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教員室にて

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 ざわめいている教員室の中の視線が、自分に向かっていることをグリーンは実感せずにはいられなかった。
 目の前には、アリスとハースがいる。

 さっきグリーンがハースと関わらないと心に決めてから、1時間はたった。
 そのハースが、アリスにつれられて目の前にいた。
 そして、申し訳なさそうに頭を下げている。

「先生をからかったりして、申し訳ありませんでした」
 頭を下げるハースに、アリスがコクリとうなずく。
「から、かう?」
 首をかしげたグリーンの顔を、アリスが見た。
「先生の……あの……先生の恋愛対象の話です」
 言いづらそうなアリスの説明に、グリーンは、ああ、と頷いた。

「……そうか、からかっていたのか」
 グリーンには怒りは沸いてこなかった。ただ、勘違いされていなかったという事実にホッとした。
「どうして、そんなことを?」
 グリーンは、落ち着いた声でハースに問いかけた。

 ハースが顔をあげた。その顔は、沈んでいる。きっと反省しているんだろうと、グリーンには思えた。
「アリスとの時間を邪魔されたくなかったんです」
 グリーンは呆れる。ハースは1にアリス、2にアリス、3、4もアリスで、5もアリスだ。アリスのことしか考えていない。正にアリスバカだ。

「学院にいる以上は、仕方ないんじゃないかな」
「ええ。反省しています。学院は勉強をするための場所でした」
 ハースが頷く。
 こうやって生徒が気付きを得て成長していく、グリーンは今、その場面を目の当たりにしている。教師としての喜びだ。

 が、グリーンはふと思った。
「もうすぐ3年生が終わるわけだが、今までは?」
 素朴な疑問だった。ハースは学院の3年生だ。もうすぐ卒業する。
 ある意味、今さらな反省だった。

「どの先生も、何もおっしゃらなかったので」
 しれっとハースが告げた。
 グリーンは周りを見回した。どの教員も、グリーンと目を合わせようとしなかった。教員室に顔を出していた学院長など、わざとらしく窓の外を見ていた。

 グリーンは悟る。どの教員も、ハースの手によって何らかの目に遭って、ハースをそっとしておく、という結論に至ったのだと。だからこその、あの忠告だ。
 グリーンは決意した。
「ハース君、私はおかしいことはおかしいと注意するからね。卒業まで覚悟しておきなさい。今日はもういいから帰りなさい」
 ハースが神妙に頷いた。

「アリス君、よく私がからかわれてるって気がついてくれたね。ありがとう」
 アリスが申し訳なさそうに頷いた。
「さすがに3年連続で担任の先生が倒れていますので、もしかしたらって思ったんです」
 ん? とグリーンは思う。

「グリーン先生。ハースはきちんとやればできるはずなんです。だから、気がついたら注意してあげてください。では、失礼します」
 アリスはそう言って、ペコリと頭を下げると、ハースを連れて教員室を出ていった。
 グリーンに向けられていたはずの視線が一斉に外れる感覚がした。

 グリーンは周りを見回す。
 誰も目を合わせてくれなかった。
 学院長など、すでに教員室から消えていた。
 
 グリーンは思う。
 もしかしたらとんでもない宣言をしてしまったのかもしれないと。
 とりあえず、アリスを味方につけよう、と、心に誓った。
 それが、グリーンがアリスバカに勝てる唯一の方法だと思うのだ。
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