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3章 雨乞い
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あれから十日あまりが経った。
美澄さんは兄の提案で防犯ブザーを持ち歩くようになっていたけど、それは一度も使われなかった。兄と一緒に帰る時も、やむを得ず一人になってしまう時も、謎の足音が聞こえることはぴたりとなくなったそうだ。私は心の底から安堵した。
「でも何度かね、気配っていうか……そんなのはあったんだけどね」
電話の向こうで、彼女は言う。
「それももうないの?」
「うん。一応、ブザーは持ってるし、颯太と待ち合わせて帰るようにはしてるんだけど。何だったんだろう」
「美澄さん、可愛いから」
「からかわないの」
「からかってないよー」
くすくす笑うと、向こうの美澄さんも楽しそうに笑い声を零すから、私は嬉しくなる。美澄さんにお近づきになりたかった誰かがいるのかもしれない。腹は立つけど、そんな人が出ても納得できるぐらい可愛い人だ。
「あ、それとね」弾む声。「お守りのおかげもあるかもしれない」
「お守り?」初耳だ。
「うん。あれからね、もう一回出雲さんの所に行ったの。それで相談したら、お守りをくれて、これを持ってれば被害は収まるって。……特に普通のお守りなんだけど、この効果だったのかな」
今も手元にあるらしいお守りをしげしげと見つめる気配がある。
「親身になって相談してくれて、安心したよ。会社の同僚にも胸張って紹介できるかな。……ちょっと、もー、拗ねないでよ。颯太にも感謝してるから!」
電話の向こうで文句を言う兄と、笑って宥める美澄さんの姿が目に浮かぶ。やれやれ、本当にお似合いの二人だ。一生仲良くイチャついていてほしい。
とにかくよかったと電話を切った。何はともあれ、美澄さんが無事ならそれでいい。
だけど、釈然としない思いが胸の中にこびりついている。犯人は誰だったのか。何故急に美澄さんを諦めたのか。お守りに効果があったとでもいうのか、まさか。
ぽつんと胸に浮かぶ黒いしみ。旭なら、納得のいく答えを口にして、しみを綺麗さっぱり消してくれるかもしれない。彼ならば、私の知らないことを知っているかもしれない。
美澄さんは兄の提案で防犯ブザーを持ち歩くようになっていたけど、それは一度も使われなかった。兄と一緒に帰る時も、やむを得ず一人になってしまう時も、謎の足音が聞こえることはぴたりとなくなったそうだ。私は心の底から安堵した。
「でも何度かね、気配っていうか……そんなのはあったんだけどね」
電話の向こうで、彼女は言う。
「それももうないの?」
「うん。一応、ブザーは持ってるし、颯太と待ち合わせて帰るようにはしてるんだけど。何だったんだろう」
「美澄さん、可愛いから」
「からかわないの」
「からかってないよー」
くすくす笑うと、向こうの美澄さんも楽しそうに笑い声を零すから、私は嬉しくなる。美澄さんにお近づきになりたかった誰かがいるのかもしれない。腹は立つけど、そんな人が出ても納得できるぐらい可愛い人だ。
「あ、それとね」弾む声。「お守りのおかげもあるかもしれない」
「お守り?」初耳だ。
「うん。あれからね、もう一回出雲さんの所に行ったの。それで相談したら、お守りをくれて、これを持ってれば被害は収まるって。……特に普通のお守りなんだけど、この効果だったのかな」
今も手元にあるらしいお守りをしげしげと見つめる気配がある。
「親身になって相談してくれて、安心したよ。会社の同僚にも胸張って紹介できるかな。……ちょっと、もー、拗ねないでよ。颯太にも感謝してるから!」
電話の向こうで文句を言う兄と、笑って宥める美澄さんの姿が目に浮かぶ。やれやれ、本当にお似合いの二人だ。一生仲良くイチャついていてほしい。
とにかくよかったと電話を切った。何はともあれ、美澄さんが無事ならそれでいい。
だけど、釈然としない思いが胸の中にこびりついている。犯人は誰だったのか。何故急に美澄さんを諦めたのか。お守りに効果があったとでもいうのか、まさか。
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