249 / 270
ラスト・コンテクスト Part1
大文字の夜に(22)
しおりを挟む
揉みくちゃになっているララとオクルスと違い、ツヅキは気づいた。
“鍵”の向こう、地面が一閃の薄く白い光によって区切られている。
暗黒山脈ソレ自体が此度の争奪戦に呼応して示す、“中腹”の境界線だとツヅキは悟った。
何としても“鍵”を手にしなければならない。ココで手にした者がそのまま、“中腹”を越境するだろう。
ツヅキは決意したが、背後に蒸気の熱が迫る。
ララとオクルスはお互いのためにアズールを停止していたが、その熱と推進エネルギーはまだ充分だった。
その慣性が、三人を包み込む。
ツヅキは衝撃を感じた。
伸ばした手と“鍵”が、境界線の直前で蒸気に覆い隠された。
◇◇◇
カップは“重力の壁”を解除した。
「アレ? いいの?」
カオルが問いかける。
「え、ええ。も、もう充分にじ、時間は稼がせていただきました。す、すみません……」
「いや、別に謝ってもらうコトはないかな。そういう闘いだったしね。お疲れ様!」
カオルの竹を割ったような性格に、カップは面食らった。
遠藤は立ち上がり、服についた土を払う。
「後は、デル・ゾーネかパクスかU.J.Iか……はたまたヴェルメロスかだね。“鍵”を手にするのが」
「ヴェルメロス、ですか?」
龍之介が問いかけた。
彼の記憶では、ヴェルメロスの一行は遥か後方にいるハズだった。
「ああ、龍之介殿。あ~、さてはもう勝敗が決したと思って、警戒を緩めてたな~」
「も、申し訳ありません……」
「すみません、遠藤殿。私も……」
童仙も手を挙げる。
「まったく、目の前に集中しすぎるのは勝負好き故のサガだね。ヴェルメロスの……ララさんとオクルス君だったかな。二人が猛スピードで飛んで行くのが見えたよ」
「「マジ!?」」
「うわっ! ビックリした!」
カオルの後ろの薮から声と共に、人影が飛びだした。
レインスとアルマージュだ。
アルマージュはレインスに肩を貸している。
二人は戦闘態勢に入るでもなく、普通に皆に歩み寄った。
「アイツら、まだ良い感じで闘(や)ってんのか!?」
「というか、何この感じ!? もう休戦?」
アルマージュとレインスは立て続けに皆に疑問をぶつける。
カオルが二人を促した。
「まあまあ、お二人さんももう一旦座って休みなよ。勝負はしゅーりょー。少なくとも私たちはね」
「どういうこった?」
続けて、童仙が話す。
「もう私たち以外は、遥か先で“鍵”の王手争いをしているトコロですよ。私たちはココで、実に良い勝負をしましてね。結果、“鍵”どころではなくなってしまいました」
ハハハ、と童仙は笑った。
カップが恥ずかしそうに帽子を被り直す。
「へえ、あの子がねえ」
レインスはカップを見て、呟いた。
カオルが皆に言う。
「まあ、ちょっと休んで、結果を見に行きましょう。ずっとじっとしてても仕方ないしね」
「手をお貸ししますよ」
「おっ、ありがとー。アルマージュのヤツ、労りもクソもなくてさあ。貴方の名前は?」
「龍之介です」
「よろしくー」
レインスが龍之介に手を差しだす。
二人が握手をした。
「おっけ、俺たちもシェイクハンドだ。アルマージュだ」
「遠藤二十。よろしくね」
カップと童仙、カオルはその光景を見つめ、そしてお互いを見合った。
「いやー、一足早く終わってこうなるなら、良かったね」
「そ、そうですね」
「勝負終わって禍根無し。幕の引き始めとしては、申し分ないですね」
“鍵”の向こう、地面が一閃の薄く白い光によって区切られている。
暗黒山脈ソレ自体が此度の争奪戦に呼応して示す、“中腹”の境界線だとツヅキは悟った。
何としても“鍵”を手にしなければならない。ココで手にした者がそのまま、“中腹”を越境するだろう。
ツヅキは決意したが、背後に蒸気の熱が迫る。
ララとオクルスはお互いのためにアズールを停止していたが、その熱と推進エネルギーはまだ充分だった。
その慣性が、三人を包み込む。
ツヅキは衝撃を感じた。
伸ばした手と“鍵”が、境界線の直前で蒸気に覆い隠された。
◇◇◇
カップは“重力の壁”を解除した。
「アレ? いいの?」
カオルが問いかける。
「え、ええ。も、もう充分にじ、時間は稼がせていただきました。す、すみません……」
「いや、別に謝ってもらうコトはないかな。そういう闘いだったしね。お疲れ様!」
カオルの竹を割ったような性格に、カップは面食らった。
遠藤は立ち上がり、服についた土を払う。
「後は、デル・ゾーネかパクスかU.J.Iか……はたまたヴェルメロスかだね。“鍵”を手にするのが」
「ヴェルメロス、ですか?」
龍之介が問いかけた。
彼の記憶では、ヴェルメロスの一行は遥か後方にいるハズだった。
「ああ、龍之介殿。あ~、さてはもう勝敗が決したと思って、警戒を緩めてたな~」
「も、申し訳ありません……」
「すみません、遠藤殿。私も……」
童仙も手を挙げる。
「まったく、目の前に集中しすぎるのは勝負好き故のサガだね。ヴェルメロスの……ララさんとオクルス君だったかな。二人が猛スピードで飛んで行くのが見えたよ」
「「マジ!?」」
「うわっ! ビックリした!」
カオルの後ろの薮から声と共に、人影が飛びだした。
レインスとアルマージュだ。
アルマージュはレインスに肩を貸している。
二人は戦闘態勢に入るでもなく、普通に皆に歩み寄った。
「アイツら、まだ良い感じで闘(や)ってんのか!?」
「というか、何この感じ!? もう休戦?」
アルマージュとレインスは立て続けに皆に疑問をぶつける。
カオルが二人を促した。
「まあまあ、お二人さんももう一旦座って休みなよ。勝負はしゅーりょー。少なくとも私たちはね」
「どういうこった?」
続けて、童仙が話す。
「もう私たち以外は、遥か先で“鍵”の王手争いをしているトコロですよ。私たちはココで、実に良い勝負をしましてね。結果、“鍵”どころではなくなってしまいました」
ハハハ、と童仙は笑った。
カップが恥ずかしそうに帽子を被り直す。
「へえ、あの子がねえ」
レインスはカップを見て、呟いた。
カオルが皆に言う。
「まあ、ちょっと休んで、結果を見に行きましょう。ずっとじっとしてても仕方ないしね」
「手をお貸ししますよ」
「おっ、ありがとー。アルマージュのヤツ、労りもクソもなくてさあ。貴方の名前は?」
「龍之介です」
「よろしくー」
レインスが龍之介に手を差しだす。
二人が握手をした。
「おっけ、俺たちもシェイクハンドだ。アルマージュだ」
「遠藤二十。よろしくね」
カップと童仙、カオルはその光景を見つめ、そしてお互いを見合った。
「いやー、一足早く終わってこうなるなら、良かったね」
「そ、そうですね」
「勝負終わって禍根無し。幕の引き始めとしては、申し分ないですね」
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!
天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。
焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。
一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。
コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。
メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。
男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。
トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。
弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。
※変な話です。(笑)
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
伯爵令嬢に婚約破棄されたので、人間やめました
えながゆうき
ファンタジー
うー、ダイエット、ダイエットー!
子爵家の庭を必死に走っている俺は、丸々太った、豚のような子爵令息のテオドール十五歳。つい先日、婚約者の伯爵令嬢にフラれたばっかりの、胸に大きな傷を負った漆黒の堕天使さ。髪はブロンド、瞳はブルーだけど。
貴族としてあるまじき醜態はすぐに社交界に広がり、お茶会に参加しても、いつも俺についてのヒソヒソ話をされて後ろからバッサリだ。どっちも、どっちも!
そんなわけで、俺は少しでも痩せるために庭を毎日走っている。でも、全然痩せないんだよね、何でだろう?
そんなことを考えながら走っていると、庭の片隅に見慣れない黒い猫が。
うは、可愛らしい黒猫。
俺がそう思って見つめていると、黒い猫は俺の方へと近づいてきた!
「人間をやめないかい?」
「いいですとも! 俺は人間をやめるぞー!!」
と、その場の空気に飲まれて返事をしたのは良いけれど、もしかして、本気なの!? あ、まずい。あの目は本気でヤる目をしている。
俺は一体どうなってしまうんだー!! それ以前に、この黒い猫は一体何者なんだー!!
え? 守護精霊? あのおとぎ話の? ハハハ、こやつめ。
……え、マジなの!? もしかして俺、本当に人間やめちゃいました!?
え? 魔境の森にドラゴンが現れた? やってみるさ!
え? 娘を嫁にもらってくれ? ずいぶんと地味な子だけど、大丈夫?
え? 元婚約者が別のイケメン男爵令息と婚約した? そう、関係ないね。
え? マンドラゴラが仲間になりたそうな目でこちらを見てる? ノーサンキュー!
え? 魔石が堅くて壊せない? 指先一つで壊してやるよ!
え? イケメン男爵令息が魔族だった? 殺せ!
何でわざわざ俺に相談しに来るんですかねー。俺は嫁とイチャイチャしたいだけなのに。あ、ミケ、もちろんミケともイチャイチャしたいよー?
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる