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しおりを挟むミステン、シルバル、アイアスは今でこそ三つの公国にわかれているが、元は一つの国だった。
その国は隣国であるドワーフの国との大規模な交易により、周辺諸国に比して大きな力を持っていたと言われる。
一つの国であった頃から、三つの地域にはハッキリとした特色があったそうだ。
危険地帯である魔の森が在るミステンは、其れを抑える為に強い軍事力を持っていた。
大規模な穀倉地帯を抱えるシルバルは、国内だけでなくドワーフの国へ輸出する食料も生産していた。
そして直接ドワーフの国と接するアイアスは、彼の国との交易を一手に担っていた。
その特色は三つの国に分離した後も、色を薄めはしても残っており、アイアスはドワーフの国との交易によって成り立つ国だ。
故にアイアスの各町もドワーフの国との交易路として、或いはドワーフの町への輸出品の生産場としての役割を持っている。
あのマルファの町も同様で、亜鉛の採掘を行う為の拠点として発展したらしい。
亜鉛は黄銅、真鍮を作る為の素材の一つで、自国内での加工はせずにドワーフの国へ輸出していたと聞く。
まあつまり何が言いたいのかと言えば、マルファのすぐ傍には鉱山がある。
ヨルムの目を借りてマルファの町を一望すれば、町中だけでなく鉱山の入り口辺りにもアンデッドの姿が確認出来てしまったと言う訳だ。
鉱山の内部は陽光を避ける為の場所としては、町の建物よりも余程適した場所だろう。
ならば大量のアンデッドがあの鉱山内には潜んで居る筈だった。
陽光の届かぬ鉱山の内部は完全にアンデッド達に有利な領域で、入り口の大きさが限られているので大軍で攻め込むには適さない。
もし仮に攻め落とさんとするならば、多くの犠牲者と、何より貴重な時間を浪費する覚悟が必要になる。
しかしまあ、それは僕が悩んでも仕方が無いのだけれども。
マルファの町でアンデッドを攻めるか、それとも別の場所に移動させてから攻めるかは、お偉方の決める事だ。
今回の戦いには既に複数の他国からの援軍が参加しており、当然大きな作戦行動に関しては各国の軍を代表する者達の協議で決まる。
お偉方に行動方針を決めて貰う為にも、今は情報を持ち帰らねばならない。
狼煙は手っ取り早い連絡手段だが、知らせれる内容は予め決めてあった単純な物だけだ。
想定される敵の数やアンデッドが籠っているだろう件は、僕自身の口で報告する必要があった。
先ずは後方のサポートチームと合流しよう。
そう決めた時、不意に背中をゾクリとした悪寒が走る。
胸に吊るした短剣を引き抜き、振う、振う。
キンキンと硬質の音を立て、投擲されたナイフを二本弾く。
しかしだ。まるでその動きを予測していたかの如く時間差で投擲されていた、三本目と四本目が振り切ってしまった短剣では如何足掻いても落とせない。
既に間近まで迫ったナイフは真っ黒に艶消しされており、何か液体の様な物が塗られている。
僕は体を逸らして角度を付けて、咄嗟に生やした鱗で飛来するナイフを滑らせた。
不自然な姿勢に傾いだ身体を、僕は重力に逆らわず地面を転がって立て直す。
嫌な汗が滝の様に身体から噴き出してる。
攻撃される瞬間まで僕は敵に気付けなかった。いや、僕だけじゃない。
僕よりもずっと敵意に敏感なはずのヨルムでさえ、咄嗟の警告が間に合わなかったのだ。
「……ふむ、不思議じゃな。今のは取ったと思うたが、坊、一体どうやって防いだんじゃ?」
首を捻りながら現れたのは、口調の印象とは裏腹に若々しい青年だった。
この戦争が始まって初めて現れた、薄っぺらい操り人形じゃない、確固とした意思を見せる敵。
アイアスがどうなってるかの現状を、恐らく詳しく知るであろう人物。
アンデッド軍の位置と共に、僕等斥候が探し続けた存在が目の前に居る。
けれど問題が唯一つ。
この眼前の相手は、確実に僕より格上の相手だ。
唯一つだけど、余りに大き過ぎる問題だった。
「可哀想に、震えておるでは無いか。しかしその年で儂との力量差を悟れるとは末恐ろしい子じゃ。実に惜しいな」
相手は此方に話し掛けながらも、まるで隙らしいものを見せやし無い。
僕じゃ到底取り押さえれやしないだろう。
恐らく彼はトーゾーさんクラスの存在だ。隣国にこんな化け物が居る何て話は聞いた事が無いのに。
全く、何が惜しいのかは知らないけれど、状況は僕にとって大分拙かった。
ヨルムには、出来れば任せたくない。
彼がトーゾーさんと同じ領域の人間であるならば、例えヨルムに任せても逃げられてしまう可能性は充分にある。
そうなれば当然、この恐ろしい相手は僕とヨルムを脅威と認識して対策を打って来るだろう。
其ればかりはどうしても避けたかった。
「おおそうじゃ。どうじゃ、お前さん儂の弟子……」
何かを言いかけた男に、僕は手の短剣を投げる。
投擲と呼べるには遠く満たない、拙いその攻撃を、彼は何時の間にか取り出したナイフで払い落とす。
けれど別に構わない。ほんの一瞬でも時が稼げた。
僕は無様に地を転がりながら、懐から取り出した発煙剤を水袋に放り込む。
次の瞬間、水袋から大量の白煙が噴き出し辺りを覆う。
転がり落ちる様に岩山を下り、地を駆ける。
あの発煙剤はパラクスさんの特製で、火に放り込んで生まれた煙は軽くて天に昇り、水を吸って生まれた大量の煙は重くて地に留まるのだ。
投擲されたナイフは飛んで来たけど、煙の発生で虚を突き視界を奪った事で狙いが甘く、鱗を生やせば弾ける角度でしかない。
足を緩めず、兎に角地を蹴り少しでも遠くへ。
相手は確かに格上の存在だったが、だからって全ての面で僕より上回ってる訳じゃ無い筈だ。
確かに隠密の達人だし、トーゾーさんとも渡り合えそうな腕の武人でもあるのだろう。
しかし煙で視界が覆われ、更には咄嗟に捕獲よりもナイフの投擲を選んだならば、その合間に僕は大きく距離を稼ぐ。
草原を走り抜け、森へと飛び込む。それでも足は止めない。
森は僕の得意とする領域だけど、その恩恵を受けても尚、恐らく隠密合戦では僕は彼に勝てないと思わされたから。
だから走る足は決して緩めたりは出来なかった。
唯一、森の不安定な足場での逃げ足だけは、きっと相手より勝ると信じて。
逃げ逃げに逃げ続け、追跡の気配が消えても尚も逃げ続ける。
僕だけじゃ無く、今度は全力で気配を探ろうとしてくれてるヨルムが気配を感じられなくなっても、気も足も緩めない。
結論から言えば、僕は無事に逃げ延びた。
サポート班と合流し、即座にその地域からの撤退も決める。
もし彼が本気になって動いたら、斥候班が片っ端から潰される事態だって充分に考えられたから。
いや、もしでは無く、きっと彼は此方の斥候を潰しに動くだろう。
今まで姿を見せなかった彼が動き出したのは、恐らくそうする事を決めたからだ。
彼の正体は撤退後、ミステンの盗賊ギルドより知らされた。
逃走の際、僕は咄嗟に黒い艶消しの、毒が塗られたナイフの一本を持ち帰り、それが彼の正体に繋がったらしい。
数十年前、近隣諸国の裏の世界を震え上がらせた、一人の盗賊が居た。
先代のアイアス盗賊ギルドの長。
逆らう者全てをヒュドラの毒を塗ったナイフを用い、己が手で抹殺して来た凄腕の暗殺者でもある彼は、本来ならば既に八十を越える老人である。
ユーディッド
age14
color hair 茶色 eye 緑色
job 狩人/戦士 rank6(中級冒険者)
skill
片手剣6 盾4 格闘術4 弓7 短剣4 逆手武器3
野外活動6 隠密6 気配察知7(↑) 罠4 鍵知識3 調薬2 乗馬1
unknown 召喚術(ヨルム) 集中(射撃精度上昇、精密作業時の精度上昇)
所持武装
鋼のブロードソード(高) ドワーフ製の複合弓(最高)
革の部分鎧(高) デススパイダーシルクの手袋(最高)
ヨルム
age? rank8(上位相当)
skill 縮小化 巨大化 硬化 再生 毒分泌 特殊感覚 脱皮
unknown 契約(ユーディッド) 感覚共有(ユーディッド) skill共有(硬化・ユーディッド)
此れまでの訓練と経験によりユーディッドの気配察知が上昇しました。
ユーディッドの装備が一部ロストしました。
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