上 下
15 / 35

15

しおりを挟む
「リヴィア嬢、一体どういうことです?」

 殿下たちから離れて歩き出してしばらくすると、フェルナン様が私の顔を覗き込んできた。

「どういうこと、って。殿下は、私のことはどうでもよくなったようですね。良かったです」
 
 ニコリと笑ってみせると、フェルナン様が首を振った。

「それじゃない。あの花に、”アンリエット様と私の幸せ”を願ったのはなぜです?」
「……だって、二人が幸せになって欲しいからです」

 私の願いは、それだけ。

「なぜ、自分の幸せを願わなかったんです?」

 フェルナン様の問いかけに、はは、と声が漏れる。

「そんなこと全然考えなかったですね。殿下に見つかったら終わりだと思ったから、必死でしたし。でも、殿下の執着が消えたんで、私のことも願ったことになるんじゃないでしょうか?」
「なぜそこまで……」
「言ったじゃないですか。二人に幸せになって欲しいんですって。あー。でも良かったー」
 
 ホッと息をつくと、足元がぐらりと崩れた。

「危ない」

 フェルナン様に支えられて、ドキリと心臓が鳴る。

「ありがとうございます。もう大丈夫です」

 一人で立とうとするけど、フェルナン様はその腕を離してくれそうにもない。

「もう、足が動かないんでしょう?」

 顔を覗き込まれる。
 その瞳には、今までなかった心配をする気配が乗っていた。

「し、しばらくここで休んでいきますから、私のことは気にしないで帰って下さい」

 間近で見つめられて、顔が熱くなる。
 フェルナン様がクスリと笑う。

「道もわからないのに、どうやって森から出るんです? 大人しく、私に背負われなさい」
 
 フェルナン様に地面に座らされた後、しゃがんだ背中を差し出されてしまった。

「淑女として、それはダメな気がします。アンリエット様に悪いです!」
「何でアンリエット様が関係するんです? 森に迷い込んで足をくじいて歩けなくなったと言えばいい。それに淑女は、一人で森に突入したりしないでしょう?」
 
 最後のからかうような口調に、これ以上の断り文句を思いつけなくて、恐る恐るフェルナン様の背中にしがみつく。
 立ち上がったフェルナン様が、後ろを振り向く。
 か、顔が近いです!

「落としたくはありませんから、しっかりとつかまっておいてください」

 ギュッと体を押し付けると、フェルナン様が一瞬止まった。

「やっぱり、重いですよね! ごめんなさい。おります!」
「これでも鍛えているんですよ? 安心して背負われておきなさい」

 フェルナン様が歩き出した。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命2か月なので、好きに生きさせていただきます

青の雀
恋愛
公爵令嬢ジャクリーヌは、幼い時に母を亡くし、父の再婚相手とその連れ子の娘から、さんざんイジメられていた。婚約者だった第1王子様との仲も引き裂かれ、連れ子の娘が後釜に落ち着いたのだ。 ここの所、体調が悪く、学園の入学に際し、健康診断を受けに行くと、母と同じ病気だと言われ、しかも余命2か月! 驚いてショックのあまり、その場にぶっ倒れてしまったのだが、どういうわけか前世の記憶を取り戻してしまったのだ。 前世、社畜OLだった美咲は、会社の健康診断に引っかかり、そのまま緊急入院させられることになったのだが、その時に下された診断が余命2日というもの。 どうやって死んだのかわからないが、おそらく2日間も持たなかったのだろう。 あの時の無念を思い、今世こそは、好き放題、やりたい放題して2か月という命を全うしてやる!と心に決める。 前世は、余命2日と言われ、絶望してしまったが、何もやりたいこともできずに、その余裕すら与えられないまま死ぬ羽目になり、未練が残ったまま死んだから、また転生して、今度は2か月も余命があるのなら、今までできなかったことを思い切りしてから、この世を去れば、2度と弱いカラダとして生まれ変わることがないと思う。 アナザーライト公爵家は、元来、魔力量、マナ量ともに多い家柄で、開国以来、王家に仕え、公爵の地位まで上り詰めてきた家柄なのだ。でもジャクリーヌの母とは、一人娘しか生まれず、どうしても男の子が欲しかった父は、再婚してしまうが、再婚相手には、すでに男女の双子を持つ年上のナタリー夫人が選ばれた。 ジャクリーヌが12歳の時であった。ナタリー夫人の連れ子マイケルに魔法の手ほどきをするが、これがまったくの役立たずで、基礎魔法の素養もない。 こうなれば、ジャクリーヌに婿を取り、アナザーライト家を存続させなければ、ご先祖様に顔向けができない。 ジャクリーヌが学園に入った年、どういうわけか父アナザーライト公爵が急死してしまう。家督を継ぐには、直系の人間でなければ、継げない。兄のマイケルは、ジャクリーヌと結婚しようと画策するが、いままで、召使のごとくこき使われていたジャクリーヌがOKするはずもない。 余命2か月と知ってから、ジャクリーヌが家督を継ぎ、継母とその連れ子を追い出すことから始める。 好き勝手にふるまっているうちに、運命が変わっていく Rは保険です

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

処理中です...