34 / 50
ならば⑫
しおりを挟む
国王陛下が、深い溜め息をついて先に口を開いた。
「レナルド殿下は、本日、バール国王の名代としていらっしゃっているのだ」
それって、本当に不味いことになるわ!
バール王国が介入してきたら、計画は上手くいかなくなるかもしれないもの!
「わ、私は、この女の悪事を明らかにしただけではないか……なぜ、処分されなければならないのだ」
「そ、そうよ……」
呆然と呟くファビアン殿下に、私は乗った。
他の言葉を、見つけきれなかった。
「ファビアン殿下は、皇太子としての自覚に欠けているから、そんなことがおっしゃれるのですわ。今、殿下はバール国王の名代を侮辱して、我が国の立場を危うくしているのですわ」
そんなこと言われなくても、私だってわかってるわ!
ファビアン殿下に期待するだけ無駄って、みんなわかっているんでしょ!
「クリスティアーヌ! 一体何を言い出すんだ! わ、私がそんなことをするわけがないだろう!」
「そうよ! 将来国王になろうとするファビアン殿下が、そんなことするわけないわ」
もうどうしたら良いの?!
これじゃ何も打破できないわ! 誰か、誰か助けて!!
「本当に考えなしですのね。ノエリア様共々」
クリスティアーヌ様の溜め息に、ファビアン殿下が顔を真っ赤にして口をわななかせる。私は悔しくて顔が歪んだ。
私は考えているわ!
ファビアン殿下が台無しにしただけよ!
「ファビアン殿下が侮辱したと言うのなら、レナルド殿下の求婚を断ったクリスティアーヌ様もバール国王を侮辱したことになるわ!」
そう言った私は、ふふん、とクリスティアーヌ様に挑戦的な視線を向けた。
とにかく、時間を稼がなければ!
ガンス男爵が来たら、何か手を打てるかもしれないし!
「クリスティアーヌ嬢への求婚は、私個人がしたもので、命令したわけではなく、請うただけだ。それに、私が侮辱されたわけではなくて、クリスティアーヌ嬢は、自分の立場を告げただけだからね。でも、ファビアン殿下の言葉は、明らかに私を侮辱した言葉だ。それに、名代としてここに立っているわけだから、我が国への無礼と考えられるね」
レナルド殿下の言葉に、ショックを受ける。
……レナルド殿下を侮辱したいわけではないの!
私は、あなたのことを慕っているんだから!
「でも、そうか。名代としてバール国王の名前を出せば、クリスティアーヌ嬢は断れなくなるんだろうね」
レナルド殿下がクリスティアーヌ様を見て、楽しそうに微笑む。
嫌よ! レナルド殿下、私を見て!
どうしてクリスティアーヌ様なの!
頭がよくて美しくて、公爵令嬢ってだけじゃない!
私は身分はないけれど、頭がよくて可憐さも備えているわ! 甘えることだってできるわ!
私は悔しくて唇を噛む。
「レナルド殿下、数々のご無礼、申し訳ありません。ファビアンたちの処分は、私に任せていただいてもよろしいでしょうか?」
頭を下げる国王陛下に、レナルド殿下が少し考え込んだ後、クリスティアーヌ様を見た。
「それ相応の処分があれば、私もことを荒立てたくはないのだけれど、クリスティアーヌ嬢は、それでいいのかな?」
レナルド殿下、どうして、クリスティアーヌ様に委ねるの?
「な、なぜ、そんな女に伺いを立てるのです! レナルド殿!」
「ファビアン! 辞めないか!」
憤慨するファビアン殿下を、国王陛下が慌ててたしなめる。レナルド殿下は、ファビアン殿下を冷たく見据える。
ファビアン殿下って、本当に頭が悪いのね!
それに比べて、私のレナルド殿下は素晴らしいのに!
「私は、クリスティアーヌ嬢に尋ねているのです。黙ることが難しければ、私が今処分を決めてもいい。ただ、私を愚弄し、私の愛するクリスティアーヌ嬢を侮辱する発言の数々に対する処分は、とても軽くはないと思いますがね」
レナルド殿下の威圧に、ファビアン殿下が青ざめてうつむいた。
……もう、ファビアン殿下なんてどうでもいいわ!
クリスティアーヌ様がレナルド殿下から国王陛下に顔を向けた。
そうよ。レナルド殿下を見て良いのは、私だけよ!
「国王陛下に、お伝えしたいことがありますの。よろしいかしら?」
「クリスティアーヌ嬢、何だ?」
「長年、ファビアン殿下の妃となるために、ファビアン殿下を拝見してきましたけれど、ファビアン殿下は、次期国王の器としてふさわしくないですわ。ですから、私は、ファビアン殿下の廃嫡を希望いたしますわ」
ファビアン殿下を廃嫡ですって!
会場がどよめく。
めまいがして、私は目を閉じた。
これは、夢よ。
そうよ、夢よ!
私が目を開くと、レナルド殿下が驚いた表情で立っている。
レナルド殿下は……私のために、夢に出てきてくれたのね!
そうよね、バール王国にいるはずのレナルド殿下がここにいるはずないわ!
これは夢よ!
「はい……ちゃく?」
ファビアン殿下の声がかすれている。
ファビアン殿下が廃嫡?
でも、夢だから関係ないわ!
「ええ。ファビアン殿下。廃嫡ですわ」
「はいちゃく……とは、どういうことだ?」
……ほら、やっぱり夢よ!
変な会話だもの!
「レナルド殿下は、本日、バール国王の名代としていらっしゃっているのだ」
それって、本当に不味いことになるわ!
バール王国が介入してきたら、計画は上手くいかなくなるかもしれないもの!
「わ、私は、この女の悪事を明らかにしただけではないか……なぜ、処分されなければならないのだ」
「そ、そうよ……」
呆然と呟くファビアン殿下に、私は乗った。
他の言葉を、見つけきれなかった。
「ファビアン殿下は、皇太子としての自覚に欠けているから、そんなことがおっしゃれるのですわ。今、殿下はバール国王の名代を侮辱して、我が国の立場を危うくしているのですわ」
そんなこと言われなくても、私だってわかってるわ!
ファビアン殿下に期待するだけ無駄って、みんなわかっているんでしょ!
「クリスティアーヌ! 一体何を言い出すんだ! わ、私がそんなことをするわけがないだろう!」
「そうよ! 将来国王になろうとするファビアン殿下が、そんなことするわけないわ」
もうどうしたら良いの?!
これじゃ何も打破できないわ! 誰か、誰か助けて!!
「本当に考えなしですのね。ノエリア様共々」
クリスティアーヌ様の溜め息に、ファビアン殿下が顔を真っ赤にして口をわななかせる。私は悔しくて顔が歪んだ。
私は考えているわ!
ファビアン殿下が台無しにしただけよ!
「ファビアン殿下が侮辱したと言うのなら、レナルド殿下の求婚を断ったクリスティアーヌ様もバール国王を侮辱したことになるわ!」
そう言った私は、ふふん、とクリスティアーヌ様に挑戦的な視線を向けた。
とにかく、時間を稼がなければ!
ガンス男爵が来たら、何か手を打てるかもしれないし!
「クリスティアーヌ嬢への求婚は、私個人がしたもので、命令したわけではなく、請うただけだ。それに、私が侮辱されたわけではなくて、クリスティアーヌ嬢は、自分の立場を告げただけだからね。でも、ファビアン殿下の言葉は、明らかに私を侮辱した言葉だ。それに、名代としてここに立っているわけだから、我が国への無礼と考えられるね」
レナルド殿下の言葉に、ショックを受ける。
……レナルド殿下を侮辱したいわけではないの!
私は、あなたのことを慕っているんだから!
「でも、そうか。名代としてバール国王の名前を出せば、クリスティアーヌ嬢は断れなくなるんだろうね」
レナルド殿下がクリスティアーヌ様を見て、楽しそうに微笑む。
嫌よ! レナルド殿下、私を見て!
どうしてクリスティアーヌ様なの!
頭がよくて美しくて、公爵令嬢ってだけじゃない!
私は身分はないけれど、頭がよくて可憐さも備えているわ! 甘えることだってできるわ!
私は悔しくて唇を噛む。
「レナルド殿下、数々のご無礼、申し訳ありません。ファビアンたちの処分は、私に任せていただいてもよろしいでしょうか?」
頭を下げる国王陛下に、レナルド殿下が少し考え込んだ後、クリスティアーヌ様を見た。
「それ相応の処分があれば、私もことを荒立てたくはないのだけれど、クリスティアーヌ嬢は、それでいいのかな?」
レナルド殿下、どうして、クリスティアーヌ様に委ねるの?
「な、なぜ、そんな女に伺いを立てるのです! レナルド殿!」
「ファビアン! 辞めないか!」
憤慨するファビアン殿下を、国王陛下が慌ててたしなめる。レナルド殿下は、ファビアン殿下を冷たく見据える。
ファビアン殿下って、本当に頭が悪いのね!
それに比べて、私のレナルド殿下は素晴らしいのに!
「私は、クリスティアーヌ嬢に尋ねているのです。黙ることが難しければ、私が今処分を決めてもいい。ただ、私を愚弄し、私の愛するクリスティアーヌ嬢を侮辱する発言の数々に対する処分は、とても軽くはないと思いますがね」
レナルド殿下の威圧に、ファビアン殿下が青ざめてうつむいた。
……もう、ファビアン殿下なんてどうでもいいわ!
クリスティアーヌ様がレナルド殿下から国王陛下に顔を向けた。
そうよ。レナルド殿下を見て良いのは、私だけよ!
「国王陛下に、お伝えしたいことがありますの。よろしいかしら?」
「クリスティアーヌ嬢、何だ?」
「長年、ファビアン殿下の妃となるために、ファビアン殿下を拝見してきましたけれど、ファビアン殿下は、次期国王の器としてふさわしくないですわ。ですから、私は、ファビアン殿下の廃嫡を希望いたしますわ」
ファビアン殿下を廃嫡ですって!
会場がどよめく。
めまいがして、私は目を閉じた。
これは、夢よ。
そうよ、夢よ!
私が目を開くと、レナルド殿下が驚いた表情で立っている。
レナルド殿下は……私のために、夢に出てきてくれたのね!
そうよね、バール王国にいるはずのレナルド殿下がここにいるはずないわ!
これは夢よ!
「はい……ちゃく?」
ファビアン殿下の声がかすれている。
ファビアン殿下が廃嫡?
でも、夢だから関係ないわ!
「ええ。ファビアン殿下。廃嫡ですわ」
「はいちゃく……とは、どういうことだ?」
……ほら、やっぱり夢よ!
変な会話だもの!
30
お気に入りに追加
1,238
あなたにおすすめの小説
いくら何でも、遅過ぎません?
碧水 遥
恋愛
「本当にキミと結婚してもいいのか、よく考えたいんだ」
ある日突然、婚約者はそう仰いました。
……え?あと3ヶ月で結婚式ですけど⁉︎もう諸々の手配も終わってるんですけど⁉︎
何故、今になってーっ!!
わたくしたち、6歳の頃から9年間、婚約してましたよね⁉︎
婚約破棄?はい喜んで!私、結婚するので!
うさぎ鈴
恋愛
婚約破棄?はい喜んで!丁度結婚するから都合いいし?そして少女は一匹の竜とともに精霊王の森へ向かう。それまでに明らかになる真実とは?短編なので一話で終わります。また、小説家になろうでも投稿しています。
【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
もふきゅな
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
陰謀は、婚約破棄のその後で
秋津冴
恋愛
王国における辺境の盾として国境を守る、グレイスター辺境伯アレクセイ。
いつも眠たそうにしている彼のことを、人は昼行灯とか怠け者とか田舎者と呼ぶ。
しかし、この王国は彼のおかげで平穏を保てるのだと中央の貴族たちは知らなかった。
いつものように、王都への定例報告に赴いたアレクセイ。
彼は、王宮の端でとんでもないことを耳にしてしまう。
それは、王太子ラスティオルによる、婚約破棄宣言。
相手は、この国が崇めている女神の聖女マルゴットだった。
一連の騒動を見届けたアレクセイは、このままでは聖女が謀殺されてしまうと予測する。
いつもの彼ならば関わりたくないとさっさと辺境に戻るのだが、今回は話しが違った。
聖女マルゴットは彼にとって一目惚れした相手だったのだ。
無能と蔑まれていた辺境伯が、聖女を助けるために陰謀を企てる――。
他の投稿サイトにも別名義で掲載しております。
この話は「本日は、絶好の婚約破棄日和です。」と「王太子妃教育を受けた私が、婚約破棄相手に復讐を果たすまで。」の二話の合間を描いた作品になります。
宜しくお願い致します。
婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。
久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」
煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。
その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。
だったら良いでしょう。
私が綺麗に断罪して魅せますわ!
令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる