4 / 50
ただし④
しおりを挟む
「確かに、いつもの卒業パーティーは堅苦しいと、卒業生からは不満が出るのは耳にしますけれど」
私が言葉を区切ると、ノエリア様は勝ち誇ったように微笑んだ。
あら、まだ終わりじゃありませんわ。
「この卒業パーティーの意味は、そんなことではありませんのよ。我々学院生が本当の意味での貴族としての仲間入りをするという、お披露目の意味がありますのよ? そして、我々学院生も、貴族としての心構えを、改めて理解するための場が、この卒業パーティーですの」
「そ、それは形ばかりのものだから、意味はないわ!」
否定するノエリア様に、ファビアン殿下がうんうんと同調している。
ファビアン殿下は本気のようで、私はため息をついて首をふった。
「この卒業パーティーでの儀式が、国の成り立つ上で大事なものだと理解されていないのですか?」
「ファビアン殿下の提案は素晴らしいものですわ! その形ばかりの儀式よりも、何倍も!」
「そうだ!」
ノエリア様、本気で知らないのかしら? でも、特に問題があるのは、それに同調しているファビアン殿下ね。
「あれは、いにしえから伝わる、契約ですのよ、ノエリア様、ファビアン殿下。皇太子であるファビアン殿下がご存じないわけではないですよね?」
「だから、形ばかりのものだろう!」
ファビアン殿下、これ、本気で言ってるのかしら?
「あの儀式は、精霊の力を借りているのですよ。学院でも教えられるではありませんか。だからこそ我々学院の卒業生は、王族として貴族として認められるのです。そうやって、国民に対しても存在意義を認められているのです。その儀式を、一体いつされるおつもりですか? 学院生が一堂に会することなど、しばらくはありませんのに」
「し、しばらくすればあるでしょう! そのときに行えばいいのよ!」
「そうだ!」
ノエリア様、気軽に言っていらっしゃるけど、自分の首を絞めることにならないといいんだけれど。もちろん、ファビアン殿下が一番の問題なんですけど。
「その間に、ファビアン殿下の行いで、国民の不満が噴出するようなことがあってもいいと?」
しれっと告げた私の言葉に、ファビアン殿下がギリギリと奥歯を噛み締めている。
「言うに事欠いてそんなことを言い出すなんて! クリスティアーヌ様、先ほどからファビアン殿下に対して不敬ですわ!」
ノエリア様、本気で言ってるのかしら?
「ファビアン殿下の不始末をいつもいつも私がフォローしておりました。ですが、この一年、留学先で伝え聞くファビアン殿下のお噂は、酷いものばかり。心を痛めておりましたが、苦言を呈し、その行いを諫める人間も、行いの尻拭いをする人間も、私以外にはファビアン殿下のお近くにはいらっしゃらないのだということだけが、わかった一年でしたわ」
「ファビアン殿下に尻ぬぐいなど必要ありませんわ! 本当に不敬だわ!」
「わ、私の尻拭いなど、クリスティアーヌ嬢に頼んだこともない!」
ノエリア様もファビアン殿下も、不満そうに私の顔を見る。
「私にファビアン殿下の尻拭いをするようにおっしゃったのは、国王陛下ですわ。ファビアン殿下ではありません」
私が首を横にふると、ファビアン殿下は拳をプルプルと震わせ始めた。
「尻拭いだと?! 嘘を言うな! クリスティアーヌ嬢は私の行いに苦言を呈していただけで、小うるさいだけだった! 私の尻拭いなどしてもいないだろう!」
「そうよ! ファビアン殿下をずっと苦しめていたのは、クリスティアーヌ様よ!」
ファビアン殿下は鈍感だと思っていたけれど、ここまで来ると、芸術的だわ! ノエリア様は、言いがかりが激しすぎて、面白くなってきたわ!
「殿下は気づいていらっしゃらなかったようですが、殿下の発言一つ一つにフォローを入れて、問題が起こらないようにしていたのは私です。この一年は、色々とトラブルを起こしていらっしゃったようですが、全てファビアン殿下の発言のせいだとうかがっております」
「ファビアン殿下のお考えは素晴らしいものよ!」
「そうだ、ノエリアの言う通りだ! この一年、私が言い出し、やったことは、学院の皆に絶大な支持を得ていたのだぞ! 私のアイデアが素晴らしいものだと、この一年で認められたのだ!」
ファビアン殿下は考えなしだと思っていたけれど、本当に少しも考えてもいなかったのね。……ノエリア様も。
「その全てを、学院長の名で中止させられておりますわよね?」
私が知らないとでも思っているのかしら?
目を怒らせただけで絶句したファビアン殿下にホッとしたのも、一瞬のことだった。
「それは、あまりにも素晴らしいアイデアですから、国王になったときに実施してほしいと言う学院長の計らいですわ!」
あまりにも荒唐無稽な説明に、私はノエリア様の顔をじっと見つめてしまう。ノエリア様が、ふふん、と得意気な顔になったのを見て、あまりに呆れすぎて瞬きが止まらなくなる。
「そうだ! ノエリアの言う通りだ! それに、この卒業パーティーも、結局は私の意見が通ったではないか!」
「そうですわ!」
意気揚々と、ファビアン殿下が拳を突き上げ、ノエリア様が大きくうなずく。
「そうだ!」
唐突に会場の一部から声が挙がる。視線を向けると、どうやらファビアン殿下の取り巻きたちだ。
……いつも私が尻ぬぐいする横で、不満そうなファビアン殿下に同調していた人たち。
でも、他には同調するような人たちはいなかった。
さすがに、国王陛下の名前を出されれば、普通はそうだと思いますわ。
……きっと、悪役令嬢って、頭の悪い方たちの尻ぬぐいをする役目なのかもしれないわ。
私が言葉を区切ると、ノエリア様は勝ち誇ったように微笑んだ。
あら、まだ終わりじゃありませんわ。
「この卒業パーティーの意味は、そんなことではありませんのよ。我々学院生が本当の意味での貴族としての仲間入りをするという、お披露目の意味がありますのよ? そして、我々学院生も、貴族としての心構えを、改めて理解するための場が、この卒業パーティーですの」
「そ、それは形ばかりのものだから、意味はないわ!」
否定するノエリア様に、ファビアン殿下がうんうんと同調している。
ファビアン殿下は本気のようで、私はため息をついて首をふった。
「この卒業パーティーでの儀式が、国の成り立つ上で大事なものだと理解されていないのですか?」
「ファビアン殿下の提案は素晴らしいものですわ! その形ばかりの儀式よりも、何倍も!」
「そうだ!」
ノエリア様、本気で知らないのかしら? でも、特に問題があるのは、それに同調しているファビアン殿下ね。
「あれは、いにしえから伝わる、契約ですのよ、ノエリア様、ファビアン殿下。皇太子であるファビアン殿下がご存じないわけではないですよね?」
「だから、形ばかりのものだろう!」
ファビアン殿下、これ、本気で言ってるのかしら?
「あの儀式は、精霊の力を借りているのですよ。学院でも教えられるではありませんか。だからこそ我々学院の卒業生は、王族として貴族として認められるのです。そうやって、国民に対しても存在意義を認められているのです。その儀式を、一体いつされるおつもりですか? 学院生が一堂に会することなど、しばらくはありませんのに」
「し、しばらくすればあるでしょう! そのときに行えばいいのよ!」
「そうだ!」
ノエリア様、気軽に言っていらっしゃるけど、自分の首を絞めることにならないといいんだけれど。もちろん、ファビアン殿下が一番の問題なんですけど。
「その間に、ファビアン殿下の行いで、国民の不満が噴出するようなことがあってもいいと?」
しれっと告げた私の言葉に、ファビアン殿下がギリギリと奥歯を噛み締めている。
「言うに事欠いてそんなことを言い出すなんて! クリスティアーヌ様、先ほどからファビアン殿下に対して不敬ですわ!」
ノエリア様、本気で言ってるのかしら?
「ファビアン殿下の不始末をいつもいつも私がフォローしておりました。ですが、この一年、留学先で伝え聞くファビアン殿下のお噂は、酷いものばかり。心を痛めておりましたが、苦言を呈し、その行いを諫める人間も、行いの尻拭いをする人間も、私以外にはファビアン殿下のお近くにはいらっしゃらないのだということだけが、わかった一年でしたわ」
「ファビアン殿下に尻ぬぐいなど必要ありませんわ! 本当に不敬だわ!」
「わ、私の尻拭いなど、クリスティアーヌ嬢に頼んだこともない!」
ノエリア様もファビアン殿下も、不満そうに私の顔を見る。
「私にファビアン殿下の尻拭いをするようにおっしゃったのは、国王陛下ですわ。ファビアン殿下ではありません」
私が首を横にふると、ファビアン殿下は拳をプルプルと震わせ始めた。
「尻拭いだと?! 嘘を言うな! クリスティアーヌ嬢は私の行いに苦言を呈していただけで、小うるさいだけだった! 私の尻拭いなどしてもいないだろう!」
「そうよ! ファビアン殿下をずっと苦しめていたのは、クリスティアーヌ様よ!」
ファビアン殿下は鈍感だと思っていたけれど、ここまで来ると、芸術的だわ! ノエリア様は、言いがかりが激しすぎて、面白くなってきたわ!
「殿下は気づいていらっしゃらなかったようですが、殿下の発言一つ一つにフォローを入れて、問題が起こらないようにしていたのは私です。この一年は、色々とトラブルを起こしていらっしゃったようですが、全てファビアン殿下の発言のせいだとうかがっております」
「ファビアン殿下のお考えは素晴らしいものよ!」
「そうだ、ノエリアの言う通りだ! この一年、私が言い出し、やったことは、学院の皆に絶大な支持を得ていたのだぞ! 私のアイデアが素晴らしいものだと、この一年で認められたのだ!」
ファビアン殿下は考えなしだと思っていたけれど、本当に少しも考えてもいなかったのね。……ノエリア様も。
「その全てを、学院長の名で中止させられておりますわよね?」
私が知らないとでも思っているのかしら?
目を怒らせただけで絶句したファビアン殿下にホッとしたのも、一瞬のことだった。
「それは、あまりにも素晴らしいアイデアですから、国王になったときに実施してほしいと言う学院長の計らいですわ!」
あまりにも荒唐無稽な説明に、私はノエリア様の顔をじっと見つめてしまう。ノエリア様が、ふふん、と得意気な顔になったのを見て、あまりに呆れすぎて瞬きが止まらなくなる。
「そうだ! ノエリアの言う通りだ! それに、この卒業パーティーも、結局は私の意見が通ったではないか!」
「そうですわ!」
意気揚々と、ファビアン殿下が拳を突き上げ、ノエリア様が大きくうなずく。
「そうだ!」
唐突に会場の一部から声が挙がる。視線を向けると、どうやらファビアン殿下の取り巻きたちだ。
……いつも私が尻ぬぐいする横で、不満そうなファビアン殿下に同調していた人たち。
でも、他には同調するような人たちはいなかった。
さすがに、国王陛下の名前を出されれば、普通はそうだと思いますわ。
……きっと、悪役令嬢って、頭の悪い方たちの尻ぬぐいをする役目なのかもしれないわ。
33
お気に入りに追加
1,232
あなたにおすすめの小説
婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
もふきゅな
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる