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番外編⑪
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「マリルー。私には王の器があるのかな」
横に立つワルテがぼそりと呟く。
すぐ近くに誰もいないから、ワルテは口に出したのかもしれなかった。
顔を見ると、いつもの精気に満ちた表情が消え、困った顔をしていた。
今日までの間に、ファビアン様の処遇は決定し、ノエリア嬢の処刑は済んだ。
どちらも、皇太子という立場になったワルテに最初に突き付けられた難題だった。
ただ淡々とことを進めているように見えたワルテの姿は、凛としてカッコよかった。
終わった時に一瞬だけ見せた、安堵と共にどっと疲れた表情に、ワルテの気苦労が見て取れた。
そして、今みたいに、私にだけ弱みを見せてくれる姿に、愛おしさがこみ上げる。
私はそっとワルテの手を握る。
「そもそも、この世に王の器なんてあるのかしら?」
私の言葉に、ワルテが片眉を上げる。不思議そうな表情に、私は微笑んでみせる。
「国のために一番考えて動いた人が、王ってことじゃないのかしら?」
ああ、とワルテの表情が緩む。
「そうかもしれない」
「それで言うと、これまではクリスティアーヌ様が王だったってことになりそうだけど」
本当に、クリスティアーヌ様は色々と考えて動いていたもの!
「そうだね。じゃあ、今度は私が一番考えて動く番ってことだね」
ワルテの声に、力が戻る。
「ワルテの隣に居続けるために、私もたくさん考えて動かないと」
私が握っていたワルテの手にも力が入る。
「マリルー。これからもよろしく」
「当然でしょ」
私は自然と笑顔になる。
「じゃあ、初の皇太子とその婚約者としての責務を果たそうか」
ワルテの言葉に、私は勢いよく頷く。
「公務じゃなくても頑張るけれど! だって、クリスティアーヌ様の結婚式だもの!」
「そうだね。バール王国の方たちに、クリスティアーヌ様がどれほど素晴らしいかを伝えるのが、我々の役割かな」
クスクスと笑うワルテに、私も笑いがこぼれる。
「そうね! バール王国の方々にも、クリスティアーヌ様ファンを増やさなきゃ!」
「……留学してた時もやってたけど、まだやるつもりなの?」
少し呆れた表情になったワルテに、私は目を見開く。
「あら。今回は、皇太子の婚約者として、バール王国の貴族との繋がりを作ろうと思ってのことよ?」
実際、留学した時にクリスティアーヌ様のファンになった学院生とは、手紙のやり取りをやっているくらいだし。
きっとこれからも役に立つと思うのだけど?
私の勢いに、ワルテがクスクスと笑う。
「じゃあ、次期王妃の手腕を見せてもらうとするかな?」
「いいわ。しっかり見ておいて!」
ふふふ、と二人で笑いあう。
クリスティアーヌ様の幸せを祈りに、バール王国まではるばるやってくるとは思ったことはなかったし、自分が皇太子の婚約者の立場になるとも思ったことはなかったけれど。
だけど、未来は変えられるし、変わった未来をどう生きるかは、その人次第だもの。
だから、私は私の精一杯をやるだけ。
そして、隣にワルテがいつもいてくれれば、それだけで幸せ。
完
横に立つワルテがぼそりと呟く。
すぐ近くに誰もいないから、ワルテは口に出したのかもしれなかった。
顔を見ると、いつもの精気に満ちた表情が消え、困った顔をしていた。
今日までの間に、ファビアン様の処遇は決定し、ノエリア嬢の処刑は済んだ。
どちらも、皇太子という立場になったワルテに最初に突き付けられた難題だった。
ただ淡々とことを進めているように見えたワルテの姿は、凛としてカッコよかった。
終わった時に一瞬だけ見せた、安堵と共にどっと疲れた表情に、ワルテの気苦労が見て取れた。
そして、今みたいに、私にだけ弱みを見せてくれる姿に、愛おしさがこみ上げる。
私はそっとワルテの手を握る。
「そもそも、この世に王の器なんてあるのかしら?」
私の言葉に、ワルテが片眉を上げる。不思議そうな表情に、私は微笑んでみせる。
「国のために一番考えて動いた人が、王ってことじゃないのかしら?」
ああ、とワルテの表情が緩む。
「そうかもしれない」
「それで言うと、これまではクリスティアーヌ様が王だったってことになりそうだけど」
本当に、クリスティアーヌ様は色々と考えて動いていたもの!
「そうだね。じゃあ、今度は私が一番考えて動く番ってことだね」
ワルテの声に、力が戻る。
「ワルテの隣に居続けるために、私もたくさん考えて動かないと」
私が握っていたワルテの手にも力が入る。
「マリルー。これからもよろしく」
「当然でしょ」
私は自然と笑顔になる。
「じゃあ、初の皇太子とその婚約者としての責務を果たそうか」
ワルテの言葉に、私は勢いよく頷く。
「公務じゃなくても頑張るけれど! だって、クリスティアーヌ様の結婚式だもの!」
「そうだね。バール王国の方たちに、クリスティアーヌ様がどれほど素晴らしいかを伝えるのが、我々の役割かな」
クスクスと笑うワルテに、私も笑いがこぼれる。
「そうね! バール王国の方々にも、クリスティアーヌ様ファンを増やさなきゃ!」
「……留学してた時もやってたけど、まだやるつもりなの?」
少し呆れた表情になったワルテに、私は目を見開く。
「あら。今回は、皇太子の婚約者として、バール王国の貴族との繋がりを作ろうと思ってのことよ?」
実際、留学した時にクリスティアーヌ様のファンになった学院生とは、手紙のやり取りをやっているくらいだし。
きっとこれからも役に立つと思うのだけど?
私の勢いに、ワルテがクスクスと笑う。
「じゃあ、次期王妃の手腕を見せてもらうとするかな?」
「いいわ。しっかり見ておいて!」
ふふふ、と二人で笑いあう。
クリスティアーヌ様の幸せを祈りに、バール王国まではるばるやってくるとは思ったことはなかったし、自分が皇太子の婚約者の立場になるとも思ったことはなかったけれど。
だけど、未来は変えられるし、変わった未来をどう生きるかは、その人次第だもの。
だから、私は私の精一杯をやるだけ。
そして、隣にワルテがいつもいてくれれば、それだけで幸せ。
完
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