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シュロッス・イン・デル・ゾーネ(6)

品種特性(2)

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一通り、三種の茶葉を嗅いでいくツヅキ。
途中でふと気づく。

「あれ?」

「やっぱり、私の品種香は変ですかあ~」

いやまあ、確かにウィーの茶葉の香りは他とは違うのだが。
メイの方を向くツヅキ。

「この嗅ぎ方って俺、前にやったことあるよな」

またしてもはて、という顔のメイ。
「あったかしら?」と口に出す前に、ツヅキが自己回答した。

「ああ、アレだ。団長に教えてもらったんだ」

「……そ、そうね。いつ気づくのかと思ってたわ。忘れてたの?」

ジト目でメイを見るツヅキ。
目を見開き、“何?”と首を傾げてみせるメイ。

「あの時の玉露だったっけ、それに匂いが似てるから思い出したよ」

「匂いは最も人の記憶を呼び覚ますと言いますからねえ。お茶の『人の心を過去に連れていく』っていう、魔法の一つですねえ」

ウィーの話を聞いて、ツヅキは似たような話を思い出していた。
昔の小説家で、マドレーヌの匂いを嗅いだら幼少期にタイムスリップしたかのようにまざまざと、その時分の感覚を恍惚感を持って想起できた人がいたっけ。

確かに、そう考えるとこれは魔法だろう。

「じゃあ、ツヅキさんがその時に飲んだ玉露は『ごこう』だったんですねえ。団長お目高ですぅ」

「ごこう?」

「お茶の品種よ。だから品種香って言ったでしょ。ウィーの茶葉の品種は『ごこう』っていう品種。嗅いだ通り、香りにクセがあるのよ」

「へえ。品種によって、こんなに違うのか」

「それにしても、ツヅキさんスゴいですねえ。品種香によって思い出すんなら、品種ごとに記憶保持とかできそうですねえ」

「まさか」

そう返しながら、最後の茶葉を嗅ぐ。

「あ、これメイだな」

「あら、よくわかったわね」

「ああ、だってベッド……いや、センスあるのかもな俺」

「それこそ“まさか”ね」

「いや~、センスありますよおツヅキさん」

「べ、ベッド?」

それ以上言ってくれるなカップ。
この世界に来た最初の夜、寝ることを躊躇したベッドを思い出したとは、とても言えないツヅキだった。

「私の品種は『あさつゆ』。自分で言うのも何だけど、甘味の強そうな香りが特徴よ」

「ふ~ん、あさつゆねえ」

「何か可笑しいところがあったかしら」

「いえ、何もありません」

ベッドの香りが『あさつゆ』とは。少し面白いな。

「じゃあ、最初に嗅いだのがカップの茶葉ってワケか。カップの品種は何なの?」

「わっ、私はおっ、『おくみどり』です」

「おくみどり?」

「“緑”色の濃い茶葉で、晩生(“おく”て)の品種だから『おくみどり』よ。晩生だから、摘採がゆっくりな分、黒く濃い緑色になるわね。慣れれば、この品種も特徴的な香りよ」

カップに言われてしまったからか、解説役に徹しようとするメイ。

「晩生は摘採が遅いってのは何となくわかるんだけど、何と比較して遅いんだ? 単純に、収穫の期間が後ろの方になりがちってだけか?」

「いえ、基準となる品種があるわ」

「基準?」

「そう、『やぶきた』よ」
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