魔法学無双

kryuaga

文字の大きさ
上 下
40 / 50
第一章 駆け出し冒険者は博物学者

#36

しおりを挟む
「ようこそ、ハティスの商人ギルドへ。ご用件をお伺いします」



 商人ギルドに到着し、そこの受付窓口で早速用件を口にした。



「商売を始める為、ギルドに登録しにうかがいました」

「かしこまりました。まず主たる事業の内容を教えてください」



「え? そんなことも言わなきゃならないのか?」

「そりゃそうですよアリシアさん。事業の内容次第で当局の扱いが変わるのは当然です」

「どうしてなの? 商売なんて皆同じじゃないの?」

「それはですねセラさん、むしろ普通の商店なら仕入れて売れば良いけれど、料理の腕もない男がいきなり料理屋をやりたい、なんて言ったらどうです? 料理屋と言いながら給仕の女の子に春を売らせて上前うわまえねるとか、単純に悪事に使う為にギルドカードを手に入れて店も出さないとか、そういうことになってしまうかもしれないんです。

 或いは基礎知識もなく薬草屋をやると言い出して、そこらの雑草を病気によく効く薬と偽って高く売りつけるとか。



 商人ギルドのギルドカードは、冒険者ギルドのギルドカードなどと比べて高額な登録料を請求されますが、その分第三者に対する信用は高いんです。『こんな高額の登録料を支払ってまで悪事に加担する筈はない』と。

 一方で魔術師ギルドや鍛冶師ギルド、大工ギルドのように特定の技術を要求される訳でもありませんが、登録すれば出来ることが多くなります。

 悪事に利用したいと思う連中は、だから商人ギルドを選ぶんです。

 商人ギルドも、それを踏まえてその事業を営むに値する知識や技術、或いは経験があるかどうかを確認する必要があるんです」



「昨日まで商人ギルドを知らなかったくせに、どうしてそんなに詳しいんだ?」

「知識としてはありました。ただ、何処まで厳密に対応するのかは知りませんでした。

 質の悪いギルドだと、相手の素性も確かめずにギルドカードを発行することもある筈ですから、こちらの窓口の方の最初の一言で、このギルドは厳正に商人たちを管理していることがわかったんです」



「お褒め戴き光栄の至り。

 私としても、説明の手間が省けて助かります」

「いえこちらこそ。こちらの知識は書物から得た知識に過ぎません。間違っていたら正してくださると助かります。



 で、ギルドからの確認事項についてですが、



 商会名:『セラの孤児院』

 店舗所在地:ハティスの街南区画『セラの孤児院』内

 事業内容:1.服飾事業の下請け・卸、2.食肉加工の下請け・卸、3.動物由来素材の卸、4.魔獣由来素材の卸、5.薬草・香草の卸・小売り、6.特定燃料等の製造・販売、7.学校事業、8.その他前各号に附帯する一切の事業

 役員:セラ、アリシア、アレク

 代表役員:セラ

 出資者:アレク



 事業内容一覧の裏書きは、服飾事業に関しては【ミラの店】、食肉加工に関しては【テッドの食肉店】、動物由来素材・魔獣由来素材に関しては冒険者ギルド、薬草・香草等に関しては【ナラク婆の薬草店】、特定燃料等に関しては鍛冶師ギルド、がそれぞれ行ってくれる筈。学校事業に関しては裏書を頼める相手がいないから、事業を本格的に開始する際は監査の対象になることを承諾する。



 会計報告は年一回。年が明けて、月が二巡りしたふたつき後。最初の会計報告はカナン暦698年春の二の月末。

 役員の解選任等は役員会で決議の後ギルドに登録することを以て効力を発する。



 ……こんなところですか?」



「……色々と聞きたいことが出てきましたが、取り敢えずこちらから確認しなければならないことは全部入ってますね。

 実際役員の解選任等の規定を報告する商人などいませんし、事業内容の裏書なども特殊な場合しか求めませんよ。

 あ、でも冒険者ギルドと鍛冶師ギルドの両方を裏書人に指名するってことは、それらのギルドにも登録なさっているんですか?」

「あ、そうでした失礼しました。こちらが冒険者ギルドのギルドカード、こちらが紹介状です。鍛冶師ギルドは純粋な取引相手であってギルドメンバーではありません。ギルドマスターにアレクの名で問い合わせれば確認が取れると思います。またここで挙げている特定燃料等は鍛冶師ギルドの秘匿事項に関わってきますので、詳細は鍛冶師ギルドに問い合わせ願います」



「ギルドカードと紹介状を預かります。おや、銅札Cランクですか。

 事業形態は……基本的に卸売りですね。市場に店舗を持ちますか?」

「今日昇格したばかりですけどね。いえ店舗は必要ありません。薬草等の小売りに関しても、冒険者相手を想定していますから」



「わかりました。

 それから、会計報告が春の二の月となっていますが、当ギルドでは春の三の月までとなっていますので、それほど急がなくて大丈夫です。



 それから、会計士――会計帳簿作成担当者――をギルドから派遣することになりますが、指名はありますか?」

「必要ありません。これが予測最初事業年度収支報告書、これが事業開始時点財産内容報告書、これが開業準備期間仕訳帳でこちらが同期間総勘定元帳です」

「……確かに、ギルドの様式に似ています。確認させていただいても宜しいですか?」

「はい、提出用に持参したものです」



「ですが貴方自身についても確認する必要がありますね。アレクさん、貴方はどの商人からこれを学びましたか?」

「誰からも」

「そんな筈はないでしょう? だってこれは……」

「商人ギルドの秘儀、ですか?」

「そうです。門外不出の秘術です。それを知っている貴方は一体」

「先程事業内容の説明で、鍛冶師ギルドの秘匿事項を扱う、と私は申し上げました。

 その件も同様に鍛冶師ギルドで問題になりました。だから鍛冶師ギルドと同様のやり方で返事をしましょう。



 先程、私の作った帳簿書類をギルドで確認する、とおっしゃいましたね。

 存分に精査してください。おそらく、貴方がたの知らない単語や用語、知らない計算方法や概念が出てくる筈です。

 知識というモノは、それを教えた誰かより多く蓄えることは出来ません。

 商人ギルドが知らない知識は、即ちギルド以外の場所で生まれた知識ということです。

 帳簿の書き方が商人の秘匿事項だというのなら、商人が知らない帳簿の書き方について『知的所有権』を主張したいですね。



 はっきり申し上げまして、商人ギルドと喧嘩するつもりはありません。寧ろ、私の帳簿の書き方で気になることがありましたら聞きに来てください。吸収したいことがあったら学び取ってください。

 私もまた、ギルドの商人たちのやり方を学びたいと思っています。

 お互いに知識を交換しながら、より優れたものを生み出すべきではありませんか?」



「わかりました。ではこれらの書類は預からせていただきます。

 それから、『セラの孤児院』に対するギルドカードの発行は、これら書類の確認が終わるまで留保させていただくことになりますが、ご理解願います」

「当然ですね。では知識に関する裏書人として、【リックの武具店】のシンディさんを指定します」

「かしこまりました」



 そして、冒険者ギルドのギルドカードは返却され、三日後の来訪を予約して商人ギルドを退去することになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...