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番外編⑤

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「ファビアン殿下。いつ、私を婚約者にしてくださいますか?」
 
 学院の中庭で友人達と談笑をしていたら、向かいのベンチで、こてり、とノエリア様がファビアン殿下の体に頭を寄せたのが目に入った。
 あ、あざとい!
 そして、言っていることが意味が分からない!
 ファビアン殿下にはクリスティアーヌ様という婚約者がいるのに!

「ノエリア様、それは、口にしてはいけないことですわ!」

 私はつい、向かいからノエリア様に忠告してしまった。
 私の周りで、あ、という気まずい空気が広がったのがわかる。
 ……ごめんなさい。つい、ついやってしまったの。

「ふふふ。私たちがお似合いだって、誰もがわかるのね」

 ああ。……やっぱり駄目だった。

「ノエリア、今のはそういう意味なのかな?」

 ぱちくりと瞬きをしているファビアン殿下が首を傾げる。……気づいてくれるかしら?

「ええ。そうですわ! ふふ。私たちのこと、学院の皆さまも応援してくださっているのよ」
「そうか。心強いな」
「ち……」

 私の口が友人たちの手によってふさがれる。友人の一人が私の耳に口を寄せる。

「一歩間違えば不敬罪よ」

 んー、んー、と呼吸ができないことを必死で伝えると、友人たちが口から手を離してくれた。
 私は忠告した友人を見る。

「そ、そんなことないわよ。事実を述べているだけだもの!」
「カリマ様、言っても無駄だって、そもそもわかっているじゃない。ノエリア様には言葉が通じないし、ファビアン殿下は理解もしてくださらないわ」
「いえ! 私は今日こそ、ファビアン殿下に理解していただくわ!」

 私が立ち上がると、友人たちに手を引っ張られて、またベンチに座らされる。

「もう無駄よ。二人は二人の世界に入ってしまっているもの」

 目の前のベンチでは、ファビアン殿下とノエリア様が目をそらしたくなるほど、周りを気にもしない様子でいちゃいちゃしていた。
 ……ファビアン殿下、ノエリア様の制服のボタンをはずすのはおやめください……。

 見ていられなくて、私は目をそらす。

「行きましょう」

 友人たちが先に立ち上がって、私を立ち上がらせてくれる。
 私たちは、二人の行動に困っている。
 ……あの人たち、話は通じない上に、恥じらいってものがない!
 私たち……純真な乙女なのに。
 学院の風紀を乱さないでほしい……。
 だけど、そう思っているのは、私たちくらいのものみたい。
 ……クリスティアーヌ様がノエリア様をいじめているって、どうしてみんな信じているのかしら?!
 クリスティアーヌ様は、ずっと来ていらっしゃらないのに!

 クリスティアーヌ様だったら、ファビアン殿下に理解できるように伝えることができるのに!
 私たちには、とてもできやしない。
 誰一人として、あの二人組に言葉を理解させた人はいないのだから。
 ……クリスティアーヌ様、能力の足りない私たちをお許しください。

 完
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