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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(9)

接近遭遇(12)

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「お嬢さま、私が空間ごと、攻撃してみます」

ウィーが杖を一振りする。
杖の先から空間の歪みが、うねりながら物体に向かっていく。

歪みは、その先端が触れると、物体を包み込んだ。
物体はぐにゃりとひしゃげ、包み込んでいる空間ごと小さな点へと“ねじくれて”収束していく。
ウィーはソレを右手に持った杖と、開いて向けている左手で操作していた。

ツヅキはその光景から、かつて行った茶葉の官能審査、その最後である能力審査を思いだしていた。
その際も、実験台の人形がボール大に“圧縮”されていた。

「う、ウィーさん、いけそうです!」

「……いえ、その前に謝らないといけないかもしれません」

カップに対して答えながら、ウィーが顔を歪める。

次の瞬間、点にまで収束した空間が弾けたかと思うと、様々な色の物体が“拡散”した。
一つ一つは同じ形だが、色が違う。ソレが複数、四方八方に散らばった。
もちろん、皆の方へも。

ウィーはすかさず、再度杖を振る。
目前まで迫っていた物体を、透明の壁が弾いた。

「どうなってるんだ?」

ツヅキが声を上げる。

「お嬢さまのように物理的な魔術……少し矛盾した言い方ですが、そういった真正面からの“力”では、あの物体を透過してしまうようです。
ソコで私の空間魔法でならと思ったのですが、透過するコトはなかったにせよ、より相手に“反発”を許してしまったようです。相手にはソレほどの、強大な魔力が込められていました。すみません……」

「いや、そういうつもりで言ったんじゃあないんだ。ってコトはかなり、イヤな相手だな」

「ウィー」

メイがウィーを振り向かせる。

「言葉遣い、本気になってないかしら?」

「あっ! ……イケませんねぇ~、私としたコトが」

「逆に言えば、ウィーの“壁”なら防げるというコト。このまま一気に出口まで駆け上がりましょう」


◇◇◇


ウィーの階段と壁のお陰で、何とか一行は出口である扉まで辿り着いた。

「よし! 皆入って!」

メイが扉を開く。
白木で構成された扉は簡単に動いた。

全員がなだれ込む。メイはすぐさま扉を閉めた。

「コレで一安心、結構な難関だったわね」

「……いえ、お嬢さま」

ウィーが杖を手に立ち上がる。

「今一つ、本気になってしまっているコトをお許しいただきたく」

ウィーが睨みつけている扉に、亀裂が入った。

「どうして?」

「お嬢さま、恐らくですが、この扉は魔術的な保護が少ないのです。先の部屋の壁には施されていた魔術的な保護が」

「魔術的な保護?」

ツヅキが問う。

「ええ。先の部屋、あの妙な物体は一度弾いても、部屋の石壁に反射してはまた向かって来ていました。本来なら石壁も破壊されるはず。私の空間魔法のような保護が、石壁にはされていたのだと思います」
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