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「ディラン! 次は一体どんな嫌がらせを思い付いたのよ!」
 魔導士にはそれぞれに研究室が与えられている。
 ディランの研究室に入ると、リサはディランを睨み付けた。
 呼び捨てにしていいと言ったのはディラン本人だ。学院の研究室で初めて会ったときに言われた。
 リサも一応王族であることは知識として知っていたが、貴族でも何でもなかったリサは、まあいいかと呼び捨てにした。それがそのまま今も続いている。

「ああ、リサおはよう」
 ディランはリサの怒りなどどこ吹く風だ。
 にこやかにお茶を飲んでいる。
「おはようじゃないわよ! 何で私とディランが結婚してるって変な話が流れてるのよ!」
「事実だからね」

 ディランが、カチャリとカップを置いた。
 その目は、冗談を言っているようには見えなかった。
 だが、リサは頭を抱えた。
「一体どんなことがあったら、そんな真顔で結婚したとか言えるのよ!」
 リサは信じてはいなかった。
 ディランはため息をついて首をふると、一枚の紙を取り出した。
「ほら、父上のサインもある」

 ディランが紙を広げた。
 ディランのサイン、王のサイン、そして、紛れもないリサのサインがある。
「けっこんせいやくしょ?」
 リサは理解できないまま一番上の文字を読んだ。
「結婚誓約書?!」
 裏返ったリサの声が研究室に響いた。

「ああ。だから、昨日結婚したことは、間違いないよね」
 トントン、とディランが紙の一部を指差す。
 確かに昨日の日付が書いてあった。
 確実に、結婚を認められた書類だ。
「な、なによこれ! 無効よ無効!」
 リサがディランの手にある紙を奪い取る。
 
 ディランがふふふ、と笑う。
「それが無効じゃないことぐらい、自分がよくわかってるでしょう?」
 リサはギリギリと奥歯を噛む。
 この結婚誓約書は、リサが開発に関わった魔導具だからだ。
 偽造されることがない結婚誓約書。
 それが、リサの一番の売りだった。

 身売りのような結婚を強要される人間が減るように、との願いで作られたものだ。
 実際、この結婚誓約書ができてから、形ばかりの身売りのような結婚は減ったと言われている。

「どうして、こんなものがあるのよ!」
 こんなものあるわけがない。
 そうリサは思う。
 そもそもリサはディランには婚約者がいるとずっと聞かされていたのだ。
 リサがディランと結婚したいと思っていた事実もない。

 この婚約誓約書は、お互いに結婚の意思を確認した二人が書き込める誓約書だ。
 そして王の承認が必要で、申請して2ヶ月は待つ書類のはずだ。
 そう、2か月前には作られている書類のはずなのだ。だが、リサには全く覚えがなかった。
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