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第5章

第52話

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 迷宮探査を休んで一週間。

 だいぶ魔力も戻ってきてる。

 怪我自体はしていないのだが、魔力を限界まで使ったからか一晩で回復しなかった。

 魔力を使い尽くすという感覚を大分忘れてたな。

 いずれにしろ白金貨7枚と金貨20枚。山分けして一人白金貨3枚と金貨60枚。ちょっとした小金持ちだ。

 佑樹は大分受け取ることを渋ってたが…、最終的には将来借りを受けた時の前貸しだと言ったら受け取ってくれた。

 こういうのはいつも平等に分けなきゃいらぬ確執を生むからな。

 最初から最後までずっと変えないほうが良い。

 多分。

 貯まった金を使って何をするかという話にもなったが…。

 正直迷ってる。俺も佑樹も。

 まず、無くなったポーション類は補充しようという話になった。これは絶対。

 それとチケットが手に入るまで安全な宿を使う。これも絶対。ここまで来て寝てるときに殺されてもつまらないから。

 話が別れたのは武器・防具・便利な魔道具だ。

 この中の魔道具に関しては俺達が期待するようなものは買えそうにないという事がわかったから、まぁいい。

 密輸してる時も思ったが役立つ魔道具は白金貨10が最低の値段だ。手に入りそうな魔道具は、例えば重量・容量を無視できる強欲の袋、半径1km範囲内の好きな箇所を見聞きできる狒々の兜、自身の周りのみ魔法的な干渉のみ完全に防ぐ事ができる聖女の宣誓文(呪い)等々面白そうな物があったがみな高かった。これはやめておこうか、という話でお互い納得したし、これはまだいい。

 問題は武器、防具だ。俺としてはそれでこちらの戦力が上がるならいくらでも買えばいいと思ったのだが、佑樹はあまりいい反応をしなかった。

 いい武器、防具を身につけてるってことはそのまま、白金貨を体に巻き付けてるようなものだと。

 それで実力が上がるのは間違いないが、その分敵から狙われる理由も増えると。

 そこらの雑魚を惹きつける分にはなんとかなるかも知れないが、もしまたニギのような奴に襲われたらどうするのかと。

 …確かにその危険はある。

 ニギは俺達が身につけてる武器・防具に魅力を感じなかったからこそ、あそこで引き下がったと言える。

 もし俺達が白金貨相当を装備してたとしたら、あのまま戦闘になった可能性は十分ある。

 …そして俺達は死んでいただろう。

 そういうことが今後絶対にないと言えるのか。そもそもまたニギが襲ってこない保証はあるのか。安全な宿とは言えそこらのチンピラに寝込みを襲われることは絶対にないのか。

 簡単に手に入れた強さは簡単に失う可能性がある。俺達に白金貨レベルの装備は分不相応だと思う、そう佑樹は言っていた。

 じゃあなるべく武器防具を隠して行動すればいい、どうせ俺達が行動するのは迷宮だけだろ?他に誰が気にするんだと反論したけど…。

 隠してるものはいつか必ずバレる。でも隠すものが無いんだったらバレようがない、と。

 高価な装備で強くなるよりも、地の実力を上げればそんな心配はなくなる。好きなように隠せるし、強さがバレた所で、じゃあ襲おうかとはならないだろう。

 あくまで実力にそぐわない物を持ってるから狙われるんだ、と。

 そう言って佑樹は迷宮に潜りに行ってる。ここの所ずっと一人で。

 強くなるし金はあっても困らないだろうって。

 まぁ確かにそうなんだけどさ…。

 佑樹の言ってることは確かに納得できる。正直そのとおりだと思ってしまったところもある。

 俺達は逃亡者だ。だからこそ目立つ行動は控えるべきだと思う。

 あくまで逃亡中はということで、南部大陸に行ったらいい装備を買っても良いと思うとも佑樹は言っていた。この前の戦いに囚われてるわけでもなさそうだ。

 俺達がいるこの街がならず者の中のならず者ばかりだからこその心配なんだ。他だったらそんな事を考えなくてもいいだろう。

 佑樹の意見は、この街だからこそ目立つことは出来るだけ控えようという意見だ。

 確かに実力が上がるなら良い。佑樹の成長は目覚ましい速さだ。

…だけどやっぱり急に実力が上がるわけじゃない。

 俺達は間違いなくニギに目をつけられた。明日、ニギに喧嘩を売られることがないといい切れるのか。確かにチンピラに狙われたり他の冒険者に狙われたりする危険もある。だがまず直近の危機を生き延びるべきなんじゃないのか?眼の前の死の危険を乗り越えてからかんがえるべきなんじゃないのか?例えばニギをなんとかした後装備を売ってもいいじゃないかという話もしたんだが…。

 佑樹は、ニギがそこまでするとは思えない。と言っていた。金貨も獲物も渡してそれで更に俺達を襲うとか流石にないだろ、と。ニギが襲ってこないのなら徒に敵を増やすだけの行動はしたくないと。

 どうだろうか…。あの男はそういうことも平気でやりそうだ。

 あいつは…、感情のままに動いていると言うか、勘とか好き嫌いとかで動いてる気がする。大陸級にまでなったんだ。バカってことは無いだろう。ただ、あえて、わざと感情のままに生きてるように見える。…気のせいだろうか。

 だからこそ、気に食わないとそれだけで襲ってきそうだが…。

 どちらにしろお互い感覚の話で平行線だ。

 ニギが襲ってくるか来ないかそれによって変わってくる。

 …俺達は襲ってこない方に賭けた。…迷宮の外では。

 迷宮の中では襲われる可能性が高いから、やめろつったのに…。どうしても入りたいって言うから、念の為風探査魔法を教えたけどさ。本人もあいつには勝てない事は分かってるし、突っかかることは無いと思うが…。

 佑樹は風の扱いは初心者程度だったが使えはした。だから教えて一日で100m程度の範囲を感知出来るようになったし、まぁ…大丈夫だろう。

 とりあえずはこれでいいと佑樹は迷宮に潜っていった。

 …頑張るよなぁ。俺だったらもう少し休むけどね。

 「で?船の乗船券は何時手に入る?」

 「…いや早ぇよ…。一ヶ月は掛かるっつったろうが。」

 「暇でしょうがねぇんだよ。やること無いんだ。」

 「だからって毎日来なくたっていいだろうが。毎日同じこと話してるぞ。」

 「なんか面白いこと教えろよ。ほら金もやるからさぁ~~。」

 「…まぁいいが…エイサップのことは皆が話してることぐらいしか分からねぇぞ。」

 「あぁ~…賭けが成立しないとかなんとかだっけ?」

 「あぁ、その後この街の領主様が賭けに乗ったんだよ。逃亡奴隷が死ぬ方に賭けたのさ。」

 「へぇ~。やっぱりこの街のお上も賭け事が好きなのか。」

 「というより半分祭りみたいな感じだな。これで奴隷が生きてたらこの街の住民全員に酒を一杯奢るとさ。ついでに祭りもするってさ。」

 「はぁ~…気前がいい…ん?気前が良いのか?」

 「まぁな。だがむしろ負けて祭りが盛り上がった方がいいだろうな。結局税金で儲かるのは領主だ。なかなか強かだと思うぜ。」

 「やっぱ上に立つ奴ってのは頭がいいんだな。」

 「…まぁそうだな。この気前の良さに疑問が持てるのも中々のもんだぜ。」

 「間髪入れずに答えたあんたほどじゃないさ。…やっぱりエイサップが情報を制限してるのは本当なのか?」

 「ああ…。奴らが群鳥域を抜けた辺りから渋り始めたな。…まぁ奴らほどの面子で情報を制限するってのが無理がある。結局情報は漏れてくるだろうが…、それも込での作戦ってこともあるかも知れねぇ。」

 「…出来ればエイサップの情報を継続して集めてほしい。そんな難しいもんじゃない。目撃情報程度でいい。今何処にいるのか…とかな。」

 「…まぁ、これだけ貰えりゃ構わねぇが…随分とエイサップに熱心だな?」

 「…まぁ、この情報を持ってりゃ街でただ酒にありつけるからな。」

 「ふぅん…。ただ酒のために金貨ねぇ、お金持ちは違いますねぇ。」

 「…ニギから生き残った褒美だ。これぐらいの見返りがあってもいいだろ。」

 「ああ、ニギから聞いたぜ。随分と奴に気に入られたな。」

 「…それはどっちの意味でだ?」

 「聞く必要があるのか?二人きりでは会わないほうがいい。」

 「…俺の相棒の方には何か言ってたか?」

 「少なくとも目ぇ血走りながら話してたのはお前のことだけだ。まぁ、街中で襲ってくることは無いだろ。そこまでバカじゃねぇ…と思う。」

 …佑樹と同じ読みか…。俺の心配し過ぎか?

 「…そう言えばニギに俺らの話を通してくれるって話はどうなったんだよ。」

 「…話は通したさ。その結果逆に目についちまったみたいだな…。」

 「…てめぇ…。」

 「いや、すまねぇって。あ、そうだナガルスの話は知ってるか?」

 「…なにかあったのか?」

 「ナガルス族がついにザリー公爵領で目撃されたんだ。」

 「ザリー公爵領?ザリー公爵領だと…?」

 「?ああそうだ。何か問題でも?」

 サウスポート、ラミシュバッツ、フィー、ザリー領…俺が通ってきた道順?

 俺を追いかけてる?

 …いやまさか。俺はサウスポートには行かなかった。

 俺を追ってるんだったらサウスポートに行くのは変だ。

 確かにナガルス族は俺の目的だが…ナガルス族は俺のことなんざ知らない、よな?

 俺が彼らを追う理由はあっても、彼らが俺を追う理由は全く無い。

 「いや、特に…。」

 「で、この報を聞いてなぁ。家の領主のウディ様、アンディ・ウディ様がそりゃぁビビっちまってなぁ。」

 「それは…、ナガルス族が同胞を探してるって話と関係があるのか?」

 「ああ…どうやら俺達の領にお近づき遊ばれてるようだからな。この街のみんなもみんな噂してる。この街にナガルス族はたった一人しかいない。奴隷で、地獄を見てる子供のナガルス族がな。アンディ様は今夜も眠れないそうだ。可哀想になぁ…。」

 「…その奴隷を売ってたのは手前ぇらじゃねぇか、反吐が出るぜ。」

 「へっへ。まぁ、そう言う…なんだ本気で切れてんのか?やめろやめろ。俺たちは手に入れた物を捌いただけだ。俺たちが無理やり奴隷にしたわけじゃねぇんだぜ?」

 「…ッチ。」

 「機嫌が悪ぃなぁ…。まぁアンディ様だけの問題でもねぇんだがな?結局、本当にあのナガルスの子供を探してるとして、ひどい扱いをしてるアンディ様だけがぶち殺されるのか、この街ごと消されるのか…。街の奴らは俺たち全員がぶち殺されるって思ってる。当然その反感はアンディ様に向かってる。」

 「まぁ、そりゃそうだろうな。」

 「サワ・ウディ様の酒一杯の賭けもガス抜きって意味合いもあるんだろうな。」

 「ふぅん…、まぁ、ここまでは街の奴らに聞いても分かるだろうな。」

 「はっはっは…。…っはっはっは、まぁまてよ。極秘の情報はここからだよ。」

 「さっすが、裏ギルド。情報を扱うプロ。まさか街の噂程度で終わるとは思ってなかったさ。」

 「…ま、これも確実ってわけじゃないんだが。…どうやらザリー家とナガルス族の一部が接触したんじゃないかという話があってな。」

 「接触…戦闘じゃなく?」

 「そうだ、戦闘じゃない。とはいえ取引とかそういうことがあったのかすら解らない。ただ、ザリー領都にいる根の報告だが…いつものように奴らは昼間に旋回して帰っていったらしいんだが…、その深夜、ザリー公爵家の屋敷にナガルス族らしき奴らが降り立った、と。」

 「そりゃ…本気か?」

 「本気だよ。これはかなり確かな情報だ。俺たちの伝手だからな。間違いないと思ってもらっていい。」

 「その後は?」

 「まだ動きはねぇ。というのもこの話はほんの2,3日前の話だ。今、継続して監視してもらってる。もしナガルスが俺たちハルダニヤ人と交渉なんざしてたら…、歴史上初何じゃねぇのか?」

 「…とはいえザリー家がナガルスと何か交渉をしたかどうかは分からんだろ?すぐ追い出したのかもしれんし。」

 「少なくとも、すぐでは無かったようだがな。もちろん追い出した可能性だってある。だがこれだけで国家に対する反逆と捉えられてもおかしくはないが…、証拠があるわけでもないし、公爵家だし、しかもあのザリー家だからな…王族も強くは出れんだろうな。」

 「そうか…。その情報、あとで続報をくれ。…ほら、これも。それとチケットが手に入ったらすぐ連絡してくれ。」

 「分かった分かった。ま、金をいくらか積んでくれるんなら、かなり早く出来ると思うぜ?早馬とか飛ばしてよ。それなりに掛かるがな?金貨10枚や20枚じゃ…。」

 「これを使ってくれ。ほら。」

 「白金貨…2枚…?!…早くなっても一ヶ月が2週間になる程度だぞ?」

 「十分だ。二人分で白金貨2枚だ。最速で頼む…。」

 「…分かったよ…。金を受け取ったからには仕事はする。なんとかあと一週間で蹴りを付けよう。」

 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 しかし暇だ…。

 ニギは街中では襲ってくることはない、か。マルタも佑樹と同じ考えか。

 ならやっぱり目立つべきじゃないか。

 まぁ、金も今ガッツリ使っちまったしな。

 暫くは宿でゆっくりして…、後は足りなくなった薬も作っておくか。遅効性の傷薬はもう残り少ない。ポーションがあるとは言え、やはりこちらも準備しておいたほうがいい。
 
 遅効性傷薬に強走薬、あと髪染め薬に染眼薬とか…魔力阻害薬も作っておくか。小手の仕掛け針に塗っておこう。迷宮のドラゴンと戦ってる時もしこれがカスリでもすればかなり有利になったんじゃないか?あの時は針に何も塗ってなかったけど…。
 
 確か薬屋に素材はあるだろ。持ち運び可能な調製セットとか売ってないかな…。魔道具とかそんなんじゃなくていいんだけど。

 …いっそ毒とか買っておくか?

 死ぬような物じゃなくていい、体を動けなくする類の…解毒薬も用意して、いざという時の交渉に使えるか?

 いや、動けなくなるのは魔力阻害薬でいいか…。じゃあ、致死性の毒を買っておいてもいいかも知れない。解毒薬も念の為な。死ぬまでに時間がかかって、動きが阻害されるようなものだったら戦いが有利になるし、交渉にも使える。

 右手と左手でそれぞれ違う物を塗っておけば…戦いに幅が出るか?

 …あとはどれ位持つのとか、賞味期限…はおかしいか?永遠に使えるものじゃないだろうし…そこら辺も調べなければ。
 
 そんな都合のいい毒物あるだろうか。そもそも手に入るのか?

 …そんときゃ裏ギルドに頼めばいいか。こんな時の奴らだろ。

 うん。目立たなきゃ武器を強化してもいいよな。

 よし、とりあえず薬屋から当たってみよう…ん?

 宿の前の広場に人だかり?

 ダンケルもいるじゃねぇか何かあったのか?

 「どうした?みんな突っ立っててよ。」

 「あぁ…ナガルス族の話は知ってるか?」

 「ああ、確か…同胞を探してるかも知れねぇって奴だろ?この町にも一人ナガルスが…。」

 「ああ、あそこにいるよ。」

 人!?え?

 飛ん来…よいしょお!!

 キャッチ、キャッチ出来た。俺天才、ポンチョサンキュウ、親に感謝。

 美味しいパスタ…違う、なんで人が…、いきなり人が飛んで来た…?子供?

 …いや、違う。

 この子、人間の子に見えたけど…。

 「貴様、貴様、余計なことをするな!!」

 「ッゴホ…すみません…ごめんなさい…。」

 「わた、わたしには分かっている!!謂れなき誹謗を受けているのを!!こ、こんなにも街のことを考えているのに!!父は領主なのだぞ!!」

 「痛い……痛い………ごめんなさい……」

 ナガルス族だ。

 この街唯一の、ナガルス族の子供。

 人間の子供に見えたのは…、羽を、根本から切り取られていたから。

 雑な手当のせいで背中に血が滲んでる。

 「うわ…。」

 「マジかよ…敵で奴隷だからってよぉ…。」
 
 「っけ、ここまでしたらナガルスに見逃しちゃもらえんだろうよ。」

 「ガキにまぁ、よくも…。」

 「どうでもいいが俺たちにとばっちりが来るのは間違いねぇよな。」

 「貴様らバカどもが!!ガキ一匹に臆病になりおって!!私が解決してやろうというのだ!!よく見ていろ!!」

 剣を…!?抜いた?!

 何をする、殺すつもりなのか?

 こ、殺せばナガルス族がいなくなって復讐されなくなるってことか?

 ま、まじかこいつ…。

 「うわぁ…、やっぱあいつバカなんだな。」

 「そうでなきゃナガルス族を奴隷になんてしねぇよ。このご時世よぉ。」
 
 「まぁ、ここまで来たらそうするしかねぇか?」

 「バカ。殺したって情報が漏れねぇはずねぇだろ。あのガキ保護して引き渡しゃまだ助かるかも知れねぇのによ。」

 「じゃあ、それ言ってやれよ。」

 「嫌だよ、だってあいつ馬鹿じゃん。」

 …風探査魔法で音を拾ってなきゃ解らない程度の声でボソボソと…。

 「ごめんなさい…ごめんなさい……お姉ちゃん………お腹空いた…。」

 「死ね!!」

 …俺も成長したもんだな。

 前だったらどんなボンクラだろうが剣を振りかぶられたらビビっちまってた。

 でも今は眉一つ動かさず、ポーションをガキに掛けながら、ポンチョで防御するくらいは出来る。

 「何をしてる!!邪魔するな!!私の父は領主だぞ!!分かっているのか!!」

 「…はぁ…申し訳ごぜぇやせん。俺は物を知らねぇもんで…。」

 「なんだと!!…まぁ餌共はそんなものか。」

 おお…冒険者への蔑称を軽々と…お前の周りにいるの全員冒険者ですよ。あんたの護衛も一気に緊張されてますよ。

 「クソが…。」

 「魔物の餌共の上前ハネてんのはテメェだろうが。」

 「クソ変態ち◯こが。」

 ほらね。

 さっきは中立でもなかったけど、手は出さない感じだったのに、俺知ーらね。

 「とにかくそこをどけ!!そのガキを片付ければ全て終わるんだ!!」

 「…はぁ…、しかし…、う~ん…果たしてそうでしょうかねぇ…。」

 「なんだ!!ごちゃごちゃと!!そこをどけ!!」

 聞けよバカ。

 「いやいや、若旦那。落ち着いてくだせぇ。殺しちまったら本当に取り返しのつかないことになりますぜ?」

 「あぁ?!」

 「もしこの子を殺したら…旦那はナガルスの子供を殺した奴ってことで一生ナガルスから狙われませんかね?この子が生き返る可能性がない以上、旦那が許されることは一生ありやせんぜ?」

 「…それがナガルス族に伝わればな。ここでそのガキが死に!!みなが黙って入れば!!この街は助かる!!そうだろ!?誰が好き好んで自分の首を絞めることをペラペラいうというのだ。」

 情報は漏れるもんですよ…ってのは言っても無駄か。

 この馬鹿はそれが正しいと信じてるみたいだからな。

 「そうだろ?!それともお前ら!!ナガルスにわざわざ情報を与えるのか?!我らの宿敵に?!」

 「…ッチ。」

 「…。」

 「まぁ…そりゃ…。」

 「こっち見んじゃねぇよ…。」

 …。

 ま、そりゃそうか。そんなもんだよな。

 「俺が言う。」

 「…なんだと?」

 「ナガルスがここに来たら大声で言ってやる。この子を殺したのはアンディ・ウディだと。」

 「…貴様、ふざけるなよ…。…。…分かっているのか?それはつまりこの街にいる全員の命をナガルスに渡すということだぞ?」

 「ふざけんじゃねぇよ。意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇ。死ぬのはあんた一人だ。この街にいる奴らは関係ないだろ?」

 「そうか?私と同族の人間全てを殺そうとしてもおかしくはないだろ?なにせ、人間のせいで死んだんだからなぁ。」

 「…だったら今までナガルスが見つかった街で殺し合いが起きてないのはおかしい。人間が、今までどれだけのナガルス族を殺したと思ってる。ナガルスは無差別に殺しをするような奴らではない、まぁ、無差別にってだけだ。殺すべき相手は殺すかもなぁ。」

 「…。」

 「…あいつやべぇな。誰だ?」

 「いや、知らねぇ。」

 「知らないのか!?あいつは”のろま狩りのシャム”だよ!あの!!」

 「のろま狩りのシャム…?地竜山に潜ってるルーキーだっけか?」

 「バカ、地竜山で食えてるなら最低でもルーキーじゃねぇよ。」

 「バカはてめぇだ。城下級になってねぇ奴は皆ルーキーだろうが。」

 「俺は実力のことを言ってんだ。級が下だからお前ぇより弱いと思ってねぇかとよ。」

 「確かに最近ノッてる新人だな。ついつい調子にノッちまったか。」

 「はは…あるあるだな。」

 「…いや、あいつ最近ニギから生き延びたって話なかったっけ?…水竜のスタンピードの後に…。」

 「…あれ?…あれって本気の話だったの?ニギブチ切れて無かったか?」

 「本気かどうか分からねぇが、そういう話が…。っつーかあれ着ぶくれポンチョじゃね?アダウロラ会派の…。」

 「アダウロラ会派ぁ!?実力者の代名詞じゃねぇか…。」

 「少なくとも実力はあるってことか…。」

 「ついでにあのバカ片付けてくんねぇかな。」

 「…貴様…!…名前、名前を教えろ。」

 「シャムと言いまさぁ。ナガルスが来たらおとなしく渡しっちまえば一番面倒が無いんじゃねぇですか…?なんでしたら受け渡しは私がやりやしょうか。」

 「…今日の所は、シャム、貴様に免じて許してやろう。今日の所は、な。」

 「へぇ…ありがとうごぜぇやす。」

 「それとその話し方はやめろ。馬鹿にされてるようで虫唾が走る。」

 「わかりました。冒険者流の敬語が慣れていましてね。」

 「…ッチ。行くぞ!!そのガキは後でちゃんと連れてこい!!」

 …はぁ…なんとか、なったか。

 …だが、根本的な解決じゃない。

 俺がこの街から出る時、この子も連れて行こう。いざとなったら攫って。…佑樹は嫌がるかな…。

 チケットもう一枚今から買えるだろうか。

 「…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…。」

 …いざとなったら俺の分のチケットを使って先に南部大陸に行ってもらおう。先に行ってもらって、ちょっとの間、佑樹に面倒見てもらって、俺は別の方法で海を渡って…。

 なんとかしよう。必ず。

 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 「構わねぇぜ。チケット一枚増えるくらい。っつーか、急がせるにしろ白金貨二枚はやりすぎだ。」

 「…そうか、助かるが、随分と親切だな。」

 「…昨日の話聞いたぜ。ナガルスのガキだろ?お前達がこの大陸から逃げようとしてるのは分かる。あのガキもついでに連れて行こうとしてるんだろ?」

 「…。」

 「構わねぇよ。やっちまえ。多分簡単に攫えると思うぜ。護衛も監視もいるが見て見ぬふりだろうよ。それくらいひでぇ扱いだからな。…一応攫う理由もそれとなく流しておこう。」

 「正直気持ち悪いな。何故そこまでする。しかもタダで。」

 「白金貨を多めにもらっちまったから…っていうのは通らねぇか?…通らねぇな。まぁ、こんな家業してるし奴隷も売りさばいてるが、別に人がどんどん死んでほしいわけでもねぇ。ただの気まぐれさ。青くせぇルーキーを見てるのがこっ恥ずかしいのかもな。とっとと出ていってくれれば俺も気分が楽になるもんよ。」

 「…まぁ、いい。何か情報はねぇのか。」

 「ん?情報?そうだな…ナガルスは結局ザリー公爵家から南に出発したのを目撃されてる。夜にな。」

 「南か…ここじゃねぇか?…本気で同胞を探してるのか?」

 「可能性は高くなった。実はあんたのおかげで街の人間全員がぶっ殺される可能性は下がったんだ。その借りを返す意味もまぁ、あるんだがな。」

 「なるほどな…、ま、貰えるもんはもらっとくぜ。…でもあの馬鹿が唐突に思い立ってあの子を殺すことだってあるんじゃねぇか?」

 「まぁな。一応監視も付けてるし大丈夫だとは思うんだがな。あぁ…あと、エイサップの奴らは竜の巣を抜けたらしいぜ。」

 !

 …早いな…。

 「早いな、そんな簡単に抜けられるのか?」

 「まぁ、群鳥域を抜けたっていう譲歩のときにはかなり進んでたんだろうな。情報が出てこねぇとこういうこともある。」

 「今は…何処にいるんだ?」

 「ザリー公爵領だと。」

 早く、早くここから出ねぇと。
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