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レイーアの戸惑い⑩

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「ねえ、知っている?」
 疲れからまどろんでいたレイーアは、マットの声にうっすらと目を開く。
「……何を?」
 レイーアの声は掠れている。

「僕がどれ程、レイーアに恋い焦がれていたのかを、だよ?」
 小首をかしげるマットは、いつになくセクシーに見えた。ドキリとしたレイーアは戸惑って、何度もまばたきをする。すると、いつものマットのように見えて、ホッとした。
 そして、レイーアは質問されていたことを思い出した。
「……ごめんなさい。わからないわ」

「僕はもう6年間も、レイーアに恋い焦がれていたんだよ?」
 レイーアは驚きで目を見開いた。
「……ごめんなさい。知らなかったわ」
 6年。その数をカウントして、レイーアは首をかしげた。
「私は高等部で……マットは……」

 マットがにこりと笑う。
「中等部だよ。レイーアに女の子だと間違われてたけど、僕はきちんと中等部の制服を着ていたんだけどね」
 マットの言葉に、レイーアが、あ、と声を漏らした。

「ごめんなさい。……あまり人の顔を覚えたりするのが得意じゃなくて。そう言えば、会ったことがあるのよね?」
 マットは返事の代わりに、クスリと笑った。
「それでもレイーアの記憶の片隅に残っていたってことだけでも、僕は嬉しいよ。あの日々が無駄じゃないってわかったから」

 レイーアは、ぱちぱちとまばたきをした。少々戸惑っていた。
「あの日々?」
「大丈夫だよ、レイーア。レイーアが覚えてなくても、僕はきちんと覚えているから。そのときから今まで、僕は君にずっと恋い焦がれていたってことだよ。もちろん、今もね」
 そして、また始まったキスに、レイーアはさらに戸惑った。
 またキスが深くなると困る、と思ったからだった。
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