上 下
128 / 270
United Japanese tea varieties of Iratsuko(9)

宙宇るす流逆(6)

しおりを挟む
アサヒが両手をギュッと握る。
ムサシが背中を叩いて鼓舞した。

「大丈夫だよ。何かあったら俺たちがついてる。二人で揉みくちゃになるワケにもいかねえから、一緒には行ってやれねえが、何かあったら絶対に引き戻してやるよ」

「ああ。だから精一杯、息を吸い込んで行ってこい」

フランシスも勇気づけた。
二人を見て頷くと、アサヒはジュディの方を見上げた。

「コッチも貴方をサポートする準備はできてるわ! さあ!」

「わかりましたー!」

アサヒが滝壺に近づく。
波紋が通常とは逆に、滝の根元へと収束していた。

滝壺へ飛び込むと、アサヒは滝に近づいていった。
逆転している流れもあって、思ったより速く身体が吸い寄せられていく。

近づくと共に、水の中へ身体を引き込もうとする力も強くなっていった。
粘度の高い水に足を掴まれているかのような感覚が大きくなっていく。

少し余裕をもって、アサヒは息を吸い込んだつもりだった。
しかしソレに、思ったより余裕はなかった。

吸い込んだ直後、アサヒは水底に引き込まれ、揉みくちゃにされた。
そして急に上向きの力を感じ、無数の細かな泡で目の前が真っ白になったかと思うと、アサヒは滝の柱の中をエレベーターよろしく昇っていた。

ココまでは、激しい水の力に翻弄されていたとは言っても、アサヒの想定通りだった。
しかし、滝を昇る段で予期しないコトが起こった。

アサヒは滝が自動的に自分の身体を上まで運んでくれるモノだと思っていたが、滝はアサヒを排出するかのように横向きの力を、その身体に加え始めた。

ジュディやムサシ、フランシスら成人の身体ならば、ほとんど意識せず水をかいて、その横向きの力に抵抗できる。
しかしアサヒには難しかった。

アサヒは息苦しさにも急かされ、焦りながら水をかいた。
もうすぐ滝の頂上に到達するというのに、身体の半身が滝から出始める。

間に合わない! そう思った時、アサヒは自分の背中を強く引っ張る力を感じた。
その力はアサヒを滝の中に引き戻してくれた。

一瞬の後、アサヒは空中に放りだされた。
しかしその際にも、背中を押す力が働いて、アサヒを空中で動かしてくれた。

「おっと!」

アサヒは柔らかい衝撃を受け、自分がもう空中にいないコトに気づいた。
アサヒを両手で支えたジュディが、その顔を覗き込む。

「よくやったわね。もう大丈夫」

アサヒはその優しく慈愛深い、女神像のように整った笑顔にきらめくような安心感を与えられて一瞬泣きそうになったが、ぐっと堪えた。

「あ、ありがとうございます」

ジュディがアサヒを下ろす。
アサヒは崖の傍に近づくと、ムサシとフランシスに声をかけた。

「大丈夫でした! ありがとうございます!」

「何もしてねえよ! ムサシがおまじないをしてくれたぐらいだな!」

「どうやら効いたみたいで良かったぜ!」

アサヒは小首を傾げる。
ジュディはアサヒに気づかれないように、アサヒの背中にムサシが取りつけた、自らの分離した右手を磁力で回収した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!

天田れおぽん
恋愛
ある日、ふと幸せじゃないと気付いてしまったメリー・トレンドア伯爵夫人は、実家であるコンサバティ侯爵家に侍女キャメロンを連れて帰ってしまう。 焦った夫は実家に迎えに行くが、事情を知った両親に追い返されて離婚が成立してしまう。 一方、コンサバティ侯爵家を継ぐ予定であった弟夫婦は、メリーの扱いを間違えて追い出されてしまう。 コンサバティ侯爵家を継ぐことになったメリーを元夫と弟夫婦が結託して邪魔しようとするも、侍女キャメロンが立ちふさがる。 メリーを守ろうとしたキャメロンは呪いが解けてTS。 男になったキャメロンとメリーは結婚してコンサバティ侯爵家を継ぐことになる。 トレンドア伯爵家は爵位を取り上げられて破滅。 弟夫婦はコンサバティ侯爵家を追放されてしまう。 ※変な話です。(笑)

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

最強の男ギルドから引退勧告を受ける

たぬまる
ファンタジー
 ハンターギルド最強の男ブラウンが突如の引退勧告を受け  あっさり辞めてしまう  最強の男を失ったギルドは?切欠を作った者は?  結末は?  

伯爵令嬢に婚約破棄されたので、人間やめました

えながゆうき
ファンタジー
 うー、ダイエット、ダイエットー!  子爵家の庭を必死に走っている俺は、丸々太った、豚のような子爵令息のテオドール十五歳。つい先日、婚約者の伯爵令嬢にフラれたばっかりの、胸に大きな傷を負った漆黒の堕天使さ。髪はブロンド、瞳はブルーだけど。  貴族としてあるまじき醜態はすぐに社交界に広がり、お茶会に参加しても、いつも俺についてのヒソヒソ話をされて後ろからバッサリだ。どっちも、どっちも!  そんなわけで、俺は少しでも痩せるために庭を毎日走っている。でも、全然痩せないんだよね、何でだろう?  そんなことを考えながら走っていると、庭の片隅に見慣れない黒い猫が。  うは、可愛らしい黒猫。  俺がそう思って見つめていると、黒い猫は俺の方へと近づいてきた! 「人間をやめないかい?」 「いいですとも! 俺は人間をやめるぞー!!」  と、その場の空気に飲まれて返事をしたのは良いけれど、もしかして、本気なの!? あ、まずい。あの目は本気でヤる目をしている。  俺は一体どうなってしまうんだー!! それ以前に、この黒い猫は一体何者なんだー!!  え? 守護精霊? あのおとぎ話の? ハハハ、こやつめ。  ……え、マジなの!? もしかして俺、本当に人間やめちゃいました!?  え? 魔境の森にドラゴンが現れた? やってみるさ!  え? 娘を嫁にもらってくれ? ずいぶんと地味な子だけど、大丈夫?  え? 元婚約者が別のイケメン男爵令息と婚約した? そう、関係ないね。  え? マンドラゴラが仲間になりたそうな目でこちらを見てる? ノーサンキュー!  え? 魔石が堅くて壊せない? 指先一つで壊してやるよ!  え? イケメン男爵令息が魔族だった? 殺せ!  何でわざわざ俺に相談しに来るんですかねー。俺は嫁とイチャイチャしたいだけなのに。あ、ミケ、もちろんミケともイチャイチャしたいよー?

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...