすすめながら、比呂乃はネックレスについた胸元のターコイズを握り、神様にありがとうを伝えた。
麻ちゃんは、幅広のカウンター席にゆったり座り、メニューを覗き込んで何を飲もうか迷っている。
カウンターに置かれたキャンドルの小さな炎が、頬杖をついてメニューを眺める麻ちゃんの瞳に、穏やかな灯りを灯し、可憐に美しく輝いている。
麻ちゃんは、カルーアミルクとファジーネーブルで迷った末、ファジーネーブルを注文した。
ファジーネーブルは、桃のリキュールとオレンジジュースをステアしたものであるが、比呂乃は大き目のグラスに大きな丸いアイスを入れて、マドラーで混ぜて麻ちゃんに差し出した。
「家族には申し訳ないけど、家に居たら、煮詰まることが度々あるわね。」
「そうなのね。私はそういうところ苦労知らずな子供なのかも。良かったら、ここでは娘気分に戻って楽しんでいってね。」
「うん、そうする。ありがとね。」
ファジーネーブルの、甘みと酸味の曖昧な味わい。子供と大人の曖昧な時間を表しているようだ。
大き目のグラスにきっちり納まった大きな丸い氷を、ゆっくり指先で回し遊ぶ麻ちゃんを眺めながら、比呂乃は「そう、今はそこにたゆたって、麻ちゃん本来の心の豊かさや、ふれあいの温かさを想い出しながら、存分に味わっていってね。」と願うような気持ちでいた。
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