6 / 49
オマケ
しおりを挟む
ハースはカリカリとペンを走らせていた。
「今日は5時に入浴、と」
ハースはこの学園に来てから始めたアリス観察日記を書いている最中だ。
アリスが困ったように窓の外をみて、窓をあけた。
「ねえ、ハース。ここが女子寮だって知ってる?」
ハースは女子寮の1階の窓の外に立っている。言わずもがな、アリスの部屋の外だ。
そしてアリスは入浴のための用意をして部屋を出ていくところだった。
ハースは真顔で頷く。
「ああ、知っているとも」
アリスは大きなため息をついた。
「ここは、女子寮なの。男子が入ってはいけない場所だと思うんだけど?」
「大丈夫だ。寮長は許可してくれている。ついでに学園長も」
アリスは唖然とした。
アリスとハースがこの学園に来たのは昨日。
そして、ハースが堂々と女子寮の外から覗きだしたのは、今日のことだ。
信じられるわけがなかった。
「ど、どこにそんな証拠があるのかしら?」
アリスの声は、呆れている。そんな証拠がないと自信があった。
「ここに」
ハースが書き付けていた手帳の一番前のページを開いた。
そこには、学園長と寮長のサインが確かにあって、アリスの行動観察に限って女子寮敷地内への侵入を許可する、と書いてあった。
「そ、そんな用意周到に偽装するなんて、たちが悪いわ!」
アリスの声は、怒りのためかわなわなと震えている。
が、ハースは真顔で首を横にふった。
「本当のことだよアリス。アリスの部屋が他の女子たちの部屋が見えない角部屋になったのも、私が学園に来るより前に学園長と寮長に頼んでおいたからだよ?」
え、とアリスの声が漏れた。
「どういうこと?」
アリスには全く意味がわからなかった。
「大丈夫だよ、アリス。学園長も寮長も俺たちの邪魔はしないから」
にっこりとハースが笑った。
「いえ、そういうことではなくて。どうして二人があなたの頼みをすんなりと聞くの?」
アリスは真顔で突っ込んだ。ハースは普通の貴族令息であり、特にえこひいきされるような条件もない。
「ちょっと脅しただけさ」
アリスは、遠くを見た。
嘘だとは、否定ができそうな気がしなかったからだ。
ハースは時折、未来を透視するようなことを口にする。その能力を以てして二人の秘密を握ったのだと言っても、おかしくはないように思えた。
「……だとしても、ここまで入ってくるのはやりすぎだわ」
「でも、詳細に書かなければ、アリスが何もしていない証拠にならないだろう?」
アリスはため息をついた。
「私をおとしめようとする人が来るのは、あと2年後の話じゃなかったかしら?」
ハースは首を横にふる。
「アリスの行動パターンを知る必要があるから」
これまでの自分へのハースの執着具合を知っているアリスは、諦めのため息をついた。
トントン、とドアがノックされた。アリスはドキリとする。仲良くなったケリーと一緒に寮の風呂に行こうと話していたのだ。
「ハース、もう行って?」
「いや、ここで待っておく」
「ケリーに見られたら困るから!」
アリスが焦っているにもかかわらず、ハースは飄々としている。
「ハース!」
心配した声を出すアリスに、ハースが嬉しそうに笑う。
「笑っている場合じゃないのよ!」
「大丈夫さ、アリス。この事は、アリスと仲良くなった人間は皆知っているから」
え、とアリスが声を漏らしたとき、そっとドアが開いた。
「アリス、いる?」
ケリーがドアの間から顔を覗かせ、その視線が部屋のなかを動く。
そして窓の外にいたハースで止まった。
アリスはまずい、と思う。
が、ケリーは、目をぱちくりとしただけで、叫びだしはしなかった。
「本当に観察しに来るのね」
どうやら本当に、アリスが仲良くなった人には伝えてあるらしい。
「アリスの婚約者って、情熱的ね!」
ケリーの言葉に、アリスは脱力した。
そして、ハースのアリスへの執着ぶりが学園生のほとんどに知れ渡るのには、それほど時間はかからなかった。
「今日は5時に入浴、と」
ハースはこの学園に来てから始めたアリス観察日記を書いている最中だ。
アリスが困ったように窓の外をみて、窓をあけた。
「ねえ、ハース。ここが女子寮だって知ってる?」
ハースは女子寮の1階の窓の外に立っている。言わずもがな、アリスの部屋の外だ。
そしてアリスは入浴のための用意をして部屋を出ていくところだった。
ハースは真顔で頷く。
「ああ、知っているとも」
アリスは大きなため息をついた。
「ここは、女子寮なの。男子が入ってはいけない場所だと思うんだけど?」
「大丈夫だ。寮長は許可してくれている。ついでに学園長も」
アリスは唖然とした。
アリスとハースがこの学園に来たのは昨日。
そして、ハースが堂々と女子寮の外から覗きだしたのは、今日のことだ。
信じられるわけがなかった。
「ど、どこにそんな証拠があるのかしら?」
アリスの声は、呆れている。そんな証拠がないと自信があった。
「ここに」
ハースが書き付けていた手帳の一番前のページを開いた。
そこには、学園長と寮長のサインが確かにあって、アリスの行動観察に限って女子寮敷地内への侵入を許可する、と書いてあった。
「そ、そんな用意周到に偽装するなんて、たちが悪いわ!」
アリスの声は、怒りのためかわなわなと震えている。
が、ハースは真顔で首を横にふった。
「本当のことだよアリス。アリスの部屋が他の女子たちの部屋が見えない角部屋になったのも、私が学園に来るより前に学園長と寮長に頼んでおいたからだよ?」
え、とアリスの声が漏れた。
「どういうこと?」
アリスには全く意味がわからなかった。
「大丈夫だよ、アリス。学園長も寮長も俺たちの邪魔はしないから」
にっこりとハースが笑った。
「いえ、そういうことではなくて。どうして二人があなたの頼みをすんなりと聞くの?」
アリスは真顔で突っ込んだ。ハースは普通の貴族令息であり、特にえこひいきされるような条件もない。
「ちょっと脅しただけさ」
アリスは、遠くを見た。
嘘だとは、否定ができそうな気がしなかったからだ。
ハースは時折、未来を透視するようなことを口にする。その能力を以てして二人の秘密を握ったのだと言っても、おかしくはないように思えた。
「……だとしても、ここまで入ってくるのはやりすぎだわ」
「でも、詳細に書かなければ、アリスが何もしていない証拠にならないだろう?」
アリスはため息をついた。
「私をおとしめようとする人が来るのは、あと2年後の話じゃなかったかしら?」
ハースは首を横にふる。
「アリスの行動パターンを知る必要があるから」
これまでの自分へのハースの執着具合を知っているアリスは、諦めのため息をついた。
トントン、とドアがノックされた。アリスはドキリとする。仲良くなったケリーと一緒に寮の風呂に行こうと話していたのだ。
「ハース、もう行って?」
「いや、ここで待っておく」
「ケリーに見られたら困るから!」
アリスが焦っているにもかかわらず、ハースは飄々としている。
「ハース!」
心配した声を出すアリスに、ハースが嬉しそうに笑う。
「笑っている場合じゃないのよ!」
「大丈夫さ、アリス。この事は、アリスと仲良くなった人間は皆知っているから」
え、とアリスが声を漏らしたとき、そっとドアが開いた。
「アリス、いる?」
ケリーがドアの間から顔を覗かせ、その視線が部屋のなかを動く。
そして窓の外にいたハースで止まった。
アリスはまずい、と思う。
が、ケリーは、目をぱちくりとしただけで、叫びだしはしなかった。
「本当に観察しに来るのね」
どうやら本当に、アリスが仲良くなった人には伝えてあるらしい。
「アリスの婚約者って、情熱的ね!」
ケリーの言葉に、アリスは脱力した。
そして、ハースのアリスへの執着ぶりが学園生のほとんどに知れ渡るのには、それほど時間はかからなかった。
11
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ悪役令嬢は僕の婚約者です。少しも病んでないけれど。
霜月零
恋愛
「うげっ?!」
第6王子たる僕は、ミーヤ=ダーネスト公爵令嬢を見た瞬間、王子らしからぬ悲鳴を上げてしまいました。
だって、彼女は、ヤンデレ悪役令嬢なんです!
どうして思いだしたのが僕のほうなんでしょう。
普通、こうゆう時に前世を思い出すのは、悪役令嬢ではないのですか?
でも僕が思い出してしまったからには、全力で逃げます。
だって、僕、ヤンデレ悪役令嬢に将来刺されるルペストリス王子なんです。
逃げないと、死んじゃいます。
でも……。
ミーヤ公爵令嬢、とっても、かわいくないですか?
これは、ヤンデレ悪役令嬢から逃げきるつもりで、いつの間にかでれでれになってしまった僕のお話です。
※完結まで執筆済み。連日更新となります。
他サイトでも公開中です。
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中
病弱な従妹を理由に婚約者がデートをドタキャンするので、全力で治療に協力します!
灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
ピルチャー伯爵令嬢カトレアは、アンダーソン伯爵令息リードと二ヶ月前に婚約したばかり。
今日は五回目のデートだが、リードは同居している彼の従妹ミミーの具合が悪いから延期してくれという。
五回のデートで、ドタキャンは五回目。
しかし、カトレアは抗議もせずに心底心配してリードにこう提案した。
「わたくしが全力でミミー様のお身体を治してさしあげますわ!」
だってカトレアは、聖女クラスの治癒魔法術師なのだから!
※10話で終わる予定です。
※タイトル変更しました。
私はあなたの前から消えますので、お似合いのお二人で幸せにどうぞ。
ゆのま𖠚˖°
恋愛
私には10歳の頃から婚約者がいる。お互いの両親が仲が良く、婚約させられた。
いつも一緒に遊んでいたからこそわかる。私はカルロには相応しくない相手だ。いつも勉強ばかりしている彼は色んなことを知っていて、知ろうとする努力が凄まじい。そんな彼とよく一緒に図書館で楽しそうに会話をしている女の人がいる。その人といる時の笑顔は私に向けられたことはない。
そんな時、カルロと仲良くしている女の人の婚約者とばったり会ってしまった…
【完結】どうやら、乙女ゲームのヒロインに転生したようなので。逆ざまぁが多いい、昨今。慎ましく生きて行こうと思います。
❄️冬は つとめて
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生した私。昨今、悪役令嬢人気で、逆ざまぁが多いいので。慎ましく、生きて行こうと思います。
作者から(あれ、何でこうなった? )
【改稿版】婚約破棄は私から
どくりんご
恋愛
ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。
乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!
婚約破棄は私から!
※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。
◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位
◆3/20 HOT6位
短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)
悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです
朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。
この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。
そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。
せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。
どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。
悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。
ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。
なろうにも同時投稿
悪女なら、婚約破棄してくれますか?
ぽんぽこ狸
恋愛
公爵家子息であるクリフフォードの婚約者、レジーナはある目的の為に婚約破棄を目指して悪女を演じていた。
その目的とは、公爵家邸の屋根裏でひっそりと暮らしているクリフフォードの兄であるフェリックスを救い出すという事だ。病弱である彼はこのまま冷遇されいつかは早すぎる死を迎えるだろう。
そんな未来を回避するためにレジーナは今日もクリフフォードに嫌われるために策を打つのだった。
一万文字いかないざまぁです、あっさり読めると思います。暇つぶしにどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる