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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(8)

接近遭遇(2)

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「……どなたです?」

「おい、聞いているのはワシだぜ。質問を質問で返すなよ」

「違いますが」

「おや? そうかい。似てると思ったんだが……」

露天商の主人はアゴをさすりさすり、ツヅキを品定めする目で見ながら言った。
ツヅキはメイの方を見る。

メイは露天商をキッと見ていたが、ツヅキの視線を感じ視線を返した。
メイが頷く。

ツヅキはソレを見て了解した。メイは主人の心を読んでいた。つまり、主人は素朴かつ本当に「似てると思ったんだが」と感じているのだ。
ソレ以上の深い考えが表出していないというコトは、この人自身は敵ではないのかもしれない。

しかしようやく、かの能力が役立ったな、とツヅキは思った。
ソレは同時に、自分たちが本当に“戦い”の場へ足を進めたのだというコトと同義だったが。

「えっと、何の話ですか? 誰に似てるって?」

ツヅキはカマをかけ始めた。メイは主人に視線を戻す。
誰が裏にいるかを、探ろうとしたのだ。

「いや、ご主人ありがとう。ソレ以上はもういい。よくコレだけの人混みから彼らを見つけてくれた」

「そうですか。まあ、有象無象から何か見つけるのは目利きの仕事ですから」

露店の奥から声が、そしてその人物が姿を現した。

オートラグの最高権力者、ヴァーシュ大法官だった。

メイが瞬間、杖を取り出そうとする。
ヴァーシュは片手を上げてソレを制した。

「止めたまえ。何も公共の面前でやり合う必要はあるまい。ソレに、私はそもそも争いに来たワケではない」

「どういうコトです?」

「少し話がしたいのだ」


◇◇◇


ツヅキとメイ、そしてヴァーシュは、商店区域を抜けた先の広場に着いた。

メイは常にヴァーシュの心を読んでおり、またヴァーシュもソレを承知していた。
よって、ヴァーシュが言う「話がしたい」というのが真実だとはわかっていたが、念のため人の多い広場で話をするコトにしたのだ。

商店区域を抜けた先の広場は、人は多いが密集しているワケではない。
他人の話に耳を傾ける輩もいなかった。
オートラグの仲間がいないかも、目につく全ての人間の心をスキャンして判断済みだった。

「さて、かなり警戒されているようだが」

ヴァーシュが口を開く。

「まあ、致し方あるまい。オートラグはツヅキ殿を再召喚しようとしているのだからな」

「まるで、自分とは関係がないみたいな言い方ですね。貴方がその責任者でしょうに」

メイが強い口調で言う。

「ああ、そうだとも。私の一存とは関係がないのだよ、オートラグの決定はね」
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