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マディー・ガリヴァの憂鬱④

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 今年は夏が近づいてきても、気温は上がってこなかった。
 過ごしやすいかもしれないが、領地の作物の育ちが悪いかも知れないと思う。
 マディーは嫡男なこともあって、領地の作物の育ちが気にかかるのだ。
 窓辺によりかかって、遠くの領地の方向を見る。

「レイーアさんって、好きな人とかいるの?」
 話しかけてきたのは、マットだった。
 マディーはマットの口から比較的まともな質問が出てきたことに、驚いていた。
 マットと出会ってから、2ヶ月ちょっと。
 マットはレイーアに関してはまともな会話が成立しないとマディーは理解していたし、出来る限り質問はスルーすることにしていた。
 答えなくても、マットは勝手に自分の都合のいいように話を持っていくからだ。

 でも、その質問は、もっと前にあってしかるべき質問のような気もするが、相手はマットだ。普通を期待してはいけないのだ。
 ふとマディーは思う。
 いる、と言えばマットは諦めるのかもしれない。
「いる」
 マディーは、言った。言い切った。
「えーっと、誰?」
 普通に会話が成立していることに、マディーはちょっと感動した。

「それは、言えない」
 いると言ったあとで、マットが相手に危害を加えかねないと思ったため、マディーは濁した。実際にいるとは聞いていないし、適当に言った相手が危害を加えられてしまえば、目も当てられない。
「僕たち、友達だろ?」
 潤んだ瞳に見上げられて、マディーは良心が痛んだ。

 だが、違う、と思った。
「いや、ただの同級生だろ」
 マットを友達と認めたくないなにかが、マディーにはあった。
 良心が痛むのも、間違った感覚だ。
 マットが素直にうなずいた。
 マットも案外理解しているらしい。

「レイーアさんは、僕に焼きもちを焼いて欲しいんだね。かわいらしい」
 あ、もう無理かもしれない。マディーは会話が噛み合わなくなったことを嫌でも感じざるを得なかった。
「いや、ただの同級生だって言った」
 それでも、マディーは抗いたい気持ちになった。少なくとも途中までは会話が成立していたような気がしたからだ。

「そうだったね。僕らは友達なんかじゃない。兄弟だ」
 もうマディーはスルーした。やっぱり今日も無理だった。
「レイーアさん、僕のこと考えてくれてるんだね」
 マットがフフ、と天使の笑みを見せる。
 こいつ、やべぇ。
 マットのレイーアに関する思考回路がどうなっているのか、マディーは絶対知りたくないと思った。
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