【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花

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レイーアの戸惑い⑪

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 レイーアが目を覚ますと、いとおしそうにレイーアを見つめるマットと目があった。
「おはよう、レイーア。よく眠れたかい?」
 おはよう、の挨拶に、レイーアは衝撃を受ける。
 ここがどこか思い出したせいだった。

 レイーアは慌てて起き上がろうとしたが、体は言うことを聞いてくれなかった。
「も、もう、そんな時間なの?」
 レイーアはマットを見上げて、そう尋ねるのが精一杯だった。
 だが、首を横にふったマットに、レイーアはホッと息をつく。

「さすがに、朝は我が家で迎えたいよね。さあ、レイーア帰ろうか?」
 帰る。
 レイーアはその言葉を頭の中で繰り返した。
「今……起き上がれないから……」
 レイーアはとりあえず事実をマットに告げた。

 このベッドの上であったことを思い出して、レイーアは羞恥のために顔を赤くした。
「大丈夫だよ」
 マットの声に、え、とレイーアが声を漏らしたときには、レイーアはふわりとマットに抱き抱えられていた。
 どうやら、レイーアが気を失っている間にドレスを着直させてくれたらしい。

 だが、レイーアはハッとなる。
「待って! せめて自分の足で歩きたいわ!」
 この状況では、ナニをしていたかなんて、一目瞭然の気がしたのだ。
 マットは首を横にふった。
「大丈夫だよ。ヒールが折れたことにすればいいんだよ」
「え、でも……」
 レイーアが戸惑ったまま、マットの足はドアに向かった。

レイーアの戸惑い?
 休憩室を出て、レイーアは「誰にも会いませんように」と祈る。
 何しろ、誰かにこの状況を気づかれるのは、気まずいからだ。
 だが、レイーアの祈りむなしく、他の部屋の扉が開いた音がした。
 ……せめて、知り合いではありませんように。
 それだけが、レイーアの願いだ。

「マディー、帰るのか?」
 だが、聞こえたマットの言葉に、レイーアは固まった。
 よりにもよってマディー。恥ずかしさしかない。

 そこまで考えて、レイーアは気付く。
 マディーが出てきたのは……。
 マディーは休憩しにいくと言っていなかったか?

 レイーアは戸惑う。
 身内のそんな話を知りたくはなかった。
 とりあえずレイーアは誰とも目を会わせないようにしようと決める。

 そして、マディーが何をしていたかなんて絶対考えないでいよう、と思う。
 もちろん、それはマディーに遭遇してしまったレイーアの、精一杯の現実逃避だ。
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