女子力低くて何が悪い

三谷朱花

文字の大きさ
上 下
14 / 83

14

しおりを挟む
「私は、一緒に暮らすとか結婚するとかには同意してません」
「え? だって、資産運用の相談に乗ってくれるんですよね」

 アリーナは頭の中でライの言った言葉を3回ほどリピートする。リピートして、その言葉にアリーナが言った言葉と違う言葉が混ざっていないことを確認して、ようやく頷く。

「そうです。資産運用の相談に乗る“だけ”ですよ。私が約束したのはそれだけです」
「二言はないと言いましたよね」

 確かに言ったな、とアリーナはライの言葉に頷かざるをえない。

「言いましたけど、それが何でそんな解釈になるんですか」
「私も誰彼ともなく自分の財産を教えようというつもりにはなりませんから。結婚する相手にしか自分の財産を明か
したくはない。したがって、私が財産を明かす相手は、結婚する相手、と言うことになります。アリーナはさっき二言はないと言いましたね? そのうえで、私の料理を食べる対価の代わりに私の資産運用の相談に乗ってくれると言いましたよね? つまり、私の資産運用の相談に乗ってくれるってことは、私と結婚する、と言っていることになります」

 アリーナは愕然とする。どうしてそんな理論がまかり通るんだと。

「それは…詭弁じゃないですか」
「どこが? アリーナは二言はないと言いましたよ」
「確かに言いましたけど」
「言質はとりましたから。パレ侯爵にも結婚のご挨拶が無事にできそうですね」

 ライの言葉に、怒りに打ち震えるアリーナはとっさに言葉が出ない。
 逡巡している中で、さっき思い出したことを思い出して、もう一度伝えることにする。

「私の料理の腕は最悪だけど、掃除も洗濯もまともにできないの。だから、結婚するのは無理よ」

 言い終わって、ようやくこれで結婚の話はなくなるとほっとしたのは、ほんの一瞬だった。

「そんなの私がすればいいだけの話でしょう? 時間が取れそうになければハウスキーパーを頼んでもいいんですし。」

 あの整ったライの部屋は、ライの手により整えられていたらしいと気付いて、それに加えてハウスキーパーを雇えばいいと簡単に言われて、アリーナは反論する言葉を失った。
 ライの方がアリーナよりも数段上手だった。
 アリーナに足りなかったのは、具体的な念押しと、ライへの完璧な警戒心だ。


****


 アリーナ現実逃避から戻ってみると、応接間のソファーに…なぜかライに横抱きにされたまま座ることになっていた。向かいのソファーには、アリーナの父と母と兄が座っている。アリーナは今の格好に不満があったが、ライに何を言っても変わらないと諦めて、そのままにすることにした。疲れたら降ろしてくれるだろうと踏んで。

「本当にいいんですか? …うちの妹、料理が…。」
「ダニエル、黙りなさい」

 正直なことを告げようとしただろうアリーナの兄を、アリーナの母が睨んで止める。アリーナの両親は、アリーナがダミーの料理を提出しライをつってきたと思っているからだ。

「いえ、アリーナ嬢は、ご自分が作った料理を提出されてましたよ」

 ライの爆弾投下に、アリーナの両親は目をむいて、その後アリーナを見た。

「アリーナ? どういうことなの」
「あのパーティーは自分の作った料理を出すルールだったと思ったんだけど」
「…あれを出したって言うの」

 アリーナの母は、信じられないという表情でアリーナを見ている。

「ええ。お母さまの作って下さった料理は、運営の方たちへの差し入れにしておいたわ」

 アリーナがにっこり笑えば、アリーナの両親の表情はひきつる。

「あれを…。」

 アリーナの父が頭に手を置いて天を仰ぐ。

「…アリーナ、どうやってライ殿と…?」

 ダニエルが恐る恐るという風にアリーナに尋ねる。

「私がアリーナ嬢を見初めたんです」

 アリーナの代わりにライが答える。ライの笑顔に、アリーナの母が見ほれる。ライの腕は大事そうにアリーナを抱えなおした。
 肝心のアリーナは、とりあえず、げそっとなった。話を合わせてくれたのはありがたいが、演技が過剰すぎる。

「…あの料理を…選んだってことかね」

 アリーナの父の信じられないという言葉に、ライは首を振る。

「いえ。おいしそうに料理を食べているのを見て、つい番号ではなくてアリーナ嬢の名前を書いてしまったんです」
「…アリーナ?」

 くれぐれも料理を食べて回らないように言われていたアリーナは、つい、と母から目を逸らした。

「それで、アリーナもライ殿を選んだ、ってことかね」
「違うわ。私は料理の番号を書いただけよ。…それが、ライ様の料理だったらしいわ」
「料理の番号を書いた…? ライ殿の…料理?」

 気持ちを口にできたのはアリーナの父だけで残りの二人は口をパクパクさせたまま固まる。

「アリーナ、パーティーに行けと言ったのは私たちだし…まあ小細工をしたのも私たちだ。だが、あのパーティーのルールを無視するようなことは…。」

 力尽きたようにアリーナの父の言葉は途切れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

恋愛
 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?

ふゆ
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。 衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得! だけど……? ※過去作の改稿・完全版です。 内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

処理中です...