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「卒業したら、こんなところから脱出してやるんだから!」

 獣臭い干し肉を噛みちぎりながら、私は小さく呟いて拳を握る。
 私がいるのは、ソニエール男爵家の使用人用の部屋
 にある物置小屋。

 市井から拾われてきて学園に編入した当初は小さくとも一部屋もらえていたんだけど。
 ペラジー様が殿下の新しい婚約者になるんじゃないか、とまことしやかに言われるようになってから、私の扱いはどんどんひどくなっていった。

 義理のお母様曰く、役立たずに与える温情などない、のだそうだ。
 
 ご飯もまともに出てこなくなった。
 この干し肉は、私を不憫に思った使用人たちが、差し入れてくれたもの。
 この干し肉があるだけでもまだマシな方。

 何しろ、ソニエール男爵家は、お金がない。
 ……私に家庭教師などつけれるわけがなかったのだ。

 私を市井から拾ってきたのは、ひとえに、殿下と結婚させるため。
 それ以外に、借金だらけのソニエール家を建て直す方法がない、らしい。
 ――王家のお金を当てにするしかないほどの借金っていかほどなんだろう。
 お父様曰く、大事なものに投資をしたからお金が無くなっただけで、必ずリターンはある、のだそうだ。
 詐欺師に騙されてそう。

 ただ、学園は卒業させてくれるらしい。
 理由の一つは、学費が既に一括納入されてるから。
 こればかりは、学園のシステムに拍手を送りたくなった。
 とりあえず、卒業まではアンリエット様の下でマナーを学ぶことができそうだから。
 そして、もう一つの理由は、お金を持っていそうな貴族か豪商の後妻として、高く売り飛ばすため。

 だから、学園の卒業式のその日に、この国から出奔しようかと思っている。
 流石に国から出てしまえば、ソニエール家には探しに来れるような余裕はないだろうと踏んでいる。

 アンリエット様とフェルナン様の恋が成就するところも、卒業までには見届けられそうだし、十分だ。
 学園では、二人っきりにはなれないアンリエット様とフェルナン様が会話するきっかけを作れるように頑張っている。
 二人が会話しているところを見ると、願いとは別の、自分のあさましい気持ちが揺れてるのが分かって、見てられなくなるんだけど。
 私の出番なんてどこにもないのに、って苦笑しかないけど。
 ”魔法の花”が叶えてくれる結末は、アンリエット様とフェルナン様の幸せだから。
 だから、それでいい。

 滲んだ涙を袖で拭うと、私はまた干し肉を噛みちぎった。
 これからの計画を立てるのに、恋心など不要だ。
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