転生したらぼっちだった

kryuaga

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第一章 はじまり

#31

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「マモルお兄さん、今年のお祭りは見て周るんですか?」



 唐突だが、ファスターの街では夏の初めに祭りがある。



 それというのも、この時期になるとオークが大量に繁殖するため、それを狩る冒険者達によってすさまじい量の肉が街に持ち帰られるせいだ。

 酒場や屋台の主達もその全てをいつも通りの値段で買うわけにもいかなく、当然オーク肉の相場は安くなり、冒険者達も別の依頼を受けたい所なのだが、かといって増えすぎたオークを放っておくわけにもいかない。

 森の恵みはすぐに食い荒らされ、獣や魔物を食い滅ぼし、更に数を増して遂には街に攻め入ってくる可能性があるのだ。



 そういった事情もあり、毎年この時期になると肉の買取額が安くなる代わりにオーク討伐の依頼報酬が高くなり、繁殖が落ち着いた頃を見計らって魔術で保管されて溜め込まれた肉を安く放出する『肉祭り』が開催されることになったのだ。

 以前護が受けたオーク討伐の依頼もその一環である。



 当然護がこの世界に来てからも祭りは開催されていた。

 今年で三度目のはずなのだが、一年目は祭りがある事を教えてくれる人がおらず、やけに人が増えてるなー。と思いつつも誰にも聞くことなく当日一人で見て周……ろうとして人ごみを前に挫けた。護は人ごみが苦手だ。

 二年目はダンジョンに篭っていて、帰ってきてから祭りがあった事を思い出した。



 そして三年目。

 護は最近強くなる事ばかりに捕らわれていてこの世界を楽しむことを忘れてしまっている自分に気づいた。

 強くなる事を楽しむのも間違いではないのかもしれないが、人ごみが苦手とはいえ、折角祭りがあるのだから楽しんで損は無いのではないかと、ふと思ったのだ。……一人で楽しめるかどうかは別として。



「うん、去年はダンジョンに篭っていて気づかなかったけど、その分今年は楽しもうかなって思ってる。

 カリーナちゃんは親父さん達と見て周るの?」



「出来ればそうしたいところなんですけど、当日はうちにもお客さんがいっぱい来ますから、宿を空けるわけにもいかないんです」



 笑いながら言うカリーナだが、やはり残念そうだ。咄嗟に慰めの言葉を出せない護だったが、そこに話を聞いていたらしい宿の主人がやってくる。



「おいマモル、なんだったらお前が祭りに連れてってやってくれねえか? さすがにカリーナを一人で行かせるわけにはいかねえが、お前さんと一緒ならまだ少しは安心できる」



「えっ、お父さん? でも、祭りの日は少しでも人手がいるんじゃ……」



「なあに、当日までには生活に困った冒険者の一人や二人くらい捕まってるだろ。

 思えばお前を祭りに連れてってやれた事なんてほとんど無かったからな……。マモル、お前さんさえ良ければ頼めねえか?」



 はっきり言って目の前でそんな会話をされては非常に断りづらい。



「あー……っと。はい、俺でよければ構いませんけど」



 普段なら女性と二人きりなどもってのほかだが、女性とは言っても十歳の女の子相手ならそこまで忌避感がないようで、護は宿の主人の頼みを引き受けることにした。



「ああ、助かるぜマモル。ありがとよ」



「あ、ありがとうございます! マモルお兄さんっ」



 こうして、当日カリーナと二人での祭り巡りが決まった。







 祭り当日の朝、賑やかに活気付く街の喧騒によって護は目を覚ました。やや寝不足だ。

 引き受けたはいいものの、護は実の所地球の祭りも楽しんだ記憶がない。

 花火?それがどうかしたの。なんて言っていたくらいで、そんな自分がカリーナを楽しませてあげられるかどうか不安で、中々寝付けなかったのだ。



「あ、おはようございますっ、マモルお兄さん」



 身だしなみを整えて階下に降りると、見知らぬ男と話していたカリーナが顔を覗かせる。

 どうやらカリーナの代役を務める冒険者に色々と説明していたらしい。



「ちょっと待っててください、すぐ支度してきますから」



 あらかた説明は終わっていたのだろう、冒険者に女将の所へ行くように指示して、カリーナは奥の生活スペースに引っ込んでいった。



 支度と言ってもエプロンを置いて財布と鞄を持ってくるだけだ。カリーナはすぐに戻ってきた。



「お待たせしました、マモルお兄さん。今日はよろしくお願いしますっ」



「うん、じゃあいこっか。……!?」



 いざ出発しようとする護だったが、突如左手をカリーナに握られた事で硬直する。



「? どうかしましたか?」



「い、いや、なんでもないよ、なんでもない」



(だ、大丈夫、相手は子供。迷子にならないよう手をつなぐだけだ!)



 人と手をつなぐことなんて十数年以上前に体育の授業で男とつないだ以来だ。

 手汗とか大丈夫だろうか。などと考えながら護は逸るカリーナの小さな手に引かれて宿を出るのだった。







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