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四十六話

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 翌日。

 久しぶりのベッドで心行くまで惰眠を貪ろうとしていたら、いつも通りにパンドラが俺の上に乗って居て仕方なく起きる。

 昨日止めろつったのに…なんでやるんだコンニャロウ…。

 パンドラに2,3文句を言ってから朝飯を適当な所で食べようと宿を後にする。

 さてと、何食うかなー? パンドラに飯の相談しても、何が食べたいって答えが返って来ないから相談のし甲斐がねえんだよなあ…。

 朝飯は1日のやる気と元気の活力だ。ガッツリ食って今日も1日頑張りましょう。ところで……。



「あれ? パンドラ、髪型変えた?」



 今日は後頭部で髪を一纏めにしたポニーテールだった。ブロンドの髪を結ぶ藍色のリボンは…うん、まあ使ってくれてるようで何よりです。



「はい。マスターがバリエーションが有れば飽きないと仰ったので」

「まあ、別に毎日は変えんでも良いけどな。パンドラの好きな髪型で過ごしてくれるのが1番良い」

「1番機能的な髪型、という解釈で宜しいでしょうか?」

「ああ…うん、お前の好きの基準ってその辺りにあんのね…」



 さてと、飯食ったら今日はまず冒険者ギルドだな。昨日は結局探してる間に日が暮れて、入るなり「明日出直して来い」と叩き出されたからな。

 この町の冒険者ギルドはかなり小さい。元々こんな山の上にある町には常駐している冒険者も少なく、大した依頼も入らない。そんな事情で支部がかなり小さく、それならいっそ要らないんじゃないかと思うのだが…。まあ、そう言う訳にもいかないらしい。一定以上の規模の町には、冒険者ギルドの支部を設置するのが決まりで、町の方も仕方なくって感じみたい。

 この町の人間は大抵が鉱夫か、その何かしらの関係者だ。どうやら、この手の方達は血の気が多くてそこそこ腕っ節も立つようで、「町を護るのに冒険者なんて必要ねえ!」って感じのスタンスなので、正直冒険者としては肩身が狭い。まあ、それは、どうせ長居する町じゃないからと思って割り切ろう。

 さて、とりあえず飯の食えそうな大衆食堂っぽい店に辿り着いたが…うーん、無駄だとは思うが一応聞いておくか…。



「パンドラ、何食いたい?」

「マスターのお好きな物を」



 本当に相談のし甲斐が無いねえなぁ…。

 結局朝飯は、焼き立てのパンと川魚っぽいのと野菜がゴロゴロしているスープで済ませた。

 焼き立てのパンは美味くて大変喜ばしいのだが、スープの方は全然味が薄いんだよなあ…。素材の味を活かしてますっていうか、素材そのままの味ってか…。って、良く考えればコッチの世界じゃそもそも調味料がまともに無いのか…。塩1つ取ったって、まともに出回ってるか分からねえどころか、製法が確立されてるかも怪しいしな。

 機会が有れば、ちゃんとした調味料探しとかもしてみるか?

 ま、食生活の話は置いといて、だ。飯を食い終わったら次はギルドに向かって……。



「鉱山の中の魔物退治ねえ?」



 何の話かって、冒険者登録時の課題の話。

 パンドラに出された課題が「鉱山の中に出る魔物の討伐」だった。討伐対象はポーン級のみなので戦闘での危険はパンドラならほぼ皆無だろう。だが、最下級の魔物なら腕っ節自慢の鉱夫が勝手に倒しちまうんじゃね? とも思ったが、下手に手を出して怪我でもされたらそれこそ作業が滞るってんで、冒険者の方に話が回って来たらしい。



「問題ないかと」

「戦闘の方の心配はしてねえけど、落盤とかガスが噴き出すとか、なんかそう言うの有るらしいじゃん? 心配してんのはそっちだよ」



 そもそもの話として、素人を鉱山の中に入れるってのがどうなのよ? 一応魔物が出るエリアまでは案内が付くらしいけど、そう言う話じゃねえだろうよ。洞窟内の戦闘だって一般人に毛が生えた程度の“冒険者の卵”には辛過ぎないか? そりゃ、普通の職についてる人間と比べれば、冒険者なんて一山幾らの価値しかねえのかもしれんけどさ…。



「本当に1人で大丈夫か?」

「はい。マスターに助けて貰うのはルール違反ですので」



 そりゃあ、パンドラの冒険者適正を図る課題で俺が手を出すのは反則だけど…。



「着いて行くだけなら良いんじゃね?」

「マスター」

「冗談だよ。大人しく町の中で待ってるよ」

「はい。では、行ってまいります」

「おう、気ぃ付けてな」



 ペコっと1度頭を下げると、村の奥にある鉱山の入り口の入って行く。

 トロッコの線路の先が暗闇に続いて不気味だな。まあ、パンドラならそんなもんにビビりゃしないから関係ないか。



「さってと、俺は何してよっかなー」



 そうだ、今のうちに俺の武器探してみよう。

 何でも良いっちゃ良いんだが、それでも実際に見てみたらピンっと来る物があるかもしれない。……まあ、買うかどうかは財布と相談してだが…。

 よし、武器屋か鍛冶屋を探してみよう。たしか、昨日冒険者ギルドを探してた時に、どっかの通りで見た気がするんだけど…どこだったかな? まあ、適当に歩いてたら見つかるか。

 町の中を散歩気分で歩く。

 あー、なんか凄ぇノンビリしてんなあ…。思えば、ルディエでの戦闘から先ずっと慌ただしく過ごして来たからな、ゆっくり街中を散歩するなんて久しぶりだ。

 鼻歌交じりに歩いていると、例の黒い棒ことオーバーエンドの剣の刺さった広場に辿り着いた。

 広場には人が少ない。時間的にはまだ朝だし、そりゃあ大黒柱は働きに行って、主婦は家事をしてるか。

 もうちょっと近くで見てみよう。

 近付くにつれて、黒い棒が確かにボンヤリと剣っぽい輪郭を残しているのに気付く。それに、黒いのは堆積した土や埃で、剣自体が見える部分がどこにもない。

 ふと、何故か「俺なら抜ける」という気分になった。

 試しに抜いてみるか? 冷気食らっても【レッドエレメント】で体温めれば良いし。

 剣まで6m、5、4、3―――、



「坊や、危ないよ!」



 突然グイッと腕を後ろに引っ張られた。

 振り向くと、恰幅の良い初老の女性が俺の腕を掴んでいた。



「はい?」

「何してるんだい! あれは近付いたら危ないんだよ!?」

「らしいですね?」

「何を他人事みたいに! ほら、コッチおいで」



 そのままズルズルと引きずられるように広場の隅にあるベンチに連れて行かれる。



「良いかい坊や? あれはね、大昔に神様がここに突き立てて行ったと言われている剣なんだよ」

「神様がねえ…」



 なんか有りがちな昔話だなあ…。それに加えて選ばれた者しか抜けないってんだから、なおの事である。まあ、実際に突き立ててあそこに放置していったのは、オーバーエンドの持ち主のどっかの誰かなんだけど。



「この町にとっちゃ守り神同然。だから、無暗に近づこうとする者には罰が下るのさ! まったく、若い連中は面白がって見世物にして、いつか痛い目をみるよ」

「お婆―――」

「(ギラリ)」

「―――お姉さんは、あの剣の事詳しいんですか?」

「詳しいって程じゃないさね。この町に住んでる人間なら皆知ってる。でも、まあ罰当たりなのは私達も一緒かねえ」



 くたびれたように溜息を吐いてベンチに腰を下ろす。



「名前を皆忘れてしまったんだよ」

「名前って、あの剣の名前?」

「そう。昔はあの剣には確かに名前が有った筈なのに、長い長い年月がこの町からその名前を忘れさせちまった…守り神だと勝手に称えておきながらさ。ハハっ…この町はいずれその罰が降るかもしれないね」



 不吉な事を真顔で言うのは止めて欲しい。そう言う人間は呼び込んでしまうのだ―――…。



 爆発音



 村の入り口の方で巨大な火柱が上がり、真っ黒な煙が風に流されて町中を満たす。



―――― 本当の災いを





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