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第3部 木蓮 チャクラとレインボーカラー

第3部 第6話 満月🌕の夜、カメリアの泉から(1/3)

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 太陽が、その在りかを光の直線で表そうとしているのか、空に天使のはしごがかかり、黄金の光の粒が、地上に向けて降り注がれている。

 神様だけが描けるこの壮大な直線は、およそ自然界で描かれるもののうち、最も直線的である。冬の陽光はまっすぐだが、優しく暖かい。


 
 比呂乃は、介護で病院に付き添い、そのまま店に顔を出した。お通しを作る時間もなかったから、今日は簡単にそら豆にした。旬でもないが、冷凍のもので、戻せばよくて、塩味も程よくついている。こういうときにひどく便利だ。
 豆類は気分を落ち着かせる効果もあり、心身のバランス、リラックスにもいいという。



 今日「木蓮」は、訳あって4名様の貸し切りにしている。小さな店なので、それでなかなかの賑わいになる。

 いつものリコーダーサークルの未来ちゃん、セント君、クーさん(カフェ木蓮第4話「レインボーカラー」から)と、最近こちらに住まいを移したケンちゃんである。

 セント君は、ブラッディ・マリーを飲んでいる。ウォッカとトマトジュースをビルドし、塩、タバスコを混ぜ、セロリをグラスに差してある。

 未来ちゃんとクーさんは、生姜リキュールとウォッカに、温めたジンジャエールを注いだホットモスコミュールを飲んでいる。

 先に来ていたケンちゃんには、緑茶を淹れて、コペンハーゲンのカップに満たした。
 比呂乃は、若いころから、あまりお茶に親しみがなかった。

 ところが、ある時、友人から借りた岡倉天心の「茶の本」に、お茶がツバキ科であることに因み、「カメリアの女王に身を捧げ、その祭壇から流れる暖かい共感を愉しもう」といったような詩的な表現があって、その崇高なイメージが離れなくなってしまった。

 それ以来、日本人として、この翡翠色のロマンチックに身を屈することができるのは、特別な恩寵とさえ思うようになった。



 酒のおともとして、そら豆のほか、いつものようにピスタチオと、Lotusのビスケットを添えた。Lotusはスイレンのことだが、木蓮とは蓮つながりだし、これはコーヒーに合うので、カフェタイムでも重宝している。


 さて、今日の木蓮が貸し切りになっている理由は、実は、語りによる癒しという実験をすることになっているからである。
 こういうことでも先駆的な、アパレル勤務の未来ちゃんが発案者だ。比呂乃は、グループセラピーに慣れているケンちゃんを呼んでほしいと未来ちゃん達に頼まれた。

 比呂乃が話すと、ケンちゃんはのんびりと「ふーん。いいよ。」と二つ返事であった。

 そこでこの4人が集まったわけだ。



 さて、テーマを設けず話すのも何だ、話しにくいということで、ここはまっすぐに「愛」を自分語りしようということになった。

 ケンちゃんが、とつとつと話し始めた。
「飲んでいたころから、本当に迷惑ばかりかけてきたし、問題しか起こさなかった。
 良心の呵責っていうか罪悪感がひどいんだ。それでいて被害者意識があって社会を恨むなんてことが正直あった。

 店で飲んで、帰る時だけはありがとうって言って貰えるんだけど、俺にじゃないよ。帰ってくれて良かったというのと、支払いに対して有難うなんだってわかるんだよ。

 本当に死んでしまう手前のところまで行って、やっと死にたくないと思えたんだよ。 

 それで、リハビリにつながれてさ。

 その場は、俺のこと誰も拒否しないの。何もかも失った俺の話をうんうんと聞いてくれてさ。ほっとしたな。温かかったな。

 今、お天道様の下で、仲間と農作業ができたり、こんな風にいろんな人と関われるまでになって。有難い。有難いという気持ちを忘れちゃいけないよな。」
 

 クーさん。
「ゲイっていうのも、ひと昔前はそれ程オープンでもなかったから、思春期の頃は思い悩む日々がかなりあったわけです。
 周りに誰一人相談できる人がいないわけだし、本当は一番分かってほしい両親には絶対言えないし。自分は、カムフラージュし自己否定していました。
 それが、大人になって、同じような人たちとやっと出会えた。あの時の気持ちってね。言葉では言い表せない、素晴らしい解放感でしたよ。」


 セント君。
「僕は、つい最近知り始めた世界だけど、自分を取り戻した感じがしたよ。ありのままの自分でいたら、クーさんと出会った。そして、ありのままのクーさんを大切にしたいと思ってる。
 本当の自分がわかって、仕事も変わる気になった。やりたい気持ちがどんどん大きくなった。」


 三人が思い思いに話し終えた。
 自然に、話し合う雰囲気になった。

 ケンちゃん
「酒をやめたいという願いだけで、他の仲間に受け入れられた。自分らにとっては、失ってしまった愛を感じたんだ。
もちろん、これまでもいっぱい愛されていたってことは後でわかるんだけど。」

 クーさん
「拒否されない安心感ですかね。
ゲイバーに出逢ったときの解放感に似ていますね。同じことで辛い思いをした仲間に、やっと出逢えて。」

 セントちゃん
「お仲間にね。」

 この時まで、未来ちゃんは、ファシリテーター役を務め、司会進行以外は黙って聞いていたが口を開いた。

「人類もそんな風に、ひとつになって愛し合えればいいね。
宇宙人から見たら、みんな一緒でしょ(笑)。
だって、私たちから見たら、それぞれ違う筈のそら豆さんは、大差なく見えるものね。」
 突飛な表現にみんなが笑った。

 「ひとつ」という言葉から、比呂乃は、夏にあずさと話したことを連想して言った。

「ホワイトレインボーっていうのがあってね。実際に白い虹というのがあるの。  
 それを、タロットというかオラクルカードでは、一つの願いって意味を持たせているの。だから私ね、白い虹を見たら、愛と平和と幸福って願おうと思ってる。」

ケンちゃん
「比呂ちゃん、あのさ、それ一つじゃないよ。」

比呂乃
「うっそ!」

 古いけど、ピンクレディーのUFOの振りを真似ておどけたら、皆が笑ってくれた。比呂乃にとっては、それが一番うれしいことだ。



 満月の夜だ。冬空は澄んで、夜空は美しい。
 地球で生きる私たちは、この満月でまたひとつ節目を超え、そして大きな節目を迎えようとしてる。
 新しい年まであとひと月なのに、新しい時代はもうそこなのか。

 つづく
 

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