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バクエット・ド・パクス(13)
暗黒山脈(17)
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女性は自分の後頭部めがけて飛んできたモノを、見もせず裏拳で弾いた、が。
「?」
弾いたモノが、ブーメランのように帰ってくるのが聞こえた。
仕方なくその正体を横目で捕捉する。
ジュディの右肩から右手までが、分離しつつも電磁力によって繋がれながら、そのリーチを延長していた。
女性が弾いたのはその右手だったが、どこかへと飛んでいく事はなく再度、彼女の頭部めがけて掴みにかかってくる。
ジュディは左手の方も、草むらに向かって伸ばしていた。
拳銃を回収するためだ。
「やらしい手ですねっ……!」
そう言いながら、女性は後方にジャンプした。
ムサシの弾丸が足元を狙ってくる。ソレは回避するコトができた。
しかし次なる攻撃が、彼女の着地点へと既に放たれていた。
大男――フランシスを殴り飛ばした方向からまたしても、岩が飛来する。
女性は身体を空中で捩ると、肘打ちでその岩を破壊した。
一行と女性との間には、少しの距離が開いた。
フランシスが草を踏み分けつつ現れる。
「『90℃』弾か?」
「ああ、どうやらそうらしい」
頭部から血を流しているフランシスに、ムサシが答えた。
と、二人には目もくれずに、女性がジュディの方へと走った。
ジュディの右手は先程、虚空を掴むにとどまったが、左手は草むらから帰りつつあった。
その帰還を妨げるために、女性は動いたのだった。
「くそっ!」
ムサシの銃口、そして銃弾は、女性の後ろしか追えなかった。
ジュディの眼前に到達した女性は、その脇腹へと右中段蹴りを打ち込んだ。
「ぐっ……あっ!」
「良かった♪ 貴女は全身機械なんですねえ。やっぱり」
「ジュディ!」
フランシスの声もむなしく、ジュディはバラバラになり、緑の海へと消えた。
ムサシがトリガーを引くが、拳銃は動かなかった。弾が“満タンに”なったためだ。
「ちっ、微妙に慣れがいるなコイツは」
「ソレ、変な銃ですねえ。慣れる時間があると良いのですけど♪」
女性がムサシの銃を指差し言う。
彼女が次の動きを見せようとした、その時だった。
銃声が森に響いた。
女性は呆気にとられながら、後ろを振り返る。
大した敵と見做していなかった少年がソコにはいた。
その少年が異世界からの少年であるコトは、その女性にもわかっていた。
だが、“銃”を持っていなければ戦力にはならないハズだった。
「ジュディさんが取り戻そうとした銃は、自分のじゃあありません。僕のです」
女性の服、その腰元には穴が開き、微かに煙が燻っていた。
少年の銃から薬莢が排出される。
少年はその薬莢を掴むと、口に投げ入れ、噛み砕いた。
一行の口中は既に魔術回路によって同期されている。
全員の口の中に、噛み砕かれた『審査弾』の薬莢から、滋味と香りが広がった。
ミルクを思わせる甘い香りと、味自体にも同様に強い甘味がある。
しかし玉露のようなややもするとしつこい甘味ではなく爽やかで、そして何より『炉の香り』があった。
ソレも少し強めの、もはや『火香』の領域の『元火』だった。
フランシスとムサシはアイコンタクトで同意した。
ムサシが大きな声で皆に伝える。
「『さみどり』の“碾茶”だ! 恐らく魔力で身体強化してやがる。パクスの連中だ!」
「あらあら、バレちゃいましたか。意外と恥ずかしいですねえ、まるで丸裸にされたみたいで♪」
「?」
弾いたモノが、ブーメランのように帰ってくるのが聞こえた。
仕方なくその正体を横目で捕捉する。
ジュディの右肩から右手までが、分離しつつも電磁力によって繋がれながら、そのリーチを延長していた。
女性が弾いたのはその右手だったが、どこかへと飛んでいく事はなく再度、彼女の頭部めがけて掴みにかかってくる。
ジュディは左手の方も、草むらに向かって伸ばしていた。
拳銃を回収するためだ。
「やらしい手ですねっ……!」
そう言いながら、女性は後方にジャンプした。
ムサシの弾丸が足元を狙ってくる。ソレは回避するコトができた。
しかし次なる攻撃が、彼女の着地点へと既に放たれていた。
大男――フランシスを殴り飛ばした方向からまたしても、岩が飛来する。
女性は身体を空中で捩ると、肘打ちでその岩を破壊した。
一行と女性との間には、少しの距離が開いた。
フランシスが草を踏み分けつつ現れる。
「『90℃』弾か?」
「ああ、どうやらそうらしい」
頭部から血を流しているフランシスに、ムサシが答えた。
と、二人には目もくれずに、女性がジュディの方へと走った。
ジュディの右手は先程、虚空を掴むにとどまったが、左手は草むらから帰りつつあった。
その帰還を妨げるために、女性は動いたのだった。
「くそっ!」
ムサシの銃口、そして銃弾は、女性の後ろしか追えなかった。
ジュディの眼前に到達した女性は、その脇腹へと右中段蹴りを打ち込んだ。
「ぐっ……あっ!」
「良かった♪ 貴女は全身機械なんですねえ。やっぱり」
「ジュディ!」
フランシスの声もむなしく、ジュディはバラバラになり、緑の海へと消えた。
ムサシがトリガーを引くが、拳銃は動かなかった。弾が“満タンに”なったためだ。
「ちっ、微妙に慣れがいるなコイツは」
「ソレ、変な銃ですねえ。慣れる時間があると良いのですけど♪」
女性がムサシの銃を指差し言う。
彼女が次の動きを見せようとした、その時だった。
銃声が森に響いた。
女性は呆気にとられながら、後ろを振り返る。
大した敵と見做していなかった少年がソコにはいた。
その少年が異世界からの少年であるコトは、その女性にもわかっていた。
だが、“銃”を持っていなければ戦力にはならないハズだった。
「ジュディさんが取り戻そうとした銃は、自分のじゃあありません。僕のです」
女性の服、その腰元には穴が開き、微かに煙が燻っていた。
少年の銃から薬莢が排出される。
少年はその薬莢を掴むと、口に投げ入れ、噛み砕いた。
一行の口中は既に魔術回路によって同期されている。
全員の口の中に、噛み砕かれた『審査弾』の薬莢から、滋味と香りが広がった。
ミルクを思わせる甘い香りと、味自体にも同様に強い甘味がある。
しかし玉露のようなややもするとしつこい甘味ではなく爽やかで、そして何より『炉の香り』があった。
ソレも少し強めの、もはや『火香』の領域の『元火』だった。
フランシスとムサシはアイコンタクトで同意した。
ムサシが大きな声で皆に伝える。
「『さみどり』の“碾茶”だ! 恐らく魔力で身体強化してやがる。パクスの連中だ!」
「あらあら、バレちゃいましたか。意外と恥ずかしいですねえ、まるで丸裸にされたみたいで♪」
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