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南山城国(9)

忌村(5)

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「まもなくですね」

童仙が言う。
一行は林道をしばらく歩き、そしてようやく抜けようとしていた。
幸い、敵らしい姿は先刻の野犬以降、見るコトはなかった。

「ソレは良い。この空の緋色と森の緑の、クラクラするコントラストにも飽きてきたトコロだ」

「本当、気味の悪い光景です。慣れませんね……」

「村の光景がコレまでよりもマシとも、あまり期待はできませんが……」

男性陣三人は、カオルの前方を囲むように守りながら移動していた。
先頭の童仙が振り向く。

「カオル殿、大丈夫ですか?」

「……ええ。大丈夫です」

「顔色が優れませんが」

遠藤と龍之介も振り向く。

「確かに。カオルちゃん、この赤みがかった景色の中でもわかるほど、顔色が真っ青だよ」

「……色白ってコトに、しておいてくれませんか?」

冗談を述べるが、その様子はとても苦しそうだ。
心なしか、少し震えているようにも見えた。龍之介が近づき、手を取る。

「凄く手も冷たいですよ。気分が悪いんですか?」

「うん、正直ね。村に近づくほど、ツラいかな」

龍之介はカオルの額に手を伸ばす。熱を診るためだ。
しかし、カオルの前髪をかき上げて、さっと手を引いた。

「童仙さん……コレがそうですか?」

「え? なになに?」

「……ええ、そうですね。ココまでハッキリでているのは、初めて見ましたが」

「へえ……。カオルちゃん、紋様だ。額に紋様がくっきり現れているよ」

「紋様って、確か童仙さんが私をこの世界で見つけてくれた時にも、でてたってヤツですか?」

「ええ」

カオルが思わず額に手を伸ばす。

「熱っ……うわスゴい、たぶん紋様に沿って熱くなってる~。面白いですね」

「流石、精神的にはいつも余裕があるね。カオルちゃん」

「村に近づくに従って、カオル殿の魔術回路が反応しているのでしょう。ありうべからざるコトではないとは思っていましたが、やはり起きてしまいましたか……」

「少し休みますか?」

「龍之介君、冗談。むしろ早く行きましょう。この村でさえ、通過点に過ぎないんだから」

カオルはキッと前を見据えて言った。

「本気で無理な時は迷わず知らせてくださいね、カオル殿」

「ええ、童仙さん。その時は背負ってください」

「も、もちろんです」

「私も立候補しておいても、いいものかな? その役」

「わ、私も……」

「全員で運びますか?」

「いや、ソレは逆に恥ずい」
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