4 / 5
2話と3話の間の話
しおりを挟む
あ。
動き出した視界に声を漏らせば、隣でクスリと笑う声がする。
「この車は車高が低くてゴーカートみたいな体感だって言われるよ。どうだい、バイクとはまた違って面白いだろ」
「そう……ですね」
「いつでも乗せてあげるから、声かけて。もちろん、この車だけじゃなくてね」
「あの! 下ろしてもらっていいですか」
俺は動かない頭でも本能的に危険を察知してシートベルトに手をかける。
「嫌だな。一人の医師として病人をそこらへんへ置いていくとかできるわけないだろう?大丈夫。今日は家まで送っていくだけ」
今日は!? いやあんた外科だから! 内科じゃないし!
ひー、と、俺は動かない頭でLINEを送る。
たとえ不可抗力とは言え、この車に乗ってしまった自分を恨みたい!
って言うか、この先生何であんなに腕力あんだよ! 熱でふらふらの俺が抵抗できるわけがない!
何で俺、今日も絶賛Ninjaで来ちゃったんだろ。
駐輪場とは反対側の主にみんなが使う職員入り口の隣には駐車場があって、その近くにバス停がある。バスで帰ろうとライダースジャケットを着てふらついていた俺は、夜勤明けのこの先生にバッチリ見つかり、この車に押し込まれた。
そして中から開けようとしてもチャイルドロックをかけられたらしくて開けられない!
動かない頭でワタワタしてる間に、シートベルトを付けると見せかけて体を触られそうになって慌てて自分でシートベルトをつけた。そして車は動き出した。←今ここ。
一種の誘拐だと思うんだよ。
誘拐犯がここにいます!
この先生の愛車がこんな見た目にかわいい車だとか思ってもなかったから、完全に隣に横付けされた時油断してた!
なんだろ? 位のほわーとした感想でぼーっと突っ立っとくんじゃなかった。
俺のバカ。
「でも、家が近いのが残念だね」
何が残念。コメントできるわけない!
「ここ曲がったら、すぐでしょ?」
確かそのはず、と俺は頷く。
「いいマンションに住んでるね」
角を曲がると、へー、と声が漏れた。知ってる。独身の放射線技師が住むにはい物件すぎるよな。
「ここって単身者用?」
尋ねてくる医師に、早く下ろしてくれ! と念じる。早く解放されたい!
でもダルさがMAXで、声を出すのも辛い。
「あれ? さっきよりも辛そうだね」
先生が近づいてくる気配に、絶望を感じているとカチャっとドアが開く音がした。
「すいません、齋藤先生。うちの連れてきてもらって」
聞き慣れた声にホッとして目を開けると、ちょっと怒った顔の梶山先生がいた。
「うちの……?」
そう齋藤先生だ。名前すら記憶の彼方にあった先生が、疑問の声を漏らす。
「お前朝出るとき熱ないって言ってただろ。だから休めって言ったのに」
梶山先生ありがとうと思いながら、俺はコクリと頷く。もう今はこの話に乗るしかない。
よいしょ、と座席から下ろされて、荷物のようにたて抱きにされる。
「めちゃくちゃ熱でてんじゃねーか。齋藤先生ありがとうございました」
相手の声が聞こえる前に、ドアが閉められる。
「おー。齋藤先生ショック受けてるぞ。まさか同棲してるとか思わなかったんだろうな」
その事実はないが、梶山先生の行動と発言で、俺は梶山先生と同棲してことに今なった。……てか、そんなのどうでもいいから早く寝たい。
「て言うか、暑いのにライダースジャケットなんか着てたら目立つしかないだろ。アホだな」
「さむ……くて」
「こんだけ熱出りゃな。タルいんだろ。しゃべんなくていーよ。俺が勝手にしゃべってるだけだし」
コクンと頷くと、よいしょ、ともう一度上に上げられた。
「俺が居たから良かったものの、居なかったらこっからどうやって家に帰るつもりだったんだか」
ため息に、自分でも戸惑う。
咄嗟に梶山先生に頼ることしか思いつかなかった。
ラインをした相手は有休を取っていた梶山先生で、内容はかなり支離滅裂だったはずだけど、言いたかったことは伝わったみたいだし、幸い家にいたらしく、あまつさえ勘違いさせる演技までしてくれた。
ついでに荷物みたいに抱えられているけど、どうやら介抱までしてもらえるらしい。
この土地に同僚以外の知り合いがいない俺にとっては、ありがたいことこの上ない。
たぶん、俺の選択は、間違ってなかったはずだ。
「本当に仕方のないやつだな」
あきれた声に心の中でスミマセンと謝りながら、俺は体の揺れに身を任せて、そのまま眠りについてしまった。
翌朝、俺は奇跡の復活を遂げた!
梶山先生にメットを借りてタンデムで病院に向かう。
バイクから降りて二人で職員入り口に行ったら、ニヤニヤした佐崎に遭遇した。
「なるほどそういうことね。昨日心配して家に行ってみたんだけど、人の気配がなくて、行きだおれてるんじゃないかって心配してたけど、余計な心配だったわね」
うんうん、と頷く佐崎が手を上げて先に歩いていく。
え、あ、と言い訳を思い付く前に、佐崎が廊下から消える。
「益々誤解されたな」
クククと笑う梶山先生を俺は情けない気持ちで振り向く。
「どうにかなりませんか」
「知るか。それとさ、齋藤先生を本気で諦めさせたいなら、女の家に行くのが一番効果的だぞ。今更だけどな」
今更の入れ知恵に、俺は脱力する。
でも、それを実行するのだって無理だ。
俺に彼女はいねー。しかもこの職場じゃできそうにねー。
休みはツーリングか勉強会で消えて行く。
一体俺にどうやって彼女ができるって言うんだよ!
しかも、今彼女が欲しいとか、切実に思ってない事実に、自分でも困ってるんだけど。
動き出した視界に声を漏らせば、隣でクスリと笑う声がする。
「この車は車高が低くてゴーカートみたいな体感だって言われるよ。どうだい、バイクとはまた違って面白いだろ」
「そう……ですね」
「いつでも乗せてあげるから、声かけて。もちろん、この車だけじゃなくてね」
「あの! 下ろしてもらっていいですか」
俺は動かない頭でも本能的に危険を察知してシートベルトに手をかける。
「嫌だな。一人の医師として病人をそこらへんへ置いていくとかできるわけないだろう?大丈夫。今日は家まで送っていくだけ」
今日は!? いやあんた外科だから! 内科じゃないし!
ひー、と、俺は動かない頭でLINEを送る。
たとえ不可抗力とは言え、この車に乗ってしまった自分を恨みたい!
って言うか、この先生何であんなに腕力あんだよ! 熱でふらふらの俺が抵抗できるわけがない!
何で俺、今日も絶賛Ninjaで来ちゃったんだろ。
駐輪場とは反対側の主にみんなが使う職員入り口の隣には駐車場があって、その近くにバス停がある。バスで帰ろうとライダースジャケットを着てふらついていた俺は、夜勤明けのこの先生にバッチリ見つかり、この車に押し込まれた。
そして中から開けようとしてもチャイルドロックをかけられたらしくて開けられない!
動かない頭でワタワタしてる間に、シートベルトを付けると見せかけて体を触られそうになって慌てて自分でシートベルトをつけた。そして車は動き出した。←今ここ。
一種の誘拐だと思うんだよ。
誘拐犯がここにいます!
この先生の愛車がこんな見た目にかわいい車だとか思ってもなかったから、完全に隣に横付けされた時油断してた!
なんだろ? 位のほわーとした感想でぼーっと突っ立っとくんじゃなかった。
俺のバカ。
「でも、家が近いのが残念だね」
何が残念。コメントできるわけない!
「ここ曲がったら、すぐでしょ?」
確かそのはず、と俺は頷く。
「いいマンションに住んでるね」
角を曲がると、へー、と声が漏れた。知ってる。独身の放射線技師が住むにはい物件すぎるよな。
「ここって単身者用?」
尋ねてくる医師に、早く下ろしてくれ! と念じる。早く解放されたい!
でもダルさがMAXで、声を出すのも辛い。
「あれ? さっきよりも辛そうだね」
先生が近づいてくる気配に、絶望を感じているとカチャっとドアが開く音がした。
「すいません、齋藤先生。うちの連れてきてもらって」
聞き慣れた声にホッとして目を開けると、ちょっと怒った顔の梶山先生がいた。
「うちの……?」
そう齋藤先生だ。名前すら記憶の彼方にあった先生が、疑問の声を漏らす。
「お前朝出るとき熱ないって言ってただろ。だから休めって言ったのに」
梶山先生ありがとうと思いながら、俺はコクリと頷く。もう今はこの話に乗るしかない。
よいしょ、と座席から下ろされて、荷物のようにたて抱きにされる。
「めちゃくちゃ熱でてんじゃねーか。齋藤先生ありがとうございました」
相手の声が聞こえる前に、ドアが閉められる。
「おー。齋藤先生ショック受けてるぞ。まさか同棲してるとか思わなかったんだろうな」
その事実はないが、梶山先生の行動と発言で、俺は梶山先生と同棲してことに今なった。……てか、そんなのどうでもいいから早く寝たい。
「て言うか、暑いのにライダースジャケットなんか着てたら目立つしかないだろ。アホだな」
「さむ……くて」
「こんだけ熱出りゃな。タルいんだろ。しゃべんなくていーよ。俺が勝手にしゃべってるだけだし」
コクンと頷くと、よいしょ、ともう一度上に上げられた。
「俺が居たから良かったものの、居なかったらこっからどうやって家に帰るつもりだったんだか」
ため息に、自分でも戸惑う。
咄嗟に梶山先生に頼ることしか思いつかなかった。
ラインをした相手は有休を取っていた梶山先生で、内容はかなり支離滅裂だったはずだけど、言いたかったことは伝わったみたいだし、幸い家にいたらしく、あまつさえ勘違いさせる演技までしてくれた。
ついでに荷物みたいに抱えられているけど、どうやら介抱までしてもらえるらしい。
この土地に同僚以外の知り合いがいない俺にとっては、ありがたいことこの上ない。
たぶん、俺の選択は、間違ってなかったはずだ。
「本当に仕方のないやつだな」
あきれた声に心の中でスミマセンと謝りながら、俺は体の揺れに身を任せて、そのまま眠りについてしまった。
翌朝、俺は奇跡の復活を遂げた!
梶山先生にメットを借りてタンデムで病院に向かう。
バイクから降りて二人で職員入り口に行ったら、ニヤニヤした佐崎に遭遇した。
「なるほどそういうことね。昨日心配して家に行ってみたんだけど、人の気配がなくて、行きだおれてるんじゃないかって心配してたけど、余計な心配だったわね」
うんうん、と頷く佐崎が手を上げて先に歩いていく。
え、あ、と言い訳を思い付く前に、佐崎が廊下から消える。
「益々誤解されたな」
クククと笑う梶山先生を俺は情けない気持ちで振り向く。
「どうにかなりませんか」
「知るか。それとさ、齋藤先生を本気で諦めさせたいなら、女の家に行くのが一番効果的だぞ。今更だけどな」
今更の入れ知恵に、俺は脱力する。
でも、それを実行するのだって無理だ。
俺に彼女はいねー。しかもこの職場じゃできそうにねー。
休みはツーリングか勉強会で消えて行く。
一体俺にどうやって彼女ができるって言うんだよ!
しかも、今彼女が欲しいとか、切実に思ってない事実に、自分でも困ってるんだけど。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
犬と猿なカンケイ
わこ
BL
バイトを始めてみたらソリの合わない嫌な野郎と知り合った。
友情さえ結べていない男二人の話。
誤解を生みやすい男×喧嘩っ早い男の出会い。
かつて自サイトに載せていた短編のうちの一つです。
表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
霧のはし 虹のたもとで
萩尾雅縁
BL
大学受験に失敗した比良坂晃(ひらさかあきら)は、心機一転イギリスの大学へと留学する。
古ぼけた学生寮に嫌気のさした晃は、掲示板のメモからシェアハウスのルームメイトに応募するが……。
ひょんなことから始まった、晃・アルビー・マリーの共同生活。
美貌のアルビーに憧れる晃は、生活に無頓着な彼らに振り回されながらも奮闘する。
一つ屋根の下、徐々に明らかになる彼らの事情。
そして晃の真の目的は?
英国の四季を通じて織り成される、日常系心の旅路。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる