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2話と3話の間の話

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 あ。
 動き出した視界に声を漏らせば、隣でクスリと笑う声がする。

「この車は車高が低くてゴーカートみたいな体感だって言われるよ。どうだい、バイクとはまた違って面白いだろ」
「そう……ですね」
「いつでも乗せてあげるから、声かけて。もちろん、この車だけじゃなくてね」
「あの! 下ろしてもらっていいですか」

 俺は動かない頭でも本能的に危険を察知してシートベルトに手をかける。

「嫌だな。一人の医師として病人をそこらへんへ置いていくとかできるわけないだろう?大丈夫。今日は家まで送っていくだけ」

 今日は!? いやあんた外科だから! 内科じゃないし!
 ひー、と、俺は動かない頭でLINEを送る。
 たとえ不可抗力とは言え、この車に乗ってしまった自分を恨みたい!
 って言うか、この先生何であんなに腕力あんだよ! 熱でふらふらの俺が抵抗できるわけがない!
 何で俺、今日も絶賛Ninjaで来ちゃったんだろ。
 駐輪場とは反対側の主にみんなが使う職員入り口の隣には駐車場があって、その近くにバス停がある。バスで帰ろうとライダースジャケットを着てふらついていた俺は、夜勤明けのこの先生にバッチリ見つかり、この車に押し込まれた。
 そして中から開けようとしてもチャイルドロックをかけられたらしくて開けられない!
 動かない頭でワタワタしてる間に、シートベルトを付けると見せかけて体を触られそうになって慌てて自分でシートベルトをつけた。そして車は動き出した。←今ここ。
 一種の誘拐だと思うんだよ。
 誘拐犯がここにいます!
 この先生の愛車がこんな見た目にかわいい車だとか思ってもなかったから、完全に隣に横付けされた時油断してた!
 なんだろ? 位のほわーとした感想でぼーっと突っ立っとくんじゃなかった。
 俺のバカ。

「でも、家が近いのが残念だね」

 何が残念。コメントできるわけない!

「ここ曲がったら、すぐでしょ?」

 確かそのはず、と俺は頷く。

「いいマンションに住んでるね」

 角を曲がると、へー、と声が漏れた。知ってる。独身の放射線技師が住むにはい物件すぎるよな。

「ここって単身者用?」

 尋ねてくる医師に、早く下ろしてくれ! と念じる。早く解放されたい!
 でもダルさがMAXで、声を出すのも辛い。

「あれ? さっきよりも辛そうだね」

 先生が近づいてくる気配に、絶望を感じているとカチャっとドアが開く音がした。

「すいません、齋藤先生。うちの連れてきてもらって」

 聞き慣れた声にホッとして目を開けると、ちょっと怒った顔の梶山先生がいた。

「うちの……?」

 そう齋藤先生だ。名前すら記憶の彼方にあった先生が、疑問の声を漏らす。

「お前朝出るとき熱ないって言ってただろ。だから休めって言ったのに」

 梶山先生ありがとうと思いながら、俺はコクリと頷く。もう今はこの話に乗るしかない。
 よいしょ、と座席から下ろされて、荷物のようにたて抱きにされる。

「めちゃくちゃ熱でてんじゃねーか。齋藤先生ありがとうございました」

 相手の声が聞こえる前に、ドアが閉められる。

「おー。齋藤先生ショック受けてるぞ。まさか同棲してるとか思わなかったんだろうな」

 その事実はないが、梶山先生の行動と発言で、俺は梶山先生と同棲してことに今なった。……てか、そんなのどうでもいいから早く寝たい。

「て言うか、暑いのにライダースジャケットなんか着てたら目立つしかないだろ。アホだな」
「さむ……くて」
「こんだけ熱出りゃな。タルいんだろ。しゃべんなくていーよ。俺が勝手にしゃべってるだけだし」

 コクンと頷くと、よいしょ、ともう一度上に上げられた。

「俺が居たから良かったものの、居なかったらこっからどうやって家に帰るつもりだったんだか」

 ため息に、自分でも戸惑う。
 咄嗟に梶山先生に頼ることしか思いつかなかった。
 ラインをした相手は有休を取っていた梶山先生で、内容はかなり支離滅裂だったはずだけど、言いたかったことは伝わったみたいだし、幸い家にいたらしく、あまつさえ勘違いさせる演技までしてくれた。
 ついでに荷物みたいに抱えられているけど、どうやら介抱までしてもらえるらしい。
 この土地に同僚以外の知り合いがいない俺にとっては、ありがたいことこの上ない。
 たぶん、俺の選択は、間違ってなかったはずだ。

「本当に仕方のないやつだな」

 あきれた声に心の中でスミマセンと謝りながら、俺は体の揺れに身を任せて、そのまま眠りについてしまった。



 翌朝、俺は奇跡の復活を遂げた!
 梶山先生にメットを借りてタンデムで病院に向かう。
 バイクから降りて二人で職員入り口に行ったら、ニヤニヤした佐崎に遭遇した。

「なるほどそういうことね。昨日心配して家に行ってみたんだけど、人の気配がなくて、行きだおれてるんじゃないかって心配してたけど、余計な心配だったわね」

 うんうん、と頷く佐崎が手を上げて先に歩いていく。
 え、あ、と言い訳を思い付く前に、佐崎が廊下から消える。

「益々誤解されたな」

 クククと笑う梶山先生を俺は情けない気持ちで振り向く。

「どうにかなりませんか」
「知るか。それとさ、齋藤先生を本気で諦めさせたいなら、女の家に行くのが一番効果的だぞ。今更だけどな」

 今更の入れ知恵に、俺は脱力する。
 でも、それを実行するのだって無理だ。
 俺に彼女はいねー。しかもこの職場じゃできそうにねー。
 休みはツーリングか勉強会で消えて行く。
 一体俺にどうやって彼女ができるって言うんだよ!
 しかも、今彼女が欲しいとか、切実に思ってない事実に、自分でも困ってるんだけど。
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