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番外編⑥
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「ファビアン」
呼ばれた声に、意識が浮上する。
「寝ていたんですか」
その聞きおぼえのある声の主を、ギロッと睨みつける。
「やることもないのに、何をしておけと言うんだ!」
こんな狭い部屋の中にしかいられないのに、何もやることなどない!
それに、私から皇太子の座を奪った人間が、なぜ私のところに来るのだ!
蔑みに来たのか!?
睨みつけたはずのワルテは、呆れたように肩をすくめた。
「本を読む時間が沢山出来たでしょう?」
「私が本を読むのが嫌いだと知っていて言っているのか!?」
カッと怒鳴りつけるが、いつもの通り、ワルテは動じもしない。
昔から、いけ好かない従弟だった。
だから、バール王国に行っていない間は、本当に心から羽が伸ばせていたのに!
こいつが帰ってきたから、私に不幸が舞い降りたんだ!
「お前さえ帰ってこなければ!」
「くだらないことを言いますね。私がいようがいまいが、同じ道をたどったんじゃないですか」
「そんなことはない! 私はノエリアの言う理想的な国王になれるはずだったんだ!」
ワルテがため息をついて首を横に振った。
「理想的な国王、ですか。しかも、ノエリア嬢の言う、ね……」
私はハッとする。
そうだ、こいつならば、知っているかもしれない!
「ノエリアはどうしている!?」
「知りたいのですか?」
「当然だ! 私の最愛なのだから!」
「彼女のせいで、あなたはこの国をカッセル王国に売り渡す真似をするところだったんですよ?」
「ノエリアの考えでは、そんなことにはならない! むしろ、我が国の後ろ盾になってくれると!」
私の説明に、ワルテが眉を寄せる。
「どういうことですか? 私にはちょっと理解できないんですが」
私はふ、と鼻で笑ってしまった。
ほら、ワルテは、王の器ではないんだ。
「わからないのか? バール王国に対抗する力を、我が国が持てるということだよ!」
「……わかりたくもありませんけど……」
ワルテは目を見開くと口をつぐんだ。
「このアイデアが素晴らしすぎて、驚いているんだろう?!」
「……ノエリア嬢に会いたいんでしょうか?」
なんだ。ワルテもやはり私の言っていることが正しいとわかったのか。
「ああ。そんなこと当然だ。聞くまでもないだろう!」
「では、会わせてあげましょう」
「今すぐ会わせろ!」
だが、ワルテは首を横に振った。
「今ではありません。明日、会わせましょう」
「本当か!?」
「ええ。ただ、約束があります」
「約束?」
私が首を傾げると、ワルテが頷いた。
「ノエリア嬢には会わせますので、そのために縄を切ってほしいのです」
「縄? なんだ。縄を切るだけでいいのか? 構わない。いくらでも切ろう」
私の返事に、ワルテがホッと息をつく。
「やりたがる者はおりませんので、私としても助かります」
やりたがる者がいない?
「ただ縄を切るだけだろう?」
「ええ。切るだけです。ただ、勇気と決断が必要なものですから、やりたがる者が出てきません」
勇気と決断。なるほど。私の王としての器を試そうと言うわけだな。
「なるほど。それは、私以外に適任はおるまい」
「それは、間違いないかと」
ワルテが即座に頷く。
何だ。ワルテは皇太子になる気はなかったのか。
「私は、ワルテを誤解していたようだ」
「そうですか」
「私の側近として使おう」
私の言葉に、ワルテがゆっくりと首を振る。
「私は私のやるべきことがありますので」
案外ワルテは悪い奴ではないのかもしれない。
「それでは、失礼します」
「……おい、私の幽閉は解けないのか!?」
「それは、私の一存ではできませんので」
「それもそうだな」
私の返事に頷くと、ワルテは去っていった。
……ワルテは皇太子ではないわけだしな。
まあいい。
父上も、形上私を叱った形にするしかなかったんだろう。そのうち幽閉は解けるだろう。
いや、明日解けるのか。
そして、明日になればノエリアに会えるんだ!
完
呼ばれた声に、意識が浮上する。
「寝ていたんですか」
その聞きおぼえのある声の主を、ギロッと睨みつける。
「やることもないのに、何をしておけと言うんだ!」
こんな狭い部屋の中にしかいられないのに、何もやることなどない!
それに、私から皇太子の座を奪った人間が、なぜ私のところに来るのだ!
蔑みに来たのか!?
睨みつけたはずのワルテは、呆れたように肩をすくめた。
「本を読む時間が沢山出来たでしょう?」
「私が本を読むのが嫌いだと知っていて言っているのか!?」
カッと怒鳴りつけるが、いつもの通り、ワルテは動じもしない。
昔から、いけ好かない従弟だった。
だから、バール王国に行っていない間は、本当に心から羽が伸ばせていたのに!
こいつが帰ってきたから、私に不幸が舞い降りたんだ!
「お前さえ帰ってこなければ!」
「くだらないことを言いますね。私がいようがいまいが、同じ道をたどったんじゃないですか」
「そんなことはない! 私はノエリアの言う理想的な国王になれるはずだったんだ!」
ワルテがため息をついて首を横に振った。
「理想的な国王、ですか。しかも、ノエリア嬢の言う、ね……」
私はハッとする。
そうだ、こいつならば、知っているかもしれない!
「ノエリアはどうしている!?」
「知りたいのですか?」
「当然だ! 私の最愛なのだから!」
「彼女のせいで、あなたはこの国をカッセル王国に売り渡す真似をするところだったんですよ?」
「ノエリアの考えでは、そんなことにはならない! むしろ、我が国の後ろ盾になってくれると!」
私の説明に、ワルテが眉を寄せる。
「どういうことですか? 私にはちょっと理解できないんですが」
私はふ、と鼻で笑ってしまった。
ほら、ワルテは、王の器ではないんだ。
「わからないのか? バール王国に対抗する力を、我が国が持てるということだよ!」
「……わかりたくもありませんけど……」
ワルテは目を見開くと口をつぐんだ。
「このアイデアが素晴らしすぎて、驚いているんだろう?!」
「……ノエリア嬢に会いたいんでしょうか?」
なんだ。ワルテもやはり私の言っていることが正しいとわかったのか。
「ああ。そんなこと当然だ。聞くまでもないだろう!」
「では、会わせてあげましょう」
「今すぐ会わせろ!」
だが、ワルテは首を横に振った。
「今ではありません。明日、会わせましょう」
「本当か!?」
「ええ。ただ、約束があります」
「約束?」
私が首を傾げると、ワルテが頷いた。
「ノエリア嬢には会わせますので、そのために縄を切ってほしいのです」
「縄? なんだ。縄を切るだけでいいのか? 構わない。いくらでも切ろう」
私の返事に、ワルテがホッと息をつく。
「やりたがる者はおりませんので、私としても助かります」
やりたがる者がいない?
「ただ縄を切るだけだろう?」
「ええ。切るだけです。ただ、勇気と決断が必要なものですから、やりたがる者が出てきません」
勇気と決断。なるほど。私の王としての器を試そうと言うわけだな。
「なるほど。それは、私以外に適任はおるまい」
「それは、間違いないかと」
ワルテが即座に頷く。
何だ。ワルテは皇太子になる気はなかったのか。
「私は、ワルテを誤解していたようだ」
「そうですか」
「私の側近として使おう」
私の言葉に、ワルテがゆっくりと首を振る。
「私は私のやるべきことがありますので」
案外ワルテは悪い奴ではないのかもしれない。
「それでは、失礼します」
「……おい、私の幽閉は解けないのか!?」
「それは、私の一存ではできませんので」
「それもそうだな」
私の返事に頷くと、ワルテは去っていった。
……ワルテは皇太子ではないわけだしな。
まあいい。
父上も、形上私を叱った形にするしかなかったんだろう。そのうち幽閉は解けるだろう。
いや、明日解けるのか。
そして、明日になればノエリアに会えるんだ!
完
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