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「私がここにいるとわかったら、きっと」

 考えたくもない未来に顔を覆う。

「ソシエール男爵は、今それどころじゃないはずよ」

 アンリエット様の言葉に、私は顔を上げた。

「どういうことでしょうか?」
「莫大な借金について調べが進められていて、自分の身を守ることで精いっぱいだと思うわ」
「借金が多いだけではないんですか?」
「お金の流れがきな臭そうよ」
「でも、私がいた頃には、特に問題視はされていなかったと思うんですけど」

 学園で私の悪いうわさは聞いたけど、ソシエール男爵家自体の悪いうわさは耳にしたことはなかった。
 学園で遠巻きにされていたのは、完全に私自身のことだった。

「莫大な借金があると教えてくれたでしょう? それをお父様に伝えたら、何だかおかしいって話になって、結果的に国の調査が入ったの」

 予想もしなかった流れに、涙腺が緩む。

「アンリエット様、ありがとうございます」

 アンリエット様が、微笑んで首を振る。

「フェルナン様に聞いたわ。私の幸せを願ってくれたんでしょう? だから、私も……リヴィアの幸せを手伝いたいと思ったのよ。だから、ラクロワ子爵の申し出を、受け入れて欲しいの」
「でも、子爵にとってのメリットは……」
「アンリエット様に貸しが作れるでしょう。それで十分じゃありませんか?」
「あら。他にもメリットはあるでしょう?」
「美しい娘ができますね」

 ウインクするラクロワ子爵と子供のように言い返すアンリエット様に、脱力する。

「……わかりました」

 私の返事に、二人の顔が向けられる。
 どちらの表情も、ホッとしていた。
 私の幸せを願ってくれる人が二人もいる。
 それだけで、幸せな気分になる。



「そう言えば、アンリエット様」

 子爵を見送って、お仕着せに着替えてきた私は、気になったことを口にした。

「なあに?」
「ソシエール家がお金を投資している先は、ジェローム侯爵家だったのですが……ペラジー様は……」

 マクシム殿下とペラジー様は結婚しているけど影響があるんじゃないのかな。

「そこまで知ってるのね……ジェローム侯爵家はマクシム殿下を王にするためクーデターを企てた罪で、マクシム殿下共々幽閉されてるわ」

 『学園の恋花』のペラジー様の断罪理由は、強制力じゃなかったんだ。

「そこまでわかったんですか?」
「早く決着をつけたいって、頑張ったみたい」
「そういう人がいるのなら、ロビアン王国は大丈夫ですね」

 もっといい国になって欲しい。
 フェルナン様のためにも。
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